十四話目

 俺はいつもに増してバタバタしている基地に違和感を覚えた。車椅子を押すのにも慣れてしまいよく動く。アレクサンドルに会いに行った。するとアディーレがいることに気が付いた。そばにはアディーレと身長の近い少年がいた。仲よさげに歩いていた。暫く見てると後ろに気配を感じた。

「どうかしたのかね?」

「あぁいや。見慣れない奴がいるなと思って。」

 俺がそう言うと「ふむ」と頷いてアディーレに声をかけた。そして俺のそばに連れてきた。アレクサンドルは見慣れない少年の肩を掴むと俺に言った。

「彼は噂の天才機械技師だ。ようやく手に入れた。挨拶しておけ?これからお前ニコライの義足作りを担当するから。」

 俺は複雑な気持ちでアディーレに手招きした。そして耳元で言った。

「これが噂の?本当に?」

「うん。そうだよ。ドラジエントっていうの。」

 俺はあまり良い気持ちではないが取り敢えず少年を見た。少年は少し恐れたが俺にお辞儀した。

「ぼ、僕に任せてください。」

「良い自信だな。期待してるから。」

 何故こう冷たい声が出たのか自分でもさっぱりだったが特に考えずアディーレに笑って手を振ってアレクサンドルを連れて総統室に向かった。



 総統室につくとアレクサンドルはニヤニヤ笑った。

「いい年して嫉妬とは醜いぞ?」

「は?嫉妬?俺が?」

 嫉妬なんて言葉を聞くとは思わなかった。嫉妬していた?誰に?そう悩んでいるとアレクサンドルは「自覚なしか」と軽く笑って椅子に座った。

「まぁいい。で?なんの話がしたいんだ。」

 俺はアレクサンドルの見つめて言った。

「戦争のことなんだけど。」

 “戦争”と耳にした瞬間アレクサンドルは顔色を変えた。そして俺を見つめた。ブロンド髪が揺れてワインレッドの瞳が鋭く俺を映す。

「戦争がどうかしたか?」

「どうせこの戦争、世界大戦になるだろ?」

 俺は溜め息混じりにそう言った。

「あぁそうだな。C社会主義連邦が沢山の国と同盟を結んだお陰でな。」

「つまり長期化が見込まれる訳だろ?俺等も他に援軍を送るべきでは?」

 つまり、こちらも戦争に備えて同盟を結ぶべきだ。いくら強い国だからって油断はできないし、前回の戦争でかなりぎりぎりだった。そしてもう一度戦争をするなら少なくとも相手は前回よりも強くなっている。それは、俺よりアレクサンドルの方が理解しているから説明する必要がない。アレクサンドルはニヤリと笑った。

「それなら大丈夫だ。あの噂の“紅の軍隊”に話をつけた。」

「紅の軍隊?」

 紅の軍隊とは所謂都市伝説的なもの。紅い軍章で紅い軍帽を被った軍隊。人離れしている運動神経と不死身の身体。そんな嘘くさい話に登場するのが紅の軍隊。

「前にお前に外交をさせただろう?」

「あぁ、R王国の?」

 するとアレクサンドルは妖しく笑った。

「そうだ。そこの王と話をしたんだ。そこで俺は聞いた。


 紅の軍隊の話を。


 すると王はこう言った。


『あぁ、オレの支援兵な。』と。同盟を結ぶならその正体について明かしてくれると言った。だから私は彼に同盟を願った。そして彼は言った。紅の軍隊はAI、機械であると。R王国が人工知能などをよく使うのはわかるな?しかしあの不死身の身体は機械だった訳だ。」

 R王国は若い、若すぎる王が指揮をする国。しかし、武力も工業力も高い国。まさかアレクサンドルはそんな国と同盟を結んでいた。

「これはゲリラ戦になるな…。」

 俺が呆れたように言うとアレクサンドルは子供みたいに笑った。

「だな!何なら長期化も見込まれるな!」

 こんなガキみたいな総統アレクサンドルはいつだって俺らの上で高みの見物。チェスみたいに駒を動かす総統閣下。戦争になると人が変わる戦争家だ。

 机に置かれたレッドワインに口をつけた。アレクサンドルも口をつけると妖しく笑うだけだった。

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