第5話 角兎狩り2

 昼食後も3人でのホーンラビット狩りを続ける。

 レオはロドの姿を見様見真似で盾を使ってみるが上手く行くものではない。ただ、左手で盾を持つとそちらは怪我をすることはまずないという安心感から、盾の隙間から短剣を突き出すのも安定してくると前日の訓練もあり、それなりに格好がつくようになった。

 それに対して機嫌が良くないのがルネである。弓もあまり当たらない上に、短剣もあまり効果的な使い方が出来ていない。レオが盾と短剣を使っているのが羨ましくなり、

「レオ、その盾を寄こしなさいよ」

と盾を取り上げるのであった。ただ、今度は矢を放った後に弓から盾に持ち替えるのにもたもたしていると、レオは盾が無くなっても慣れてきた短剣を上手く扱うようになっており、結局ルネの短剣は効果を出せないままであった。


 その不機嫌のまま解体しての肉の削ぎ落としをしていると、ますます上手く行くわけがなく、

「今日はこれで終わりにしよう。ちょうど15羽だ」

というロドの言葉をきっかけに片付けをすることになった。昼食後は効率も上がり、多めに狩ることができたのである。


 討伐証明として冒険者ギルドに提出すると報酬が貰える角、色々な使い道があり冒険者ギルド以外でも買い取り手が居る魔石、ロドの本業の薬剤に使うための心臓と肝臓、手軽な割に美味しいと人気の肉という成果以外に、ボロボロながらも毛皮が入手できた。内臓以外に大きな骨も捨てて行くことで、ルネとレオが4羽分ずつ、大人のロドが残り7羽分担いで帰る。

 レオは初の魔物狩りでそれなりの経験を積むことができたが、短剣投擲だけはまったく当たらずに反省対象であった。ルネは当初目的の皮革職人としての肉の剥ぎ取り経験は積むことは出来たものの、狩りに関しては不満足な結果であった。おかげで帰り道は口数もほぼ無く、別れ際に

「レオ、明日も行くわよ」

「ダメだ、ちゃんと皮革職人の親方のところに今日の成果を持って報告に行け」

とロドに叱られるのであった。

 ちなみに、街に着いた後は先に冒険者ギルドに寄り、ロドがおまけしてルネとレオに7羽ずつの討伐報告をさせていた。レオが記念として欲しがり、ルネも同じくと言い出した魔石については1個ずつ持たせることにしたので13個の売却として、肉はレオの実家に、毛皮はルネが親方のところに、心臓などはロドの調剤用にと分けることになった。討伐報酬や魔石の売却費は昨日調達した装備代の足しということでロドが受け取った。もちろん足しになるほどの額でも無かったが、子供たちに気を使わせないためである。


 土産の肉を持ってレオの実家に皆で顔を出す。

「おーい、ディオ、アン、これでうまいものをお願いな」

「あらお帰り。ロドが居るならば大丈夫とは思いつつ、心配したのだから、まずはただいまでしょ?」

「「「ただいま」」」

 兎肉メインの夕食の後は、ロドは採取した薬草や心臓や肝臓などを再度きれいに洗った後、薬剤にするために乾燥棚に並べながら今日の成果を振り返り、誰も怪我をしなかったからまぁまぁ成功だったかなとニヤける。レオはロドに言われた通り、今日の反省として庭で短剣投擲の練習をしてからベッドに入るが、初の魔物狩りの興奮もあり寝付けない中、ロドの魔法の便利さを思い出し、やはり魔法使いは良いなぁと思うのであった。ルネは夕食を皆と食べた後は毛皮を持って皮革職人の親方のところに行き、ボロボロの結果を見ながら「良くやった」と頭を撫でられはしたものの、悔しい思いのままベッドに入るのであった。



 ルネの翌日は、持ち帰った毛皮15枚を材料に羊皮紙の製作の練習になった。自分たちが入手し、しかも傷だらけなので気兼ねなく練習できるからである。ちなみに羊皮紙とは呼ぶものの、羊である必要は無く色々な獣や魔物の毛皮も使用される。まずは昨夜のうちに水につけていたものを引き上げ、昨日に落としきれていなかった肉を更にきれいに削ぎ落とすことからである。このときには昨日の武器にも使用した短剣ではなく、皮革職人の専用ナイフを用いる。

 その後は毛を抜きやすくするために石灰を混ぜた水槽に浸しておき、毎日2~3回かき混ぜることを10日ほど続ける。そして毛や残った脂などもきれいに削ぎ落してから再度しばらく水につけて石灰分を流した後、引っ張って延ばしながら乾燥させてまた削ぎ落としを行う。この作業の際には傷があると広がってしまうので縫い合わせておく。その後は必要なサイズに切りそろえて、石膏の粉末を振りかけて軽石で表面をこすって完成させる。

 ルネは親方の工程を見たり簡単に手伝ったりしたことはあったものの、狩りをして素材を入手するなど全ての工程を自分で行うことで、思いも込めつつ失敗しても良い気兼ね無さによる試行錯誤も行ったことで、皮革職人としての大きな一歩を進めることができた。

 表向きには言いづらいがロドとレオには感謝の気持ちを示すため、試作した羊皮紙が完成したらそれをプレゼントすることにした。



 一方、ロドとレオは採取した薬草などを調合作業に取り組んでいた。普通の回復薬の調合では、素材を水洗いし、乾燥させ、粉々にし、水に溶かすことで出来上がる。魔法回復薬はさらに回復を促す要素を魔力で励起することで完成する。不純物が混ざるほど効果が下がるため、素材や器具の洗浄の水や、溶解するための水には純度が求められる。ロドは≪水生成≫で純水を生み出すことができることから他者よりも高品質な回復薬を提供できている。

 回復薬は、効力により低級・中級・高級・特級・神級に分類され、傷回復薬の神級は失った四肢まで回復できると言われるが存在は伝説レベルである。また魔法回復薬は直ぐに効果が反映されるが、通常の回復薬は時間がかかる上に、低級や中級がほとんどである。ロドの回復薬は中級上位というところである。

 ロドが≪水生成≫で生み出した水を用いて、作業ナイフ、薬研(やげん)、篩(ふるい)、薬瓶などを洗浄するのがレオの分担となっている。もし≪水生成≫が出来ない場合は、不純物が混ざらないように作った蒸留水を使用することになる。

 人付き合いを苦手とするレオは寺小屋の先生にはなれなくても、何とか薬剤師にはなれないかと考えており、薬草の種類や作業工程を必死に覚えているが、やはり≪水生成≫のような魔法の使用を羨ましく思うのであった。

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