第19話 一方的な会合

 レティシアが結界の条件を一時的に変更をすると、ベルンスト家の一行はフラベル家の使者が呼びに行った事もあってどうにか街に入ることが出来た。


 本来であれば、日の出ている時帯間に話し合いが出来るような予定だったのだが、結界のおかげで今は既に暗闇。

 一晩泊まって翌日行うのが筋だとは思われるのだが、レオナルドの意向によりそうは問屋がおろさなかった。


 「さて、始めようか。」

 緊張感漂う広間で、先程の面子にベルンスト家が加わりこれで全てが揃い、口を最初に開いたのはレオナルドであった。


 元々レオナルドとベルンスト家当主ジョニーは同い年で学園時代からの友人でもあった。

 当時から時期自領の跡継ぎという事もあり、また悩みなども似通っており意気投合するのも必然だった。


 そんな仲良し領主ではあるのだが、レオナルドに娘が出来た事で一変する。

 レオナルドが自身でも驚くくらいの娘溺愛症候群だったのだ。(そのような病はないけれど。)

 だからこそ、政略的な事を含め変な朴念仁のところに嫁に出したくはなかった。

 それならば、単純に恋愛結婚させてやれば良いじゃないかと思うのだけれど、親友だったという事と幼少時のレティシアとユータの関係を鑑みれば、そのまま一緒になれば良いじゃないかと結論付けた。



 「うちの娘、レティシアがダンジョン最奥で一方的に婚約破棄を言い渡され、パーティを親友のユーリ嬢と一緒に追放され、そのダンジョン最奥に置いて行かれた。」

 「その際に、ユータ殿から15の頃からポートマン家令嬢と肉体関係もあったと捨て台詞のように置いて行ったと事。」

 言葉の端々に嫌味や圧力を持たせている。面と向かって怒号を発するよりも精神的にボディブローのような一撃を与えている。


 「許嫁の件は私とベルンスト伯爵の口約束により始まった事だが、当時の子供達は喜んでいるように見えた。」

 「だからこそ、今でもそれが続いているものだと思っていたのだがね。どうやらユータ殿はうちのレティシア天使がお気に召さなかったらしい。」


 「成長と共に好き嫌いが変わるのが悪いとは言わない。しかし時と場所と言い方は考えるべきではないか。」

 「婚約については後に王家と公爵家公認のものとなったのだから、白紙にするにしても正式な手順というものがあるだろう。」

 レオナルドはまだまだまくし立てる。他の人の発言を許さないかのように。

 


 「それなのに、ダンジョン最奥でパーティ追放のついでに婚約破棄を言い渡し、3年前から別の女とよろしくヤってたとはどういう了見だろうねぇ。」

 大事な事なので言葉を変えて二度言うレオナルド。


 「私は脳筋だからわからないよ。ジョニー、君の息子はフラベル家と戦争したいのかな。」

 ジョニーの顔は青くなっていた。

 


 「私自身、王家も公爵家もフラベル家も敵には回したくはない。だから事実と思った事しか述べない事を誓う。」

 

 「まず、今回の件については申し開きも出来ません、まことに申し訳ございませんでした。」

 深々と頭を下げるジョニーの姿勢に偽りは感じない。頭を下げた先にはレオナルドとレティシア。

 二人共顔色一つ変えずに、その90度に曲げられたジョニーを眺めていた。


 数十秒後、顔を上げたジョニーは言葉を続ける。

 

 「黒い百合と共に手紙が届いた直後、一度だけ愚息は戻ってきた。パーティメンバーは宿屋に泊まり街を回遊していたようだけれど。」

 「愚息は例のポートマン家の令嬢、アリシア嬢を連れて……レティシア嬢との婚約は自分が破棄した、アリシア嬢とは3年前は隠れて愛を育んでいたけれど、ようやく真実の愛を堂々と貫く事が出来ると。」


 「もちろん私はもしたが意思は固いようだった。場合によっては勘当も視野にいれなければならないとも伝えた。」



 これまで黙っていた王家側より挙手があり発言を始める。

 第一王女、レーアであった。


 「ベルンスト家子息はフラベル家がどのような位置関係にあるかご存じないようですね。」

 「近年魔族との交戦が少ないのも、フラベル家の牽制が大きいという事をご存じないご様子。」

 「ベルンスト家がそれを止めたり、国から独立したり隣国と手を組んだりしたらどうなるかご存じないと。」

 「そういうわけですよね。フラベル辺境伯の娘溺愛はともかく、彼の本来の思惑でもあるベルンスト家子息との婚約というものは……」

 「恋愛結婚半分・政略結婚半分と、両方を条件を満たすものだったというのに。」

 第一王女、レーアの言葉は真実である。

 フラベル家のおかげで魔族は大規模な侵攻はしてきていない。

 魔の森と呼ばれる南東の森そのものはともかく、そこより先には進出してきていない。

 魔族も割に合う合わないを計算できる生き物。

 フラベル家を相手にすると大打撃は免れないため、無駄に進行はしない。

 寧ろ一種の無言の停戦協定でも結んでいるかのように、南東の森を境に互いの行き来は行われていない。


 それが長年の小競り合いの末に辿り着いた魔族側の見解だった。


 この楔とも言えるフラベル家がその役目を放棄した場合、どうなるかは想像に易い。

 最悪の場合は手を組んで王国に牙を剥く事まで想定される。

 大打撃を受けてまで侵攻する理由がないため魔族は大人しくしているが、大打撃を受けないとわかればどうなるのか。


 さらに南にはエロフの森も隣接されており反対側……北東は他国に隣接している。

 フラベル家の持つ役割というものは王国にとっては大きいのである。

 それだけの抑止力となっているのである。


 たかだか一つの婚約破棄であるが、一歩間違えば王国にダメージを与える諸刃の剣でもあった。

 それがフラベル辺境伯爵領という存在だった。


 「勇者パーティ、数年後に控えた魔族との戦いはどうするんだろうね。最終的には魔王討伐も王は計画しているというのに。」

 王族の一部、一派というべきか。

 第一王子、カオスの言う事はもっともだ。

 レオナルドの決定如何によっては王国は最悪滅びの道への片道切符を手にする事になる。


 王国では現在維持を推す派と、大人しくなっている期間に力をつけて魔族に打って出ようと考えてる派とに分かれる。


 天職で勇者等唯一無二を取得した者達は、その来るべき戦いの日のためにダンジョンで鍛えてきた。

 王と教皇の命によって。


 ユーフォリアの眉がピクりと動いた。しかしその様子に気付いたものはいない。


 王族と上位貴族の機密事項を、Sランクで伯爵相当とはいえ一般の人間が聞いている。

 誰もその事に関しては不都合を感じていない。


 

 「私はフラベル家と事を構えるくらいなら、王籍をドブネズミにくれてでもフラベル家に亡命するわよ。その方がシアと一緒に居られるし。」


 第一王女、レーアがとんでもない爆弾を投下した。


 「うちの子、同性にモテまくってるのは気のせいかな?」


―――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 そろそろユータ君のお話も必要ですかね。

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