第7話:

なんだかんだ僕は舞と裕也と一緒にいるもんだから鞄に入れていた手紙を見ることは出来ずにいた。昼休憩が終わって放課後まで手紙に目を通すことが出来ずにいた。

 鞄を持って教室から立ち去り、下駄箱まで駆け足でむかった。その間にチラチラと鞄に目配せをしてニヤける口元を必死に口を真一文字にする。

 頭の中が島崎さんで一杯にはなるが、ふと落ち着いて考えてみると、彼女と文通するきっかけは彼女に「友達になってほしい」と言われたからだ。僕は浮かれ調子でいいよ!こちらこそなんて言ったが彼女と僕は特に接点なんて見つからない。

 たまたま、あの告白現場を目撃して、偶然前回話す機会があっただけなのだ。けど、今に考えるとなんで手紙なんだろうか。と、疑問に持ってしまう。別に手紙でなくても直接会って話をすればいいだろうし。いや、二人でいる所を周りにでも見られたら彼女が困ってしまうからだろうか。

 地味な僕であるし、彼女は美人なのだから噂になるなんてもっても他だろうなと頭の隅で思っていると少し情けなくなってくる。

 階段を一段一段降りる足取りも考えただけで重くなってくる。

 けれど、島崎さんが僕と友達になりたいと思うきっかけなんてこれっぽちも想像がつかない。

 頭の中で色々とちらつく考えをしまい込み、一階へと目指す。

 全校生徒が一斉と出入りする場所は扉が開いており、暖かい風が流れ込んでくる。扉の間や空いた部分に西日が差し込んでいて眩しく、目がちかちかしてしまう。また、遠くのほうから吹奏楽部の演奏のだろうトランぺットの音が聞こえてくる。

 外靴を履いて音の場所に向かってみると、3階の東側の空き教室の窓が開いている。中に誰がいるのか、校舎から後ろに下がって確認してみる。そこには見慣れた顔の女子の舞がいる。

 やっぱり舞と的中した。中学生の時から舞の演奏は聞いているからなんとなくわかる。柔らかい感じの音色で高い音でも耳ざわりではなく感じる。素人目からみても上手なんじゃないかと思う。

 両手でトランペットを持ち、肩の高さまで持ち上げ、背筋をピンと伸ばしている。肩から下位の長さの髪が風に揺れている。集中して取り組んいた。

 聞きなれない曲を聴きながら舞のいる窓をぼーっと眺めていた。

 舞や裕也は中学校に入るにあっという間に部活なんて決めていたことを思い出す。僕なんか「何をしようかあな。」と部活紹介時に思っているうちに二人とも

「野球部。」

「吹奏楽部。」いともあっさり決まっていた。

 そんな風に決められる二人の事を羨ましいと思う自分がいる。二人と一緒に側にいて同じ速度でずっといられるものだと思っていたけれど、だんだんと前に進む速さなんて変わっていく。同じスタートラインから始まっていたはずだと思っていたが、そうではなかったんだとずっと考えていた。

 次第になんだかんだ学年が進むにつれて二人との違いに引け目を勝手に感じて、少しずつ離れていったのかもしれない。いや、離れていったって表現はおかしいか。

 そうだ。離されていく方がしっくりするかもしれない。日の光のように眩しい二人を見ているのが、嫌だったかなとも思う。

 一生懸命に熱く打ち込める二人が羨ましくもあった。時間が経つうちに僕は色々と考えることや進むことをやめてしまった。

 良いか、悪いかなんてそんなの分からないけど。

 考えるうちに気持ち的に落ち込んでくると身体に足かせでもついているかと思う位に息苦しさと口の中から感情を吐き出したくなる。必死に喉の奥に湧き出てくる感情をひと思いに飲み込んでしまいたい。吐き出す先がないこの感情は喉の奥に引っかかったままだ。

 舞から目線を外して近くを見てみると、上から一人こちらを覗いている女子がいる。

 島崎さんだ。

 風で揺れているカーテンを抑えながらこっちを見ている。僕が彼女に目線を合わせると、笑顔でこちらに小さく振ってくれた。

 彼女が僕に気付いてくれたことが嬉しくて、軽く手を振った。彼女は無言で手に持っていた楽器を指さして「練習中。」とジェスチャーしてくれた。楽器を持ち替えて右手の指で大きく文字を書き始めた。

 ひらがなで3文字

「て・が・み」

 僕はそれに気が付いて手紙の入った鞄を胸の目の前に持ち、彼女に向けて見せた。鞄の中に島崎さんがくれた手紙が入っていますと指をさして訴える。

 彼女が気付いたか分からないが、何となく伝わっている気がする。僕も彼女に向かって手を振って一礼して校門に向かって歩き出した。

 さっきまで思い足取りも彼女の顔を見ただけで吹き飛んでしまう気がすると僕は思った。

 帰り足で校庭を見ると後輩に指導しながら自分の練習をする裕也を見ながら僕は帰りのバスに足取り軽く帰るのであった。






 早々に自宅に帰宅した僕は玄関の扉を開けて急いで履を脱いだ。

 居間から母親が「靴はちゃんと並べて置いといてね。」と大きな声で呼び止めた。

 居間に向かって進めていた身体の向きを変えてしゃがみ込み、先程脱ぎ散らかした靴を揃えて2階へと駆け上がった。

「ちゃんと靴並べたのー?」

「やったよ。」大きな声で母親に返事をした。近くに姉もいたのか

「何あんなに急いでるの?」と聞こえたがそんなの気にしていられない。

 早く島崎さんの手紙が読みたく、はやる気持ちを抑えて部屋に向った。

 自分の部屋の扉を開けて鞄を机の上に置いて鞄に手を突っ込んで、教科書の中から彼女の手紙を探した。教科書の間に挟まっている手紙を引き抜いて取り出す。

 薄ピンク色の白い封筒に僕の名前が書いてあった。引き出しからが挟みを取り出して封筒の上を中身を切らないように丁寧に切った。

 封筒の中から便せんを取り出した。三つ折りにの便せんを開き手紙の内容を確認した。



 櫻井くんへ


 急に手紙なんてなんてやろうなんて言って変だったよね。

 自分でいっててあとから変だよなぁって思ったもん。

 けど、あんな約束でも櫻井くんが手紙をくれるなんて思ってなかったよ。本当に嬉しかったんだよ。

 私は食べ物だったら和食が好きかな。あと、卵料理とか。厚焼き玉子とか好きです。学校にに持っていくお弁当のおかずによく入れるんだけど、お母さんみたいにはなかなか作れません。

 けど、そのうち美味しく作れるようになれればなぁと思ってます。

 あと、櫻井くんみたいに近所の散歩はしたりしないけど、学校の帰りに行ってみたことのない喫茶店を探してみたりすることはあるかな。一人でのんびり過ごしたりすることが私は好きです。誰かと一緒に楽しむのもいいけど、一人いるのもほっとします。

 櫻井くんは本が好きだったらお勧めとかあったら教えてほしいです。何を読んでるのか興味があるし。

 もし、あれだったら、今週の金曜日のお昼一緒に食べませんか。場所は屋上で。そのあと放課後一緒に帰りませんか。下駄箱で待っています。


 お返事待っています。



 島崎 結衣



 彼女の字は形が整っており、少し丸みがあってとても読みやすかった。まだ、やり取りをしたばかりなのに僕は島崎さんについて知りたいと思った。もっと彼女について知りたいとこの時思った。


 君のことが知りたい。些細なことでも。

 君が想う『好き』とは。僕の思っている『好き』はいったい何なんだろうか。君はどんな人なんだろうか。まだ見たことのない、見知らぬ君を見てみたい。

 手紙に視線を向け、彼女の書いた文字を指になぞる。

 この手紙の中も彼女の一部分なのだろう。少しでも僕の見たことのない彼女を見てみたいと。

 憧れからくるものなのか。それとも、興味本位で僕に近づいてきた彼女が気になるだけなのか。それとも『好き』という感情なのだろうか。

 まだ、僕には形容しがたい。だけれど、彼女を見ると心臓の奥当たりが痛くなる。

 僕はこれから彼女を知り、『好き』という感情を探っていきたい。

 僕は椅子に座ってシャープペンを持ち、手紙を書く。


 僕と彼女の手紙は始まったばかりだ。







(2)

 彼女との約束の日がきた。

 昼休みの時間だ。僕は彼女を席から眺めながら立ち上がる瞬間を見計らった。

 そのタイミングで僕も席を立って偶然を装い一緒に教室を出る!!

 自分の席でソワソワとしていると、彼女が席から立ち上がった瞬間に僕もごく当たり前のように席から立ち上がった。

 緩む口元を抑えて彼女の後をこっそりと追いかけようとした際に、またしても裕也に後ろから声をかけられた。

「食堂行こうぜー。」

「今日は駄目だ。僕弁当だし。」と裕也むかって言った。今日はどうしても駄目なんだ。俺は今日、島崎さんと、お昼を食べるんだ。

「じゃあ、購買で何か買ってくるから、教室で食べようぜ。」

「その、今日は他に約束している人がいるから。」

 へえっと裕也がこちらを見て誰よ?確認してくる。「前のクラスの人」ととっさに嘘をつく。

「ならしょうがねぇなら。」あっさりと信じる裕也に罪悪感を覚える。

 ごめんな、裕也本当にごめん。今度何か奢ってやる。

 弁当と手紙を持って教室を見渡すと島崎さんの姿が見えなかった。もう、教室を出てしまったのかと、慌てて僕も教室を出た。

 教室の扉を開けて外に出で彼女の姿を周りを見渡して探した。周りには購買に行く人や食堂に行く生徒が廊下を歩いている。

 眼を凝らして人の中から彼女を探そうとするが、見当たらずに一人で屋上の方に向かおうと足を踏み出したときに「櫻井君。」と横から声をかけられた。扉の左横にお弁当を両手に持って僕の方を見ていた。

 彼女の声に気付き、彼女の方を見た。彼女の大きい瞳に僕の姿が映っている。キラキラとした彼女の眼を見ていると、僕の心臓は一気にキュッと力を入れて締め付けられる。

 彼女を見つめていると、再度、彼女に声をかけられた。

「櫻井君?。」

 ハッと気づいて彼女に僕は待たせてしまったことに謝罪をした。

「ごめんね。すぐに教室から出たかったんだけど、裕也につかまっちゃって。」

 クスクスと笑いながら「見てたよ。」と彼女は言った。

 僕は見られていたことに気恥ずかしさを感じたが

「あいついつも幼馴染だからってクラスが今年一緒になったからよく絡んでくるんだよ、ほんと、あいつなら部活の友達とかもいるのにさ。」

 妙に照れ臭くなって左手で首の後ろ側を掻いた。

 彼女は「けど、本当に仲が良いよね。」とよく一緒に教室でいるもん。と僕に言う。

「まあ、小さい頃から知っているしね。」

「舞ちゃんもでしょ。」

「うん。舞も家が近所だから。暫くあんまり話してなかったけど、最近よく一緒に話すようになったかな。まあ、クラスも一緒だしね。」

 彼女は「そっか。」と呟いて寄りかかっていた壁からよいしょと離れて「お昼食べにいこっか。」と僕に問いかける。

 僕も彼女の横を一緒に歩く、彼女と僕の肩は僕の方が、僕の拳2つ分位離れている。隣で歩く僕と彼女の肩の幅も近づきすぎないように、けど彼女にうっとうしいと思われない絶妙な距離を探す、歩く速さも彼女の速さに合わせて歩いた。

 足の幅も身体を大きさも違う彼女のペースに合わせて僕は歩く。

 彼女と一緒に歩くことで周りから勘ぐられてたり、探りを入れられたり、するんだろうか。けど、彼女はそういったことは慣れているのだろうか。彼女はとても綺麗で可愛いし、優しい。異性にもてる人なのだから、そういった事には慣れっこかもしれない。

 僕は起きてもいないことを考えても仕方がないと現実の状況を受け入れることにした。彼女に食事を屋上に食事を誘われたけど、屋上って鍵がかかっていたような気がする。

 僕は歩きながら彼女に尋ねた。

「島崎さん、屋上って確か鍵がかかっていたと思うんだけど。」

 彼女は歩きながら階段の手すり手を掛け、階段を上り始める。周りの邪魔にならないように彼女の後ろに続いた。

「朝、楽器の練習をするのに時々、屋上の鍵を借りてるんだ。」彼女はブレザーの上着ポケットから鍵を取り出し、僕に出して見せた。

 いたずらっ子みたいな顔で「部活の時に鍵を返してるから、時々、一人で屋上でお昼ご飯食べたりするんだ。」と僕に笑った。

「内緒だよ。」

 僕は何も言わないで首をぶんぶんと縦にふった。

 内緒だよっといった彼女の表情が可愛らしくて僕は顔は真っ赤になっているだろう。

 僕は階段を彼女一緒上がり、屋上へと向かった。



 彼女は屋上の入り口に着くと、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に鍵を差し込んだ。時計回りに鍵をゆっくりと回した。ガチャリと鍵が外れる音がした。

 そして、島崎さんが、扉のノブに手を掛けて「どうぞ。」と扉を開けてくれた。開けた扉から光が徐々に入り込んできて、少し眩しかった。

 暖かい風が僕の横をすり抜けて遠くの方まで流れていく。

 空を見上げると雲はいそいそと流れてあっという間に僕の視界からいなくなっていく。

 彼女はフェンスに近づいて校庭全体を見渡しながら僕を見た。

 僕も彼女の横に並んで校庭全体を見渡した。

 小さくたくさんの生徒が見える。各々昼休みを楽しんでいる。

「時々ここで一人でお昼食べるんだ。」

 島崎さんの周りには常に誰かが居るような気がしていたので驚きだった。

 華やかでクラスの女子や男子とも笑いが絶えない人だと僕は思っていた。

 じっとこちらを見て、僕が何か言いたそうなのを察したのか僕が口を開く前に話しだした。

「私、誰かといるのも好きだけど、一人でいる方がもっと好きなの。」

 僕は彼女ににむかってをオウム返しのように言った。

「一人でいるほうが好きなの?」

「うん。好き。」

 真剣な顔をして再びグラウンドを見て、生徒達を眺めている。

「ぼーっと何も考えないでご飯を食べて、空を眺めてみたり、上からみんなを眺めてみたりするのが好きなんだ。変かな?」

 首をかしげてるが、何で返答をしてもよいか、僕のイメージしていた島崎さんと少し違っていた。

 島崎さんは「あー、私の事思ってたのと違うって顔してる。」

 眉毛をハの字にして困った顔をした。

「私ってそんなにニコニコして、印象イメージあるの?」

 僕はとっさに「違うよ!」と大きい声を出して反論した。

 島崎さんは大きい声を出した僕にビックリしたのか、元々大きい目をさらに丸くしていた。

 不味いと思い、声のトーンを、戻してすぐに僕は彼女に言った。

「別に悪くない。」

「悪くない?。」

 僕はフェンスに寄っかかったまま、その場に座り込むと、彼女も僕の隣に体育座りをした。

 横目で彼女を僕はみた。風が彼女の髪をふわふわと揺らして髪を整えている彼女が可愛くてつい下を向いてさっきの言葉の続きを言った。

「僕が勝手に島崎さんを想像してたんだ。だから、島崎さんは悪くない。」

「想像してたの?。」

「うん。島崎さんの周りには色んな人が居て、楽しそうにしてる島崎さんしか僕は見たことがないから勝手に【これが島崎さん】って思ってた。だから印象が違っても島崎さんは何も悪くない。」

「櫻井君の印象イメージと違ってても?。」

 そうだ。彼女は悪くないのだ。悪いのはこちら側だ。彼女に僕らの理想の彼女になってももらう必要性はないのだ。

 頷きながら僕は話を続けた。

「想像と違っても意外だなぁとはやっぱり思うよ。けど、なんて言うのかな。駄目なんてことはないと思う。島崎さんは島崎さんだし。好きな事はしたらいいんじゃないかな。」

 そっか。と彼女も下を向いて手に持っていたお弁当箱の包みを開きながら「櫻井君もお弁当食べよう。」と膝の上にお弁当を広げながら呟く声で「ありがとう。」と聞こえた。

 僕は彼女に「ありがとう。」なんて言われることなんかしていないよ。と明るく言った。

 彼女は「そんなことないよ。だって嬉しいもの。そんな風にいってもらえるの。」少し嬉しそうですっきりしたのような顔をしていた。島崎さんはお弁当の包みを広げて楕円形の小さいお弁当の蓋を開けた。彼女のお弁当の中が気になり、お弁当の中身を覗き込んだ。

 黄色い形の卵焼きや煮物など、色とりどりの見た目でとても美味しそうだった。「食べないの?」と彼女に声を掛けられて僕も彼女の様に胡坐をかいて膝の上のお弁当を置いた。

 僕の弁当は母親が作ったものだったから、きっと昨日の残りに何か足したものだろうと想像がつく。

 蓋を開けると案の定中身は正解だった。両手を合わせて「いただきます。」と軽くおじぎをしてお弁当に手をつけた。

 彼女も「いただきます。」と手を合わせてお弁当を食べ始めた。

 互いに無言で少しの間食べていたけど、別に落ち着かないことはなかった。むしろ無理してしゃべらなくて、この状況は心地が良くてよかった。しかし、彼女があっと声を出したから、ぼくは口にいれた唐揚げを飲み込んで「どうしたの?」と声を掛けた。

 彼女は少し恥ずかしいそうに「お願いがあるんですが、いいでしょうか。」

「うん。」と一言ぼくは頷いた。

 彼女は僕と向き合う形で手を合わせて「櫻井君のお弁当の卵焼き一口ぜひ食べさせてください。」

 卵焼き?そういえばと彼女の手紙に卵好きだって書いてあったのを思い出した。自分のお弁当の中身を確認して卵焼きが残っているか確認した。ちょうど一つ残っていたので、彼女に向けてお弁当を差し出した。

「どうぞ。母さんの卵焼き少しだしが聞いててしょっぱいかもしれなけど。」

「いいの!!ありがとう。」島崎さんはとても嬉しそうに僕のお弁当の卵焼きを手に取り自分のお弁当箱に移した。すると、彼女は自分のお弁当箱から卵焼きを箸で取って、僕のお弁当箱に「おひとつどうぞ」と入れてくれた。

 僕と彼女は再び、手を合わせて一緒に「いただきます。」と彼女のくれた卵焼きを口に放り込んだ。

 口の中に甘い味が広がる。母の作る卵焼きも少し甘いけど、だしの味のほうが強くて少ししょっぱい。しかし、彼女の卵焼きはちょっと焦げたところも形も綺麗だし、ふんわりしてて甘みがあってとっても美味しかった。

 彼女に「島崎さんがこれ作ったの?」

 口に嬉しそうに卵焼きを入れた彼女は至福のようで目をつぶって幸せそうな顔をしていたので、黙ってみていた。本当に卵焼き好きなんだと思いながら彼女の卵焼きを胃の中に放り込んだ。

 卵焼きを食べ終わった「美味しかった!!」と言って僕に「ありがとう。」と感謝の意を表した僕はもう一度彼女に彼女が作ったのか、尋ねることにした。

「島崎さんがお弁当作ってるの?」

「うん。朝時間に余裕があるときは作ってるよ。お母さんみたいにうまくまだ作れないけど、冷蔵庫にあったものいれてみたり、作ってみたいの作ってみたり。」

「いろんな物が入ってて美味しそうだなって思った。それに卵焼きすごく美味しかったよ。」

「本当?ありがとう。私も卵焼き食べさせてくれてありがとう。それぞれ味がみんな違うから卵焼き好きなんだぁ。それぞれの家の味みたいなのがわかるから。」

「島崎さんの作った卵焼き美味しくて何個も食べられちゃいそうだよ。」

「本当に。誰かに言ってもらえると嬉しいなぁ。」

 彼女は何か思いついたように僕に話した。

「そうだ。今度一緒にお昼食べるときお弁当交換しない?」

「お弁当を?僕のは母さんが作ったやつだけど。」目をキラキラさせてこちらを見ている。まるで子供の様に喜ぶ彼女がとても幼く感じた。

「櫻井君が作ったお弁当べてみたいな。」

 うーんとぼくは悩んでしまう。お弁当なんて作ったことないし、料理なんてあんまりしたことなかった。

 絶対に美味しいものなんて来るれるはずはないだろう。しかし、彼女があんなに喜んで楽しみにしているのに断るにも申し訳ない気がしてしょうがない。

「やっぱりダメかな?」

 急に言っても困らせちゃうよねと眉をひそめた。すかさず、僕は彼女に返事をした。

「料理なんてあんまりしたことないから、絶対美味しくできる自身がなくて。それでもいいならいいよ。」

 顔を上げて嬉しそうに「いいの!!」と笑顔でこちらを見ている。僕はその僕に向けられている笑顔が眩しいし、直視されているので、恥ずかしくて目を逸らした。

「あんまり期待しないでまっててください。」

「なんでそこだけ敬語なんですか?櫻井君」

 なんだかよくわからないけど、二人で屋上で笑いあった。ただお弁当を食べて卵焼きの話をしてただけなのに、他愛のない話をしてただけなのに今日のこの時間は僕にとってとても特別な物に感じた。

 お弁当を食べ終わったらそのまま、フェンスの方に身体の向きを変えて二人で屋上から見える景色を堪能した。風で待っている桜の花やベンチで語らう生徒・聞こえてくる笑い声や車走る音。様々な物が見えて聞こえてくる。

 お昼休憩が終わるギリギリまで二人で眺めてみていた。楽しんでいる彼女を横目に僕もぼーっとその景色の眺めた。今二人だけの空間で何も暖かい風に包まれながら、ぽつぽつとたまに会話をして過ごした。

 号令のチャイムがなり、二人で教室に戻ろうかと話をして立ち上がったときに、僕はポケットに入れていた手紙を彼女に渡した。

「これ、手紙書いてみたんだ。今度は、ポッケに入るように少し小さめに折ってみた。」

 彼女は手にとり、小さく折った手紙を受け取った時に「最初の手紙下駄箱に入ってたね。」とふふっと思いだしたように笑った。

 僕は照れくさくて渡す機会がなくて、早く学校に行って入れた事・バスの中で舞に突っ込まれた事などさらっと話した。「なんかごめんね。」という彼女に僕はそんなことないよと笑った。

 じゃあ、明日の午前授業で、部活がないから一緒に帰ろうと彼女は僕に言った。僕は「うん。」と一言返事を返した。

 じゃあ教室に戻ろっかと二人で教室に向かう。

 行くときは彼女の後ろをついて歩いたが帰りは彼女の隣を歩いた。お昼を食べる前まで緊張していた自分が馬鹿らしく感じた。彼女は自然体に振舞っているのだから、僕だって気を張らずいてよかったんだなと思う。彼女の横で話をしながら教室に入った僕らはあまりにも普通で、そのまま自分の席に向かう。

 彼女と過ごした時間は僕らの距離を少しずつ埋めていく。彼女の突拍子もないお願いから始まって時間はそう経っていない。しかし、二人で過ごした屋上での時間は居心地がよかった。僕が感じているように彼女もそう思っていて欲しいとこの時願った。

 そのまま、午後の授業は変わりなく進み放課後となる。それぞれ部活やらでそれぞれみんな教室から出ていく。裕也も準備をしている。島崎さんと舞と他の女子は離しながら部室に向かっていこうとしていた。そういえば舞と島崎さんは同じ部活だっけ。二人とも仲いいのかなと二人を見ていたら、担任に声を掛けられた。

「櫻井、今日も時間あるか。」

「ありますけど。」そっか良かった。と「今日図書室に返却された本元の場所に戻しておいてくれないか。あと、古書の中も整理してくれって他の先生に頼まれてて手伝ってくれないか。」

「あっはい。分かりました。」

 よかったよかったと一件落着したと「じゃあよろしく頼むな。後で俺もいくから。」と図書室の鍵を渡して後ろを向いて教室を出ようとした時何か思いだしたのか、また僕をみた。

「今年も俺が図書担当なんだ。今年も図書委員お前でいいか?」

 僕は願っても叶ったりだから、すかさず、「やります!」と返事をする。

「じゃあ一人は決定な。もう一人は明日のHRで決めるか。後終わったら鍵返しに来いよー。」

「了解です。」と返事をして僕も教室を出るのに机から鞄を取りに行った。

 鞄に机から取ろうとした際に後ろから舞に声を掛けられた。

「やっぱり図書委員やるんだ。」

「先生からご指名ならやるよ。」と胸を張ってドヤ顔で答える。

「もう一人明日決めるって言ってた。」

 誰が一緒になるのだろうか。気の合う人だったらいいなと頭の中で考える。

「自分からやるって喜んでたじゃん。」

「見てたの。」

「見てた。めっちゃ喜んでたから。小太郎をみたいだった。」

「小太郎って舞の家の犬じゃん。」

 犬と一緒にされるのも何とも言えないが、小太郎は可愛いから小太郎の悪口は言えない。

「私後で、本返しにいくから図書室にいてね。」

「いてねって。何時頃来るの、整理終わったら帰るよ。」

「今日部活、新入生の対応だから今日早く終わるんだ。。4時ちょっと過ぎるけど。」

 じゃあねーと舞は島崎さんたちがいる教室の出口まで向かった。

 僕は舞に「あれだったら本は預かるよ。そしたら来なくてもいいだろう。」

 僕は手を伸ばしてんっと本を渡せと促す。

 舞は振り返って「自分で行くから。」と。

 いやいやと舞に近づき本を渡せば済むだろうと僕は言った。

 聞かない振りをして舞は「友達待たせてるから。じゃあね。」と島崎さんと女子生徒の方に向かっていった。

 僕は残されたまま、自分の鞄を握りしめて自席の近くでたたずむ。

 周りが人がまばらになってき行き、さっさと舞が言いたいことだけ言って去って言った。相変わらずと言うかなんと言うか。

「とりあえず、図書室いくか。」僕も気を取り直して図書室へと向かった。

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