09

 見慣れてはいないがどれも似たような宿屋の天井…………では無い。

 白い、つるっとした……木製じゃないやつ。あれ、思い出せない。何だっけ。


 ここは……ベッドの中? 温かい、眠いから二度寝しようかな。って駄目だ、そんなことしたら生活リズムの乱れが不安だ。次に起きたら多分夕方になってる。

 よし、大分普段の調子を取り戻してきたらしい。さてここはどこだ。

 頭が重くて上がらない。


「―――!」

「――、―――!」

 聴覚も戻ってきた。何か声が聞こえる……というとこまでは分かる。うん。

「――? ―――」

 妙だ。声が聞こえるのに言っていることがまるで分からない。やばい、私頭打ったかもしれない。頭? あれ、そうだ頭が何か痛くて……

「――、―」

 なんか意識が朦朧とする。分かったここ病院だ、もしくは誘拐先。後者だった場合については考えたくない。考えたくないけど選択肢として入れておいた方が良いかもしれない。なんせこんな訳の分からない状況だ、慎重に行動しなければ。

「…………あ……あの」

 声は出る。ならまず状況確認からだ。

「―――! ――」

「あ、あの、ここは」

「―――っきありっ!」

 なっ


「病院で暴れるなっ! つか病人にセクハラするな!」

 条件反射で手が伸びた。そして思ってた以上に普通に声が出た。

「ま……魔女ちゃん病み上がりでもガードが堅いのか……」

 彼女は私の顔を覗き込んでいる。今その手で何をしようとしたんだ。

 一瞬見えた私の手には点滴が刺さっていた。良かった、病院であっているらしい。

「え、えっと……私は何でここに寝てるの?」

「あー、やっぱ覚えてないか。実は魔女ちゃん見事に頭吹っ飛ばされてね」

 あ、なるほどね頭吹っ飛ばされて……


「……ま、待って。どういうこと?」

「簡潔に言うと銃で撃たれて脳バーン! からの回復魔法でセーフ! みたいな」

 いや何その雑な説明。確かに分かりやすいけど。

「あれはえぐかったね。私当分は肉食べられる自信が無いよ」

「その、つまり……私は今撃たれて回復魔法で一命をとりとめたとこ……ってこと?」

「正解。って、その様子だと誘拐事件のことも覚えて……一応聞くけど魔王討伐のこと覚えてる?」

 魔王討伐? 魔王……ああ、あの勇者が倒すやつ。そういえばそんな無茶なことを王様に頼まれてたっけ。で、賢者と美女が仲間になって……。

「それは覚えてた。あれ、そういえば賢者ってどこに……」

「うんそれは後で説明するとして。それより痛みとかどう?」

 凄く強引に話をそらされた。何それ、逆に気になるよ。

「どうって……頭が痛い気がする、あとは何かぼおっとしてよく分からない」

「成程なるほど。じゃ、そろそろ私先生呼んでくるよ」

 美女は大きく頷いてから勢いよく立ち上がった。何と言うか全行動が極端。

 足音を聞く限りある程度離れてから、美女の声が聞こえてきた。

「魔女ちゃん! 暴れちゃ駄目だからね!」

 それはこっちのセリフだよ。

 そしてドアが閉まった。なんか美女、いつにも増して謎な発言が多かった気がする。




 手を使って体を少し起こしてみた。痛いような痛くないような感覚。


 特に何とも無さそうだ。普段宿屋で体を起こした時と大差ないように思えるけど、本当に私頭撃たれたのかな。いくら回復魔法があるとはいえこんな軽傷で済むものなのか。軽傷どころがむしろ無傷だ。私、体だけは丈夫なんだっけ。


 ところで結局賢者はどこに行ったんだろう。や、まあプライバシーというものがあるし常に現在地を知りたいとかそういうつもりでは無いけど。何で心の声で言い訳してるんだろう。

 そういえば昨夜は賢者と何か話して……あ、そうだ。賢者の過去だ。一人称聞くの忘れた。いやそれはこの際どうでもいいか。

 それで最果ての国に行こうって話になったんだ。魔王城もあと少しなんだっけ。こんなことで本当に勝てるのかな。

 あ、そうだその時テンションの高い葬式集団が現れて……待って何それ。それただの怪しい人だよ。


 それ誘拐犯だ。テンションの高い葬式集団ではない。

「魔女ちゃん、先生来たよー」

「目が覚めてますね。じゃあ一応検査に……」

 美女と病院の先生が帰ってきたらしい。違ういまそれどころじゃない。

 誘拐犯は女の子……正確にはエルフだから百歳の女の子をさらっていって、それで私はそれを止めようとした。今思うと我ながら向こう見ずだったな。

「ご自分の名前言えますか?」

 名前? 名前……あれ何だっけ。やばい、魔女って呼ばれるのにすっかり慣れて……

 そうじゃない誘拐犯の件だよ。私が撃たれたあとその子はどうなったんだ。

 美女は私の付き添いでここに残ったのだろうけど、つまり賢者が一人で後を追ったということ……? 

「あれ……名前は難しいですか。じゃあ住所は……」

「おーい魔女ちゃん? 大丈夫? 何かぼーっとして……」


「……助けに行かないと」

 まずい、相手は力の強い大男ばかりだ。賢者一人でも危ないかもしれない。

 足手まといになるだけだと思うけど……でもまだ帰っていないのはおかしい。まさか何かあったんじゃ。

「えっ、ちょコラまだ安静に」

「転移魔法っ!」

 少女は私のせいで目を付けられたかもしれないのに、ここで寝ているわけにはいかない。それに、仲間のピンチなら助けに行かないと。

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