episode10 留守番

 昨日の私はちょっと、いや、かなりどうかしてたと思う。

 一緒にお風呂入ろうって言ったり、風呂場で抱きついたりとか、そして終いには、

 いきなり時間限定の恋人になって欲しいって言って、舌の入れたキスしてほしいとか。

 ああああああもうっ!

 昨日の私はやっぱりどうかしてた!

 でもさ、仕方ないじゃない、翔あんなに優しいんだもん。

 私の欲求も嫌な顔せず受け止めてくれるし、声も優しいし、抱きしめてくれるし、キスもとろけるように気持ちいいし。

 そう、柚凪は今までの寂しさをぶつけるかのように翔に甘えてしまったのだ。


 はあ、もっと好きになっちゃうよ………


 ──ああっ!私のばか!

 なんで昨日寝ちゃったのよ!

 もしかしたら最後までできたかもしれないのにぃ……うぅ……。


 と柚凪は授業中、ニヤけた表情をつくり、頬杖をつき、昨日のことを思いふけていた。


「岸山さん?大丈夫?」

「え!あっ、はい」


 上の空なとこを国語の先生にたしなめられ柚凪ハッと我にかえった。

 だが、柚凪の頭の中は宮島翔のことで頭がいっぱいである。

 ──例えばそう、昨日の帰り、翔に家まで送ってもらっているときに、一つとても嬉しいことが決まったのだ。

 というのも、翔と一緒のところでバイトをすることになったのだ。

 それは昨日の帰り道、翔の方から提案してきたのだ。


『柚凪さ、もし嫌じゃなければなんだけど、オレの働いているファミレスで柚凪もバイトしないか?』


 柚凪は驚いたのことが2つあった。

 一つは翔から同じバイトを誘われたこと。

 これは言わずもがな嬉しかった。

 そしてもう一つ。

 恋人の時間が終わったのに、いつもの敬語を使わずタメ語だったこと。

 思い返してみれば、さっきから、やけに敬語とタメ語を織り交ぜた会話を翔はしていた気がする。

 それが完全にタメ語になった。

 これは、翔との距離が大幅に縮まったような気がしてとても嬉しかった。


『うん!やる!』



 ということで、放課後、翔の紹介ということで柚凪は軽い面接を受けることになった。

──そしてなんなく採用された。

 なんでも、最近バイトの一人が複雑骨折をしてしまったようで空きができてしまったらしく、ちょうどバイトが必要らしかった。

 だから、ほぼ確実で受かるよと翔は言ってくれた。


 面接を終え、事務所を出ると、翔がファミレスのウェイター姿で接客をしていた。

 普段は見せないような愛想のあるキリッとした笑顔で接客をしている。

 注文をしているjk3人組はスムーズに商品名が言えてなかったり、翔のかっこよさにキョドってるように見えた。 

 たしかに、あんなかっこいい人にあんな接客されれば私もキョドってしまうだろう。


 翔は注文を受け終えると、振り返り、こちらの方に歩いていた。


 ああああ……どうしよう……

 制服姿の翔、かっこいい。

 ──そだ、とりあえずバイト採用されたこと報告しなきゃ。


「あ、柚凪」


 翔は私に気づいてその場で足をとめた。


「あ、翔、面接終わったよ」

「どうだった?」

「うん、受かったよ。来週から入れるって」

「そうか、良かったな」

「うん」

「あ、そだ、これ」


 翔はそう言うとズボンのポケットに手を入れガチャガチャとしている。

 そしてポケットから取り出し、私に差し出した。


「え…これっ……」 

「家の鍵だよ。」

「でも、なんで?」

「家に入れないと困るだろ?」


 翔はさぞ当たり前だろう。みたいな感じの口調でそう言い、私の手のひらに鍵をおいた。

 

「え、あ、うん、ありがとう」

「それじゃ、またあとでな」

「じゃ、また」


 私は厨房に入っていく翔に小さく手を振りファミレスをでた。


 帰り道、私の顔は終始ニヤついていた。

 翔に渡された鍵を握りしめ、私はルンルンとスーパーに向かった。

 ──今日こそ、翔にご飯を作るのだ。

 といっても、今はそんなにお金がないからそんなにいいものは作れない。

 今の私が精々作れるものとしたら──

 オムライスだ。


 そして、スーパーで卵と、冷凍の野菜ミックスを買った。

 米とケチャプは昨日見たときに家にあったので、大丈夫だった。


 翔の家の前にについた。

 翔に渡された鍵を回しながら、私はふとこんなことを思った。

 ──なんか同棲している恋人みたいだなあと。

 同棲する証として渡されるものが言わば合い鍵。

 無論、私が握ってるのは合い鍵じゃないけど、そう考えると無性に気分が高揚していく。


「ただいま──やっぱりおじゃまします」


 同棲感覚でただいまと言ってみたが、やっぱり、ここは翔と翔のお父さんの家だ。

 礼儀はしっかりしなきゃいけない。

 というか、翔は翔のお父さんに許可はとっているのだろうか。

 夜勤だからこの時間はいないって翔は言っていたけど、やっぱり知らない人間が一人で自分の家にいるのは気持ち悪いものなのではないだろうか。

 その辺は大丈夫なのだろうか。

 翔のお父さんが帰ってくるまでに帰れば大丈夫みたいな感じなんだろうか。 

 よく分からないけど、鍵まで渡してくれるってことは信用されてるってことだ。

 それと、翔は多分私を心配してくれてるのだと思った。

 あの家にいると、暴力を奮われる可能性があるから自分の家に居ていい。とそんな気がした。

 

 現在、時刻は6時半。

 翔の家に入り、まずはキッチンにお邪魔させてもらった。 

 そしてオムライス用の米を炊いておいた。


 ──やることがなくなった。

 翔は9時半くらいにバイトが終わるって言ってたから、オムライスを作るのは9時くらいでいいと思う。

 オムライスだからそんな変わらないと思うけど、できれば出来たてを食べてほしい。


「あぁ……翔の家の匂い……落ち着く」


 そう言いながら柚凪はリビングのソファに座った。

 

「昨日のあれ、凄かったなぁ……」


 柚凪は昨日、この部屋で翔としたことを思い出し、頬を赤くした。


「またしたいって言ったらしてくれるかなぁ……」


 と、翔に対する思いが独り言の如く漏れていく。


「でも、もう恋人じゃないし………

 いっそのこと、本気で告白しようかな……

 そして、成功したらキスの先も………

 あああああああアッ!もう!

 なに考えてんの私!」


 柚凪の独り言はヒートアップしていき、赤くなった顔をソファに埋め、足をジタバタし、ソファの上を転がる。


──ドズンッ


「あ〜、いったー」


 ソファから転げ落ちた柚凪はハッと冷静さを取り戻す。

 そう言えばここは翔の家だ。

 バタバタうるさくしていると下の人に迷惑がかかる。

 ということは、苦情がきて翔にも迷惑がかかることになる。

 そして、私はもうここにいられなくなってしまうかもしれない。

 それは嫌だ。

 大人しくお留守番しよう。

 柚凪はソファに座り直し、リビングの回りをグルーっと見た。

 そして、柚凪は本棚にあったおもしろそうな漫画を取り、時間をつぶすことにした。


 ───


「あぁ〜、おもしろかった!後で翔と語り合おうっ」


 漫画を一気読みしているうちに、時刻は9時に差し掛かっていた。

 後、30分ほどで翔が帰ってくる。


「そろそろ作りますか」


 柚凪はキッチンに向かい、炊飯器からご飯をだして、チキンライスを作った。

 そして、次はチキンライスに乗せるたまごをつくる。


「ふぅ…なんとかうまくできたわね」


 レシピで見た通りのふわっふわのたまごを作ることができた。

 翔はおそらく後10分後くらいに帰ってくるだろう。


「さて……ここからね」


 オムライスといえば、たまごの上にケチャップでメッセージや絵をかく。

 デミグラスソース派の人もいるが冷蔵庫になかったのでケチャップでいいだろう。


 んん〜なにをかこうかな。

 やっぱ♡マークとかがいいかなあ。

 新婚カップルらしく。

 んん〜でもやっぱ。


     『ありがとう』


 そうかいて、翔の帰りをまった。




「ただいまー」


 翔が帰ってきた。

 私は足早に玄関に向かいお出迎えをした。


「おかえりなさい、ア・ナ・タッ」 

「なんだその変な呼び方──って、ん?なにか作ってくれたのか?」


 翔がくんくんと鼻をひくつかせながらそう言った。


「そうっ、なんだと思う?」

「オムライスか?」

「うおっ、なんで当てちゃうの」

「ファミレスで毎日嫌というほど運んでるからな、自然と匂いは覚える。」 

「なるほどねっ、じゃあはやく食べよ!

 あ、それとも先お風呂にする?

 一応沸かしといたけど。」

「いや、いいよ、先食べる。」

「わかった!」



 リビングに座って待ってる翔に柚凪はオムライスを持ってきた。


「はいっ、どうぞ!」

「おぉ、うまそう。でも、『ありがとう』ってオレが言うことだろ?作ってもらってるんだし。」

「や、そういうんじゃなくて、なんか、その、一緒にいてくれてありがとう的な感じのありがとうだよ」

「そうか、んじゃま、いただきます」


 翔はパクっと一口オムライスを口に入れた。


「ど、どう?」

「柚凪──」


 翔は私の肩にポンッと手を置き、


「お前、ほんとに料理できるんだな」


 と私の目をまじまじと見つめ言った。


「ちょっとどういうことよ!」

「あはは、ごめん。でもまじでうまくて驚いた。」

「え、ええ〜そう?喜んでもらえて嬉しいな」

「ああ、また作ってくれよ」

「いいよ」



 その後、お風呂から上がってきた翔に私はまた存分に甘えた。

 昨日で恋人の関係は終わったはずだけど、私が翔に肩を預けると、翔も自然と私を抱き寄せてくれたし、とろけるようなキスもしてくれた。

 キスをしていると、自然とそういうムードになっていくもので、翔は流れのままに私の胸に触れた。


「あんッ……」


 初めて男子に胸を触られ、情けない声が出てしまった。


「あ、つい…ごめん。」

「別にいいよ……翔なら」 

「柚凪──チュッ」




 結局、私が帰るまでの時間、ずっと二人でイチャついた。

 心も体も、この短期間で私は翔に依存してしいた。



 

 

 

 

 




 



 



 



 

 

 




 

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