第24話 悠の話

 ※


 警察に入ってから俺は、オートメイド犯罪の捜査に当たっていた。

 それは恐ろしいものだよ。


 オートメイド――とくに新型のプランテッドは、人格を持っている。それは、実在した人間の人格だ。人格とは、その人の身体が経験した記憶と、それが形成する思考、感情、性格だ。


 人格は記憶を基にしてつくられ、人格の行動がまた、新しい記憶を積み重ねていく。〈赤線〉の染井正化がいうに、オートメイドは、完璧な人造人間を目指したものだが、人格をプログラムで再現するのは大変だそうだ。一体の完全なオートメイドを完成させるには、人生と同じだけの時間がかかる。なら、既存の人間の人格を使った方が早い。実際の人格をデジタル変換させたサンプルを多量に用意し、その上で社会実験を行わせてデータを収集する。


 菊本可奈は、その実験体の一人だった。〈赤線〉のオートメイドが、浮浪者や多額の負債者をさらうのさ。そして〈赤線〉の正体は、十年前に俺の家族を殺した〈粉砕者〉だ。


 テロ組織が、大きな会社をこしらえて今でも人間をさらっている。

 彼らの建前は「国家のため」だ。

 機械の娼婦が街を歩き、彼女らが搾取した精子は、政府が建てた精子・卵子バンクに冷凍保存される。人工授精された受精卵は、人工胎盤で育てられ、やがて、国家が人間を生産するようになる。労働力を維持させ、国家が安定して栄えるビジネスの誕生さ。


 プランテッドは、現状では染井正化の趣味の域だが、成功すれば、次のオートメイド事業の武器になるだろう。まぁ、君が遭遇したように、現状では危険なものだが。

 プランテッドの中には、菊本可奈のように機械の身体に耐えられず狂ってしまう個体がいる。人格が覚えている五感を、機械の身体が持ち合わせてないせいだ。

 感じないまま男に抱かれていく。俺には想像しかできないが、そこに幸せなんて無い。彼女らは孤独だったはずだ。


 俺が由紀子と会ったのは、刑事になって〈赤線〉について調査していたときだ。由紀子は、殺人者だった。同時に、正化に最も近い人間でもあった。だから俺は、由紀子と接触した。だがな、本当に不思議なことなんだが、なぜだか、彼女が他人に思えなくてな。気が付けば、好き合うようになっていた。そして結婚を申し込んでしまった。


 そして式の三日前に、彼女は突然、俺を殺そうとした。

 もうだめだと思ったときに、あの子が来たのさ。ミックがな。

 アイツが由紀子を抑えてくれた隙に、俺は逃げた。逃げるうちに気を失って、目が覚めたら病院のベッドにいた。

 病室に、あの染井正化が来て、そこで初めて由紀子が俺の葬式をやってると聞いた。


 そして今、お前に会えたって訳だ。

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