第6話 冒険者と男とドラフトと

 どうやら自分達は都市伝説の実験に成功したのではなく、とある魔術師による召喚儀式によるものだったらしい。

 らしい、というのは意識を取り戻した時には既に死んでいたからだ。

 公人達を保護した【外界への翅タラリア】によると、都市の外で見つけた怪しげな魔術師の調査の依頼があったのだが、魔術儀式を確認した為に強引に確保に及んだ。激しい抵抗があったものの魔術師は死亡。しかし儀式は既に成功しており、公人と主が召喚された、ということらしい。

 魔術師はいわゆる札付きというやつで、召喚儀式もよからぬことに使うつもりだったそうだ。それを聞いた時は、思わず身震いした。

 しかも最悪なのは、召喚儀式はあっても、召還儀式は存在していないのだという。

 つまり、帰るすべがない。

 公人と主は、異世界の生活を余儀なくされたのだった。


 それから五年が経った。

 公人達はそのまま【外界への翅タラリア】に所属し、冒険者として所属することになった。

 最初は同じチームで活動していたが、今は主と袂を分かち、別々のチームを組んでいる。

 公人の勝手な都合だ。故に再会の度に親しみよりも気まずさが勝る。

 元々行儀の良い口ではなかったが、最近は主相手だと悪化するは自覚している。


「それがそうでもないんだよ。ルーイエ区に朝から入れるお店が出来たんだ」

「金持ちの街じゃねえか」

「奢るよ?」

「当てつけかコノヤロー」


 冒険者として公人と主には格差がある。

 公人は熟練者。主は達人。同期でありながら、既に主は先に進んでいた。

 野球で例えれば、プロ入りしたもののロクに試合も出られない選手と、ドラフト一位指名で数々の功績を残す期待のルーキー。同じ新人でも活躍が違えば年俸も違う。

 今に始まったことではない。一緒にいた時から薄々感じていたことだ。

 強いて勝っている点を挙げるとすれば、まだクランの寮に住んでいる主に対して、公人はそれなりに良い立地に居を構えている。が、本当はキャシーの住宅で、公人とレオナは間借りしている居候に過ぎない。

 しかもだ。主が侍らしている美少女三人。その三人が全員、主に恋している。

 まだ主と同じチームにいた頃だ。呼び出された部屋に、二人っきり。頬を赤く染め、どこか照れくさそうに待っている。――期待するなと言う方が無理があるだろう?

 しかし伝えられた言葉は愛の告白ではなく、主の好きなもの好みのタイプ好きな仕草etc……。それが三連続。


 日本にいた時から、ずっとそうだ。

 公人が女子に話しかけられる時は、いつも友人の主のことばかりだった。


 ……はは、今思い出しても笑える。


 笑えない。

 その時初めて、冒険者としても男としても負けていると気づいたのだ。


「……さっきも言ったが、これから仕事なんだ。ノンキにメシ食ってる暇ねえんだよ」

「そっか。残念だ」


 本当に残念そうに眉尻を下げて笑う。

 こういう素直なところが女性にモテる秘訣なのか。自分も素直にしているつもりなんだが。


「そうそう。時間が出来たらクランに来てくれって、親方が」

「オヤジが? なんで」

「さあ。急ぎじゃないらしいけど」


 公人のチームはクラン内で唯一、寮の外で生活している。とはいえ住所は伝えてあるから、伝言を頼んでいる以上、急用ではないことは間違いない。

 だが心当たりがないのに呼び出されるのは心臓に悪い。


 ……クビ宣告じゃないよな?


「……分かった。余裕があれば仕事終わりに寄る」

「うん。分かった」


 話は終わりだ。

 元から公人から話す話題はないし、主も他に用事もなさそうだ。


「おーい。出るぞー」

「な、なるほど、そんな方法が……」

「ふふっ、まだ初心ねえ。他にはねえ……」

「きゃー、キャシーだーいたーん」

「き、キミトにそんな癖が……⁉」

「意外でしょ? そのせいでこんなことがあってね」

「出・る・ぞ!」


 なんだ俺の癖って。そんな変な癖があったのかむしろ自分が気になる。

 戯れている女性陣+おっさんを引き離し、公人は酒場を出た。

 背中に友人の視線を受けながら。

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