3.「イケ女四天王」


「――ヤバイ! マジウける! 2組の告り魔、また告ったんだって! 今度は5組のノリコ!」

「マジで? あの男も懲りないね~、で、結果は?」

「もち、フられたに決まってるっしょ! これで十三連敗中~」

「あちゃ~、童貞卒業ならず! 残念~」


 アハハハハハッ……。


 箸が転がっても面白い年ごろとはよく言うけれど、程度というものがあるだろう。他人の恋路、それも不幸話にどうしてそこまで爆笑できるのか。乾いた笑顔を無理やり作っている私の脳内、疑問符が陰鬱の混ざったタメ息を漏らす。


 私の名前は城井しろい奈緒なお。うら若き花の女子高生。……残念ながらその肩書きが有効なのはあと半年ばかりなんだけど。


 学校近くのファミレス。受験勉強という現実から目を背けるように、私はいつもつるんでいる女子四人組と雑談に耽っていた。私を含めてこの四人は高校で部活動に所属しておらず、放課後は一緒に時間を潰していることが多かった。


 ……といっても、私以外の三人はバイト先の彼氏持ち。イケイケ女子高生のお手本のような彼女たちの会話に、私は内心ついていくことができず。大体は聞き役に徹しながらひきつった笑顔でお茶を濁すのが通例だった。


 ……えっ、なんで性格が合わない子たちとわざわざ一緒にいるのかって?

 ……それは、なんていうか、流れっていうか――


 四人組の内の一人、ヒカルと私は中学が一緒で、当時はお互いの家を行き来するくらい仲が良かった。一緒の高校に入ったものの一、二年生の時は別々のクラスで、三年生になって同じクラスメートとして再会した彼女は、髪型やら化粧やら言葉遣いやら――、イケ女への『変身』を見事に果たしていたのだった。


 昔馴染みだったコトもあり二人で一緒に行動していたところ、街灯に集まる夏虫が如く、『イケ女』のヒカルが他の『イケ女』たちを吸いよせてしまったワケで――

 気づけば、学内ヒエラルキー最上位、周囲からは『イケ女四天王』と評される謎の四人グループが爆誕しており、特別イケてるわけでもない私が何故かその地位に君臨してしまったのだ。元々人に流されやすい私は、別に害があるワケでもないしと、彼女たちとの交流をあえて断とうとも思わず、而して、無為なコミュニケーションに日々摩耗してるのは事実で――


「――でさ、ナヲはいつになったらカレシ作るワケ?」


 頬杖をつきながらストローを噛み潰している私の隣り、茶髪の巻き毛がたゆんで揺れて、意地悪い笑みをこぼしているのは噂の悪友、ヒカルで――

 ……また、その話か――



「いや、何度も言うけど、別に私、好きな人とかいないし、カレシとか、別に欲しいと思わないし――」

「何言ってるの~、中学の時にナヲとの熱愛報道が噂されてた、軽音部のシン君がいるじゃない! 彼、まだフリーなんでしょ?」

「出た! シン様~!」


 三色乙女がケラケラと無邪気に笑い、――イラついた私は不機嫌を隠そうともせず、露骨に眉を八の字に曲げる。


「だ・か・ら~、別にシンとは、仲良かったの中学の時だけで……、高校になってからはロクに話もしてないんだってば」

「え~、シン君イケメンなのにもったいない! アンタ余裕ぶってられるのも今の内よ? ああいう大人しいタイプの男子はね、大学で急にモテ始めるんだから」

「……女子高生のアンタに、なんでそんなコトがわかるのよ」

「なんとなくよ。女子高生の勘」

「……あっそ」


 噛み潰したストローを無理やり吸い上げ、私の喉に味気のない氷水が流れる。

 窓の外にチラリと目を向けると、鳴りを潜めた紅葉たちが、夏の終わりを私に告げていた。

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