第7話 ゲーム内の町
「さて、あとは君をゲーム世界における拠点に転移させれば、本当の意味でゲームスタートになる」
「はい」
身分証となるカード。
それを渡すまでが、ゲーム開始前のチュートリアルになっているらしく、松山はこれからのことを話し始める。
大体のことは分かったため、幸隆はう園児と共に頷く。
「けど、さっきも言ったように、君呪われているから治してから搭の攻略に挑めよ」
「はい」
現実世界では判明しなかったが、身分証の文字が緑色になっていることからも分かるように、幸隆は何者かによって弱体化の呪いがかけられている。
そんな状況では、ゲームの最終目的である搭の攻略なんて話にならないため、松山は再度幸隆に警告する。
「そのカードの裏にヘルプ機能が付いているから、分からないことがあったら使うといい」
「あっ! 本当だ」
松山は、説明と共に幸隆の持っている身分証を指差す。
言われた通りにカードの裏側を見てみると、たしかにヘルプのマークがある。
このマークをタッチすれば、疑問を調べることができるようだ。
「まぁ、死なない程度に頑張ってくれ」
「……はい」
ゲーム内で死んだら、現実でも死んでしまう。
まだそれが本当なのか確信が持てないが、それが嘘だとしたら呪われていることで弱体化しているということも嘘になってしまう。
そう考えると、ゲームでありながら現実とリンクしているということを信じざるを得ない。
これから向かう世界を楽しみな気持ちと共に、呪いを解かないとすぐに死んでしまうかもしれないという恐ろしさも感じつつ、幸隆は松山の励ましの言葉に頷いた。
「じゃあ、行くぞ?」
「はいっ!」
松山が幸隆に両手を向け、確認するように問いかける。
その最後の確認に返事をすると、幸隆の視界が歪んだ。
「…………ここがスタート地点?」
歪んだ視界はすぐに治まる。
そして、幸隆は周囲を見渡した後に一言呟いた。
「拠点って言ってたな……」
転移した先は、建物の中だった。
ここが、松山の言っていた拠点なのだろう。
すぐにでも外に出てどんな世界なのかを確認したいところだが、その気持ちを抑えて、幸隆はまずこの拠点の中を調べてみることにした。
「……最低限って感じだな」
風呂・トイレ・キッチンに、ベッドと小さめの机と椅子が置かれた4畳半ほどの大きさの部屋が一つあるだけ。
幸隆が言うように、生活するうえで最低限の設備が設置されているだけのようだ。
「っで、これでログアウトできるのか」
玄関から入って右側といったところに、ほとんど木でできた部屋に似つかわしくない小型のモニターのような物が設置されている。
モニターの近くには、ログアウトの仕方の説明書きが張られていて、カードの挿入口のような物も付けれらている。
ここに松山から渡された身分証を入れて、説明書き通りの手順で操作すれば、ログアウトできるようだ。
「ここの世界で死んだら死ぬ。それが本当なのか確認しよう」
ゲームの世界と現実世界がリンクしている。
そう松山から説明を受けたが、それが本当なのかを確認しておきたい。
そう思った幸隆は、説明書き通りの手順でログアウトをおこなった。
「……おぉっ! 出られた」
一瞬暗闇に覆われたと思ったら、次の瞬間には自宅のリビングに立っていた。
見慣れた室内を見渡して、幸隆は安堵の声を漏らした。
「……本当じゃん!」
現実に戻れたことが分かった幸隆は、すぐに指を確認する。
松山から身分証を受け取り、その機能を発動させるために血を垂らした。
その時、血を出すために針を刺した指には、薄っすら血が滲んでいた。
そのことから、幸隆は松山が言っていたことが本当だったのだと確信した。
そして、自分が呪いによって弱体化していることも本当なのだと分かり、嬉しさが込み上げてきた。
呪われていて嬉しいなんておかしな話だが、不明だった弱体化の原因が分かったのだから仕方がない。
「そうと分かれば……」
松山の言っていたことの確認は取れた。
ならば、次にやるべきことは1つ。
そう思った幸隆は、ゲーム機に近付く。
ゲームからログアウトすると、電源が切れるように設定されているのだろう。
もう一度ゲーム内に戻るために、幸隆はゲーム機の電源を入れた。
「……よしっ!」
電源を入れると魔法陣が浮かび上がり、幸隆はその魔法陣に吸い込まれる。
そして、視界がはっきりすると、ゲーム内の拠点のログアウト機の前に立っていた。
2度目以降は、松山の説明がカットされるようだ。
「次は拠点の外だ」
拠点内はすでに把握し、ログアウト方法も分かった。
そうなれば、次はどんな町になっているのか確認したい。
そう思った幸隆は、玄関の戸に手をかけた。
「おぉ~っ!」
小さな庭のある小屋。
そんな拠点から、石畳の道が通っている。
その道の先に、いくつもの家屋が建っていて、中世ヨーロッパといった感じの街並みになっている
それを見た幸隆は、ゲームといえばこの景色だと、予想通りで嬉しい感じで声を上げた。
「……教会!!」
町の散策を始めた幸隆。
拠点の場所を忘れないように、まずは道を直進する。
そして、目的のものを発見して、思わず声を上げた。
この道沿いにあることを期待しつつ探していた施設、教会だ。
ゲームで呪いを解くと言ったら、最初に浮かんだのがここだ。
「あの、すいません」
「はい。どうしました?」
開いていた扉から中を覗くと、シスターらしき女性を見つけ、幸隆は声をかける。
「呪いの解除ってここでして貰えるんですか?」
「はい。神父様によって解呪することができます」
シスターの答えを聞いて、幸隆は「やっぱり!」と思った。
現実でも、この世界でも、幸隆にとっての最重要事項は解呪だ。
それができる場所が早々に見つかり、喜びで思わず笑みが浮かんだ。
「ですが、解呪は神父様にかなりの労力を要します。そのため、呪いの強さによって、頂く寄付金の額が変わります」
「……そう…ですか」
松山のゲーム説明の時、現実同様こちらでも解呪するのにお金がかかると聞いていた。
そのため、シスターの説明を聞いた幸隆は、今度は「あぁ、やっぱり」と思った。
「俺の呪いを解くのにいくらかかるか分かりますか?」
「少し調べてみましょう」
「お願いします」
解呪にお金がかかるのは仕方がない。
ならば、いくらかかるのかだけでも知っておきたい。
そう思った幸隆は、シスターにその金額を尋ねた。
すると、シスターは幸隆を祭壇の前に残し、どこかから水晶玉を持ってきた。
どうやら、これで呪いの強さが調べることができるようだ。
「こちらに手を乗せてください」
「はい……」
言われた通りに水晶玉の上に手を置く。
すると、シスターは水晶玉に魔力を流し込んだ。
「……結構強いですね。人なら数人がかりで掛けないと無理な呪いですね」
「数人……」
シスターが魔力を込めると、水晶玉に変化が起きる。
黒っぽい色になったかと思うと、少しずつ青、緑、黄色へと変化していき、オレンジ色になった所で変化が止まった。
それを見て、シスターは幸隆が掛けられた呪いの強さを簡単に説明してくれた。
その説明を受けて、幸隆は眉根を寄せて首を傾げる。
それだけ強い呪いを受けなければならないようなことを、誰かにした覚えがない。
どこの誰かも分からない人間に呪いをかけられたのかと思うと、納得がいかない。
「この呪いを解くとなると、寄付金は3百万ドーラになりますね」
「……そうですか。ありがとうございました。お金を溜めてまた来ます」
「はい。あなたに神の祝福がありますように」
解呪には3百万ドーラかかる。
それを聞いた幸隆は、調べてくれたシスターに礼を述べる。
すると、シスターから聞いたことあるようなフレーズが聞けて、ちょっとだけ気分は良くなった幸隆は、教会を後にすることにした。
「ドーラ……」
教会から出た幸隆は、すぐに身分証を取り出す。
そして、裏に付いているヘルプ機能を作動させて、疑問を検索した。
「あっ!」
身分証に松山の姿が映ったため、幸隆は思わず声を漏らす。
ゲーム説明を受けてあっさりと別れる形になったが、どうやらヘルプ機能を請け負っているようだ。
「ドーラはこの世界における通貨単位だ。1ドーラはそのまま1円だと思えばいい」
松山は説明を始め、終了すると身分証から姿が消えた。
「つまり……、3百万だと!?」
ドーラがこの通貨単位だということは、幸隆の中では察しがついていた。
それよりも知りたかったのは、1ドーラが1円ということだ。
知りたかった情報が分かり、幸隆は解呪にかかる値段に驚き、町中だというのに思わず大きな声を上げてしまった。
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