第9話 畜産に夢を見る少女?

 「うへへぇ。」

 素材買い取りのお金を受け取りダラシナイ表情をしているレティシア。

 これでも貴族家の次女である。天職は聖女である。


 思いの外買い取り金額が多く、個人で使えるお金という事を考えれば無理もないのかもしれない。

 貴族の娘といってもあくまでそれは実家の蓄えであって自分のお金ではない。 

 領主のものであるし、一家のものである。

 個人財産ではなし、一家の財産というわけでもない。

 領地を運営する以上、領のお金と捉えられても過言ではない。


 代々の領主は、運営資金と家の財産は分けている。

 だからこそ毎年予算の枠組みをしっかり管理しているのであるが……


 脳筋ではあっても博識でないわけではない。

 良く言えば文武両道と言えた。


 だからこそ、寄子の下級貴族はゼロとは言わないまでも不正をしようとは思わない。

 不正が明るみになった際の罰則及びその執行力は他に比べて厳しい、そこは脳筋の成す業とも言えるが。


 不正とは言わないまでも今回の騒動、ユータからの婚約破棄に関してはどうなる事やらといったところではあった。



 話は逸れたが、子息・令嬢達にも一般家庭と同じくお小遣いは貰える。

 一般家庭よりはその金額は当然多いけれど。


 そんなお小遣いが欠けた小指の欠片に感じてしまう程の金額を目の当たりにすれば「フヘへ。」となっても仕方がない。


 「シア、だらしなくなってますよ。」

 ユーリも大概目が輝いてはいるのだが、レティシアに比べれば見た目は普通であった。



 「さ、見るだけ見たので預金するわ。」

 ギルドでは預貯金システムも存在する。

 冒険者カードには特殊な技術で魔力が込められており、預貯金額の登録が可能である。


 名前等が記載出来るのだからお金の記載も出来ても不思議ではない。

 それをぱっと見、見れないようにするだけの話。

 きちんと入金・出金の額や日時も記載出来るのだから優れモノではある。


 「流石に貴族が住む家は無理だけど、一般家庭の家くらいなら土地付きで買えそうだね。」

 ちなみに工房に関してはパパンがお金を出している。

 なんでも自分が勝手に組んだ婚約のせいで、娘を苦しめていまったからだという謝罪の気持ちらしい。


 ゴールデンスライムやオークロード以外にも買い取りはしている。

 あくまで総額である。

 木材や石材、木材等は工房作成に必要なので買取には出していない。

 エルダートレントや〇〇ゴーレムなどの素材もあるので、もし買い取りに出していれば金額はもっと跳ね上がっている。


 「手持ちは学生時代のお小遣いに少し上乗せするくらいで充分です。」

 レティシアはそうは言うけれど、一般家庭に比べたら桁が違うのだけれど。


 「一度金貨のお風呂に入って見たかったですけどね。」

 身体には良くなさそうだけど、夢はあると思うユーリだった。


 「スライム風呂なら用意出来るよ。」

 レティシアの返しはどこかおかしかった。


 「え、えっちいのはいけないと思います。」

 顔を真っ赤に染めたユーリ。一体何を想像したというのか……

 お漏らし以来、少しユーリが大人しくなっていた。


 レティシアの言う、スライム風呂とは別に女性の衣服だけを溶かしてあっは~んうっふ~んな風呂ではない。

 浄化に特化したスライムをダンジョンで捕獲しているので、不純物のみを吸収・捕食する特製を持つため、遠征時などにとても便利なスライムでもある。


 一部のマニアは尻の穴から入れて腸の中で飼っている者もいるという。

 後ろの穴が好きな一部マニアには、常に洗浄されている尻を確保するため、高値で取引されているという事実もあった。

 さらなるマニアもいるのだけれど、そこは特筆すべき点ではなかった。


 後は、奴隷市場にも浄化スライム(通称)は重宝されていた。

 毎日風呂に入れていては奴隷商も維持管理が大変である。

 浄化スライムがいれば、時間こそ必要なれど定期的な洗浄が可能となる。


 「さて、小腹が空きましたね。久しぶりですし、ギルド併設の食堂にいきましょうか。」

 レティシアの要望にユーリは頷く形で移動した。



☆ ☆ ☆


 メインである最上級ステーキセットを食べ終わり、満腹満腹とお腹をさするレティシア。

 「お下品ですよ。」とユーリにたしなめられるが、レティシアは気にせずさすっている。


 「妊婦みたい……」

 小さい頃見た母親の弟妹を身籠っていた時のお腹を見た事を思い出しながら擦っていた。



 「羊食べたい……」

 残念ながら羊肉はあまり出回っていない。

 王都であればあるのだけれど、フラベル領には羊牧場がない。

 牛や豚はあるのだけれど、実の所ミノタウロスやオーク等魔物の方が美味だったりするため畜産はあまり盛んではない。

 理由の一つとして盗賊等が食料欲しさに奪ってしまうのと、細菌等よくわからない病気等に対抗する手段が殆どないため現実的ではないためだった。


 魔物には、特にダンジョン産の魔物にはなぜかそういった病気がない。

 空間収納やマジックバックのような、異空間を利用した持ち運びは移動に伴う汚染もないために、安心して卸せる。

 そうしてた理由から畜産する人は少ない。


 行商もあまり通らない田舎であれば、自分達の食料のために畜産している所もあったりはするのだが……

 そういった理由で肉もだけれど、乳も貴重である。


 「牧場経営すれば食生活も変わるかなぁ?ミルクとかも流通量は多くないですし。」

 

 などとユーリと会話しているレティシアの元に一つの声がかけられる。


 「もし?貴女がゴールデンスライムを卸した人かしら?」

 レティシアが後ろを振り返るとそこには先程の橙色の髪をしたSランク女性冒険者・ユーフォリアが立っていた。

 

 

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