第2話 ポモドーロテクニック

 ウェブ小説部——

 我が校、ビッグスリーとの部活。

 条件達成の先に約束された、美少女たちからのご褒美。


 いったい、どんな部活になるんだろうと、心躍らせていたのだが。


「カタタカタカタカタタカタカタカタタカタカタカタタカタカタカチャカチャカチャタタタタタタ」


 会話もなく、ただひたすらタイピング音が、放課後の部室に鳴り響いた。


 みんな、いつもこんな感じなのだろうか。


 手持ちぶさただったので、とりあえず俺も執筆を開始した。


「カタタカタカタカタタカタカタカタタカタカタカタタカタカタカチャカチャカチャタタタタタタ」


 美少女達が奏でるタイピング音が、集中力を高めるには、ちょうどいいBGMだったのか、執筆は結構捗った。


 そして30分程で、来栖先輩のスマホのアラームが鳴った。


「よし、少し休憩にしようか」

「う〜ん、集中した!」

「ふぇ〜もう、そんな時間」


 おや、皆んなで休憩を取るシステムなのか。それにしても、30分って結構短いな。


「相馬くん、それは便利そうだね」


 来栖くるす先輩が俺に問う、それとは、おそらく、携帯用キーボードのことだ。


「ちょっとした場所があれば、どこでも執筆出来るので結構使えますよ」

「ふむ、それは、スマホに接続しているのだよね?」

「はい、今のスマホなら大体対応しています」

「ふむ……なかなか良さそうだな、私も購入を検討してみるかな」

「便利なのでおすすめです。よかったら試しに使ってみますか?」

「いいのか?」

「はい」


 来栖先輩はお誕生日席から、俺の隣の席に移動してきた。


「今、文字を打っても大丈夫か?」

「あ、ちょっとだけ待ってください。新しいドキュメントを開きますので」

「うむ」

「どうぞ」


 入力を促すと、先輩は自分の方にキーボードを移動させず、俺に寄りかかる形でタイピングを開始した。


 ヤバい……先輩の髪が、いい匂いすぎる。

 そして先輩……肩が密着してますよ!


 至福の時を堪能していると、またアラームがなった。


「ありがとう、相馬くん。では、また25分後に」


 うん? 25分後。

 3人は、また執筆を開始した。

 なんだ? どういうシステムなんだ?

 

 3人にならって、とりあえず、俺も執筆を再開した。


 ちなみに先輩は自分の席には戻らず、俺の隣で執筆を始めた。

 横顔もお美しい。


 そして、また25分後にアラームが鳴り、3人とも一斉に休憩を開始した。


「来栖先輩……この小刻みな時間配分は何でしょうか?」

「うむ、これはな、ポモドーロテクニックと言われる、時間管理術の一つだよ」

「ポモドーロテクニック?」

「簡単に言うと、だらだら長く作業するよりも、短い時間、きっちり集中して、生産性を高めるテクニックだよ。人間が集中力を持続できる時間ってのは、思ったよりも短いからね」


 ……そうなんだ。

 つーか、意識高っ!

 3人ともこんな努力までしていたのか。


「ねえ新見先輩。ちょとおっぱい触っていいっすか?」

「いいよ、服の上からでもいい?」

「あっ、十分っす」


 ……え。


 俺と来栖先輩が、ポモドーロテクニックについて話していると、俺たちと対面して座っていた、桐谷きりたにと新見先輩から、耳を疑うようなやりとりが聞こえてきた。


「じゃぁ、先輩行きますよ」

「うん、ばっちこい」


 そして、桐谷は……新見先輩の左のおっぱいを、右手でムニュムニュと揉み始めた。


「あっ……令美れみちゃん……もうちょっと優しく」

「おっけーっす、優しくっすね!」


 ちょっと待て……この人達、部室で何やってんだ。


「ううっ……」


 この声って、俺が聞いてもいい声なの?

 むしろ俺ってこの場にいていいの?


「あざっす! 先輩! 今度は両方揉ませてもらってもいいですか?」


「う……うん、ばっちこい」


 いや、ばっちこいじゃないでしょ!?


 何と言うか、目の前の百合展開に、俺はもう1人の俺を押さえておくことしか出来ず、思考は完全に停止した。


「あざっす先輩!」

「……どいたま〜」


 新見先輩は少し、うっとりしていた。


「き、桐谷今のは……?」

「おっぱい揉みラッキースケベシーンの描写取材だよ」


 な……なにぃ。

 俺は、おっぱいなんて揉んだことがないから、想像でしか書いたことがないが……桐谷はリアルにおっぱいを揉んで、それを描写していると言うのか。

 意識高っ! つーか自分のじゃダメなのか?


「あっ、そうだ相馬」

「……なに?」

「オカズにするなよっ!」

「するかっ!」


 するよっ!


 ……しかし、物凄い場面に遭遇してしまった。


「さあ、5分経ったぞ、次の25分も頑張ろう」

「うい〜」

「は〜い」


 25分執筆して、5分休憩するを、この後2回繰り返した。今日は合計、このセットを4セット行った。


 途中、百合ハプニングはあったが、いつもよりも、俄然執筆が捗った。


「どうだ、相馬くん、ポモドーロテクニックは、結構捗っただろう」

「はいっ! めっちゃ捗りました!」


 これは驚きだった。今日の原稿はもう書き終えた。1人で執筆している時は、だらだらと長時間使ってしまい、こんな短時間で原稿がまとまることはなかった。

 時間を細かく区切ることで、こんなにも効率が上がるとは。


「今日は執筆日だが、取材やディスカッションをメインに行う日もある。明日がディスカッションの日だ」


 小説について、ディスカッションするんだよな。

 なんか考えただけで、ワクワクしてくる。

 ていうか……ご褒美は置いといて、部活として普通に面白いんですけど。


「よし、相馬くん連絡先を交換しようか」

「あ、ウチともしようよ」

「私も〜」


 まじか……ビッグスリーの連絡先ゲットとか……夢じゃないよな。


「私たちの、小説のURLを送っておくから、明日のディスカッションで、相馬くんの意見を聞かせて欲しい。別に全話読まなくても、キリのいいところでいい」

「分かりました」


 まあ、これが俺がこの部に召喚された理由だもんな。しっかりやらないと。


「今日は、ここまでにしよう。お疲れ様」

「「「お疲れ様でした」」」


 そんなこんなで、ウェブ小説部初日が終わった。

 色んな意味で刺激的な1日だった。


「相馬」

「……はい」

「同級生相手に『はい』じゃねーよ」

「あ、つい、反射的に」

「まあ、いいや……どうせ1人で帰るんだろ?」


 どうせって……決めつけんなよ!


「……うん」


 1人で帰るけど!


「じゃぁさ、今日はさ」


 伏し目がちに照れ臭そうに話す桐谷。


「ウチと一緒に帰ろっか」

「うん、一緒に帰ろう!」


 何の目的か分からないけど、桐谷と一緒に帰れるなんて……即答しかないだろう!

 それに、桐谷にはちゃんとオカズのことを口止めしておきたい。

 

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