いろいろ考えてしまう

こうして二人だけで歩いてると、いろいろ考えてしまう。


前世での八十年。家族すら看取ってくれなかった最後。


今世での二十年。理不尽で横暴な両親への殺意を押し殺しながら調子を合わせてなんとか生きてきた。


なのに今度は戦争か……


日本じゃ百年以上戦争はなかったのにな。ここじゃ、何だかんだと戦争をしてるらしい。それこそ、<恒例行事>みたいな調子でな。


何をやってるんだ。<大人>は……


まあ、俺ももう二十で、大体十五くらいには大人の仲間入りをするこの世界じゃ、しっかり大人か。だが、十五くらいで大人になれる理由が分かったよ。学校にも通わない。覚えることといえば仕事についてだけ。政治や経済の仕組みなんざ知らなくても何も困らない。覚えることが圧倒的に少ないんだ。むしろ、国のことは雲の上の方々が勝手にやってくれるから、俺達平民については、


『何も知るな、考えるな』


だからな。雲の上の方々が決めたことにハイハイ従ってりゃいいわけで。


とは言え、日本で生まれ育った記憶がある俺にとって二十歳なんざ、ぜんぜん大人って印象はない。それもあって、あいつの気持ちに応えてやる気にもなれなかった。なにより、鍛冶としてもまだまだ未熟だったし、養ってやれる自信もいまだにない。そうやって俺がモタモタしていたら、他の男の乗り換えるかもしれないが、別にそれでもいいさ。<結婚>なんかしても幸せになれるとは限らない。前世でのことを思い返してもただただ煩わしいだけだった。


対してリーネは本当に<子供>だ。大人と同じようにできなくて当然だ。


ここの大人達は、


『こっちの要求に応えられない子供なら要らない。死ねばいい』


だから、死にたくなかったら言いなりになるしかなかった。


だが、俺は、そこまで割り切れない。割り切れないから、リーネの足に合わせて歩いた。それでもやがてついてこれなくなってくる。


「少し、休むか?」


「…ごめんなさい……」


俺が問い掛けると、すごく申し訳なさそうに謝ってくる。怒られると思って怯えてるのも分かる。


「気にすんな。俺も休むつもりだっただけだ」


吐き捨てるようにそう言って、俺は手頃な岩の上に腰掛けた。なのにリーネは、座ろうとしない。自分がもたもたしている所為で俺が機嫌を損ねたと感じてるのかもしれない。


『違う、そうじゃないんだ。そんなに怯えるな』


と考えてしまうが、俺も同じだったよな。親に、大人に、怯えてた。変に前世の記憶があったもんだから、余計に、子供の体になった自分の非力さが思い知らされて、父親に殴られたりすると、


『今度こそ死ぬかも……次はもっとマシな世界に転生したいな……』


と、何度も思ったな……


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