第12話 下校

俺と南は

あの日から毎日一緒に帰るようになっていた


「南ってさ

部活、大丈夫なの?」


そう聞くと

南は微笑みながら


「退部した

うち部活厳しめだから

休んだりしてると

先輩が煩いから」


確か

南はバレー部で

けっこう頑張ってたよな・・・

一年なのにレギュラーだったし


「勿体ないな

皆に止められたろ?」


南は全く未練がなさそうに

晴れやかな顔で


「顧問の先生からは止められた

でも

他からは何も言われなかった

最後は無視だった」


「そうなの?」


「一人抜けたら

誰かが上がれるし

私が辞めた理由が

皆からしてみたらムカつくからじゃないかな」


「へ~」


南は俺の前に立って

歩きを止めるように前をふさいだ


「”へ~”って他人事っぽく言うけど

やめた理由は壮くんだからね」


「そうなの?」


「そうだよ

壮くんと一緒に帰りたいからやめたんだから」


分かってるよ

分かってる

俺だってそこまで鈍感ではないよ


だけど

今はこんな態度で居させてよ


俺は真緒が好きなんだ


南は良い子だし

可愛いし

何より

俺なんかにそんなに一生懸命にくっついてきてくれる

だから

俺、嬉しいし

一緒に居て楽しい


だけど

今は、南の気持ちに応えられない


自分の気持ちには嘘はつけないよ

ごめん


「南、変な奴」


そう言って南を避けて

俺は歩き始めた


南はすぐにそれを追いかけて

横に並んで歩いた


俺たちの下校は駅まで


お互いにそこからは逆方向だし

彼氏彼女ではないから

送らないよ


でも

南はいつも

駅に着くと

帰るのを渋る


駅前のベンチで少し話をして

2本電車を見送ってから

いつも俺が切り出す


「俺、次で帰るよ」


「うん」


「南は?」


「壮くん見送ったら

私も次で帰る」


「お前の電車、もうすぐ来るぞ

先帰れよ!

俺の待ってて

その後だと

30分以上待つぞ」


南は寂しそうにはにかむ


こういう時の顔

めっちゃ可愛い


俺、別にそんなに楽しい話なんてしてない

どっちかって言うと

南が気を使って

話しが途切れない様に

一生懸命に話してくれて

その顔が

本当に一生懸命で


「分かった

じゃ、今日は特別

送ってやるから

次で帰ろう」


そう言って俺が立ち上がると

南はあからさまに喜んで

少し飛ぶように弾みをつけて立ち上がり


「嬉しい!!」


そう言って俺の顔を覗き込んだ


俺は目を逸らした


口元が緩んでしまうのを隠す


だめだ

このままじゃ

俺、南を好きになる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る