二十話目

 戦争は私の思っている以上に悲惨なものだった。ドタドタと足音、高くて鈍い爆弾の音、銃声。ダニイルや隊長の怒鳴り声と泣き声悲鳴。耳を塞ぎたくなるものだった。私は思っている以上力がなく足手まといだった。涙なんて出過ぎて枯れてしまい目が痛い。銃に撃たれた右手をゆっくり擦りながら外を見る。あぁ、怖い。逃げ出したい。けれどそんなことできる程余裕なんてない。怖い。体が震える。

「マイク隊員!弾を運べー!!」

「はァいっ!!!」

 ダニイルの迫真な声に答える隊員。バタバタと弾を運んで戦車に詰める。科学研究部隊は軍需機器発明部隊と共に兵器を作成している。でも、全く集中できない。恐怖で手が震えるし、部隊長の声はかき消されるし頭がくらくらする。すると、後ろから、風圧を感じた。焦って見てみてば革のロングコートをきた総統様だった。しゃがむとゆっくり私の背中を撫でた。

「落ち着け。落ち着いて手元を見ろ。深呼吸だ。いいな?」

「は、はい。」

 私はその温かい手が背中にあるということを捉えながらゆっくり深呼吸した。そしたら、私は何故かあまりあの迫真な声が聞こえなくなった。いや、音が遠のいたといったほうが正確だろう。すると総統様は笑い手を離した。

「流石だ。我が外交官のニコライの旧友よ。」

 そしてブーツをかつかつ鳴らしながらその場を去った。




 俺は総統アレクサンドルのそばで銃を構えていた。左腰にある剣の重みを感じながら。敵が来たら撃つ。を繰り返していた。

「やっぱりX共和国の兵士だな。」

「あぁ、X共和国は少し喧嘩腰だったからな。」

 あの国はもともとこうするためにアレクサンドルを陥れようとしていたのだろう。今回ばかりはウィルサール国王に救われたな。

「なぁ、アディーレどうだった?」

 そう聞くとアレクサンドルは俺の顔を見てニヤニヤ笑った。

「ほう、気になるか?」

「もったいぶるなよ。」

「大丈夫だ。さっきは背中を撫でてやってからだいぶ落ち着き手元を見れるようになった。」

 俺は安心したのを覚えてる。この義足はドラジエントとアディーレが作ってくれたもの戦果を上げて礼をしなくては。

「ビルの方は?」

 するとアレクサンドルの顔が暗くなるのを感じた。あぁ、やっぱりか。

「わかってるだろ?見てわかる通りビル達を送ったX共和国の兵士が襲ってきている。連絡も途切れ始めた。」

「援軍を?」

「しかし今から送ったて相手には警戒されてるのだからすぐ駄目になる。からジェット機を向かわせた。対戦車用と共に。」

「そうか…。」

 アディーレはきっと悲しむだろうな。そう考えると胸が苦しい。とりあえずクライに情報を提供してもらおう。ビル達の集めた情報は部隊長であるクライの方に送られるから。

 火の海の赤い戦場。黒い煙と赤い空に浮かぶ黒いジェット機の影。そこら中で響く銃声と爆発音と悲鳴。地獄絵図。

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