06

 昼空の下、雪の積もる大きな町へ三人の旅人たちが訪れる。

「早速探しに行きましょう……あれ、プルさんどうしたんですか……?」

 テラが振り向くと息を荒げて地面を向いているプルがいた。

「お、お二人が、早すぎるんすよ……」

 白い息を吐きながらプルは呼吸を整える。セルとテラは顔を見合わせた。

「その……テラが横にいたから大丈夫かなって」

「何か、もう俺よりテラ姉さんの方が人外っぽいじゃないっすか……」

 え、とテラはセルを見る。しかしすぐに納得したように頷いた。

 それを見てプルは気が付いたらしく声を漏らす。

「……え、まさか兄貴って自覚無かったんすか……人外の」

「え……ぼ、僕人間じゃなかったの?」

 はい、と頷くプル。衝撃的な事実の発覚である。

「そ、そうだったんだ……自分でも薄々思ってはいたけど……」

 そしてセルは既に納得していた。見ていたテラはほっと息をつく。

「でも、そんな衝撃的な話をこんなさらっと済ませちゃうんですね……」

 男子二人を見てもっともな事を呟く。



 二人は商店街を進んでいく。

「この辺りは人が多いし居ないんじゃないっすかね……」

 店の前の人だかりを眺めながらプルが言った。

「そうですね……一旦人通りの少ない所から探した方が…………」

 テラは立ち止り、後ろを振り向いた後、周囲を再度見渡した。

「……せ、セルさんがいません」

「えっ!? は、はぐれたんすか」

 プルも辺りを見回すが、人ごみの中にセルらしき姿は無かった。






 薄暗い通りを歩くセル。地面には荒らされたゴミや割れた酒瓶が散乱しており、両脇に立ち並ぶ店舗は看板が無いか派手な看板が光っているかの二種。

「か、完全にはぐれちゃった……どうしよう……」

 セルは通り全体を流れる陰湿で不穏な空気に身を縮こまらせた。

「ケシィが言ってたのって、こ、こういうことだったのかな……」

 恐る恐る周囲を見回す。木箱に座る青年たちに睨みつけられ、セルは更に身を縮めて俯いたまま早足で道を歩いていく。


 が、ふと顔を上げ足を止めた。

「あれ……今女の子が叫んでたような…………」

 じっと耳を澄ます。不気味な静寂の中で微かに聞こえる甲高い叫び声。

「……こっちだっ」

 咄嗟にセルは声のする方へ走り出した。落ちていた紙の束が一気に吹き飛ばされて壁に貼りつく。それを見て開いた口が塞がらなくなる木箱に座る青年達。




「やっ、やめてっ! 誰か助けてっ!」

 メイド服の少女が悲痛な声を上げる。

「い、いやだから何も」

「このおじさんが私をっ!」

 少女の前に立つサングラスの怪しげな中年男。

 その異様な現場に駆けつけたセルは慌てて少女を怪しげな男から引き離した。

「ら、乱暴はやめてください!」

 少女を背後に回してセルは男を真っ直ぐと見た。

 男はしばらく戸惑い、そのまま後ろを向いて走り去って行った。


「……あ、あれ……?」

 怪しげな男の想像外の行動にセルの体から緊張が抜ける。

 後ろで怯える少女の方を向くと、セルは優しく笑って見せた。

「大丈夫? 怪我とかは……」

 言葉を止めた。じっとセルの顔を見つめている少女。

「……え、えっと……どうし」

 盛大に腹の鳴る音。

 少女はぱっと顔を赤らめて後ろを向くも、振り向いて物欲しそうにセルを見た。

「…………な、何か食べに行く……?」

 セルが言うと途端に少女の表情が明るくなり、両手を上にあげて大ジャンプ。メイド服のスカートがめくれて薄桃色のパンツが見えた。

「きゃっ!…………み、見た?」

 スカートを抑え、再び顔を真っ赤にしてセルの目をじっと見つめる。

「えっ……ご、ごめん」

「見たんだ……えっち」

 セルの顔が赤くなる。しどろもどろになったセルに、メイド服の少女は張り詰めていた表情を緩めて笑い出す。そしてセルの手を握って引っ張った。

「行こう! こっちに美味しいお店があるんだよっ!」

 少女に手を引かれるがままにセルは走り出す。




 紙で包まれた生地の間に生クリームとチョコがたっぷりと挟まり、その中に苺やバナナが切って挟まれている。

「あむっ」

 苺が消えた。口元に生クリームを付け、メイド服の少女は満面の笑み。

「クレープおいしいよ! 冒険者君は食べないの?」

「う、うん。僕はいいや」

 クレープ屋の屋台前で座るセルと少女。少女はセルの隣まで近寄り、少し開いていたセルの口にクレープを押し付けた。

「んっ」

 口の周りに生クリームとチョコが溢れる。

「えへへ。美味しいでしょ?」

 セルが噛み取った後のクレープを少女は引き続き食べだす。セルは指で口の周りの生クリームとチョコをとって舐めた。

「……おいしい。甘いもの食べたの久しぶりだよ」

 僅かにセルの表情がほころぶ。

「本当? じゃあ冒険者君の久しぶりゲットしちゃった!」

 少女はより一層笑顔でクレープの最後の一口を口に入れる。

「あっ」

 チョコが垂れ落ちた。チョコレート色の染みが白い布地に広がる。


 染みの出来たメイド服のスカートを指でつまみ上げ、今にも泣きだしそうな目で少女はセルを見つめた。

「は、早く家に戻って洗った方が」

「私の家この町じゃない……もっと、遠い所」

 少女は首を横に振った。

「私、怖い人たちに追われてるの」

 ぎゅっと強くスカートを握りしめる。

 目に涙をため、ポロポロとこぼし始めた少女にセルは困ったようにクレープ屋の店長の顔を見た。ガッツポーズの店長。困惑した様子でセルは少女に目を戻した。

 少し考えた後、そうだ、とセルは笑顔になる。

「……今夜、一緒に泊まる?」

 クレープ屋の店長がむせた。

「えっ、いいの!? やったあっ!」

 口にクリームを付けたまま少女はハイジャンプ。めくれるスカート。

 咄嗟にセルは目をそらした。

 少女はスカートを押さえ、恥ずかしそうにはにかみ笑い。

「私……冒険者君にだったら、パンツ見られても……いいかな」

 不安に満ちた目でクレープ屋店長がセルを見た。

「……あ、僕の他に二人、一緒に旅してる子がいるんだけど、大丈夫だよね」

 微笑むセルに少女と店長が同時に天然だ、と呟く。視線にセルは戸惑って二人の顔を交互に見た。



 少女は店長に呼び止められた。

「あれは相当の強敵だな……お嬢さん、頑張るんだよ」

 そう言い店長は気が付かずに進んでいくセルを見た。

「ありがとうございます。……でも、心配は無用です」

 後を追って歩き出す少女。

 体の陰で腕を光線銃に変形させながら。

「……私のビームで貫けない人間なんて、いないんだから」

 夕方の光を受けて銀の光線銃はオレンジ色に光る。

 少女は腕を元の人型に戻すと、小走りでセルの元へ駆けつけた。

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