二十五話目

 「戦争を終わらせる?」

 ウィルサールは目を軽く見開いて私を見た。ウィルサールにはニコライのことを伝えた。すると少し不満そうに顔を顰めた。

「それは、なんのために?」

 それまたおかしなことなんだと私は笑った。

「ニコライの想い人が戦争で怪我してしまってな。」

 さらにウィルサールは顔を顰めた。

「はぁ、それ感情論じゃん。そんなんで戦争やめられたらとっくに終わってるんだけど。我が国でもアンタの国でも戦争嫌いはいるだろ?」

 全くその通りだ。ニコライは感情に身を任せて行動しているのだろう。しかし、私が認めた理由はもちろん私にとっても利益があるからだ。

「こちらもなかなか物資や土地がやられてしまってな。そろそろやめてもいいと思うんだ。」

「今焦って底尽きたら戦争負けるぞ?」

 やはり全くの意見。私はじっと感情が感じ取れないウィルサールの目を見つめていた。ウィルサールはそれに気づくと顔を顰めた。そしてそれをジト目で見上げた。顔をそらすとこう言った。

「余裕があればサポートする。」

「助かるよ。」

 本当は余裕なんて有り余っているのに。ワタシは笑った。暗闇の中で声を上げて笑った。




 もう何時間たっただろうか。痛む体は柔らかいベッドの上。呼吸をするだけで体が痛む。暖かな日光が眩しくて目が開けられない。しかし外はおぞましい音が響き渡っていてとても良い目覚めとは言えない。外はまだ戦争中。いや、じきにここも攻撃される。そばには生きてるかもわからない適当に応急処置されている男が何人も横たわっている。

「おはようさん!」

 そう元気に言ったのは私よりも声が高い少女だった。見ると軍服でスカート、ツインテールは羊の毛のようにもふもふな白い髪前髪は眉毛よりも上に短く切られていた。しかしそれが子供らしくまた可愛らしかった。青い瞳は私を映していた。

「本当に災難だったな!」

 明るい彼女はほんのりビルを思い起こした。彼女は私のベッドに腰掛けた。

 そういえばビル、帰ってこなかったな。約束、したのになぁ…。明るく輝くお兄さんみたいな優しいビルは私にとって大切な存在だった。ニコライに再び会えたのもビルのおかげだし。ビルには沢山救われた。それなのに私は何もできずに、礼も言えなかった。ビルに帰ってきてほしい。

「アンタ、軍人さんなんだね!私とお揃い。」

「…ありがとうございます。」

「………なぁ、可愛い私の後輩ちゃん。」

 彼女は妖しく優美に笑った。

「アンタはなんのために戦争をしてるの?」

 私はその質問にすぐ答えられなかった。なんで…。なのかな?

「命令されてるから、無実な人を殺すの?」

 その瞳は冷たく私を軽蔑するようだった。

「…違います。」

 私は、命令されてるから戦争をしているわけではない。そう思った。

「じゃあ何なの?止めようと思わなかったの?それとも戦争がしたかったの?」

「……。」

 私は言葉を失った。頭にガツンと殴られたような痛みが走る。

「国のため?国のために国民を殺すの?国民なしでは国は成り立たないのに?」

 そう言う彼女は正論ばかりを冷たい声で言った。どこか怒りが含まれている。

「私は、弱いですから。戦争なんてできないし、止められません。でも、怖くても戦う理由は私が皆さんに恩返しをしたかったからです。私よりも遥かに未来を見つめ利益を優先する彼らを私は支えたい。だから戦争をします。」

 すると彼女は相変わらず冷たい軽蔑するような顔で私を見下していた。私は愚か者だろう。彼女の言う通りだ。

「ごめん。時間取って。私はビクトリア。」

 ビクトリアは艶美に歩き去ってしまった。そして暫く私はビクトリアの言葉を頭の中で繰り返した。

  

 

 

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