第10話


 静かになった街道で、ユーイチは1人途方に暮れて立っていた。オークの首を持っていく約束だが、袋を用意していなかったのだ。


『ビニール袋を作成しますか?』


「ありがとう。手提げビニールに首を入れる俺は、地球じゃ殺人鬼だよな。」


 とりあえず首をビニールに入れてから、ゴワイルを待つ事にする。適当に生木を燃やしていれば、狼煙代わりで気が付いて来るだろう。


『遺体の処分はどうしますか?』


「この後にゴワイルが来るから、その後にどうするか判断しよう。埋めるようなら、そっとナノマシン化処分しちゃおう。」


 ペットボトルの水を出して貰って、手を洗おうとするが、やっぱりアドレナリンが切れると震えてくる。

 そっとナノ君がペットボトルを持ち上げて水を掛けてくれる。ユーイチは石鹸で執拗に洗う。


『ユーイチさん。精神を落ち着かせるセロトニンを分泌させています。』


「まぁ俺がこの世界で生きるにはやるしかないから、仕方がない。」


 手を洗い終わると、例の謎物質のアザが消えていた。石鹸で洗ったから?それともオークを三体倒したから?

 まぁいいや。バナナやチョコレートを食べて、コーヒーでも作ろう。


「とりあえず、この荷馬車って持ち主に返すんだろうか。拾った物は俺の物?な理論なのだろうか?」


『現在の索敵範囲に、警察などの公的機関など確認されていません。』


「そうだよね。この世界の公共機関とか、そんな知識も欲しいよね。」


『あの村での最大戦力は、確実にユーイチになるでしょう。囲い込まれないよう注意が必要です。』


「まぁ普通の生活やら色々な所を見たいから、旅に出る事は確定だね。」


『そのようなプランを作成致します。報告します。30分程でゴワイルが到着します。』


 コーヒーが出来たので、飲みながら新しく作ってもらったトマトを齧って待つ事にする。マモリちゃん?そんなにチョコレートを出されても食べれないから。

 そんなお茶休憩をしていると、30分ほどでゴワイルが到着する。


「無事だったようだな。...オークは2体しか確認出来ないが。」


 ヤバい。一体は爆散しちゃったよ。まぁ素直に言うか。


「すまん。全力で力を使ったら、爆散しちまった。」


 あ、ゴワイルが「何言ってるんだコイツ」って顔してるぞ。まぁ説明しておくか。


 馬車に乗ってる奴らが襲われそうだったので、全力で槍を投げたら、オークと共に砕け散った。助けた人達は森の中を走って逃げていったので、俺はオークを瞬殺して、一体は戦闘訓練として殴り殺した事も伝えた。ゴワイルは俺の手についていたアザの場所を確認する。


「...オークを殴り殺したのか?」


「あぁ。最後は首が折れて死んだが。」


 ナノマシン強化ある程度の全力で殴り付けてれば当然だよね。最後の方は腕がゴリラ並みに太くなった筋肉で殴ってたからね。


「それでゴワイル。この荷馬車なんだが。」


「あぁ。馬が無いと引っ張っていけない。いや。ユーイチは引っ張っていけるか。村で売るか?村長に買い叩かれそうだが。」


 うん。ゴワイル。ぶっちゃけたな。ならぶっちゃけてみるか。


「買い叩かれそうになったら、脅しても良いんだろ?どうせ俺の事を生贄にしようとしていたんだろ?俺が3体とも倒せると思っていなかっただろうし。

 ゴワイルの追加の仕事として、俺の遺体から金を回収する事でも頼まれてたか?」


 ナノ君が聞いていたからね。


「あぁ。騙して契約しようとしていた時点で村長は気に入らん。だが村での話し合いの決定は絶対だ。だが、俺がオーク討伐に加勢してはならん。と言われてないから、これでも全速力で追いかけて加勢するつもりだったんだがな。」


 うん。そんな感じだと思ってた。


「なんであいつが村長なの?血筋か?」


「あぁ。あいつの親が村長で、怪我で倒れていてな。引き継いだばかりだ。」


 弟のグイフ君の方がしっかりしてるぞ。


「グイフ君じゃダメなのか?まだしっかりしていそうだが。」


「そんな意見もあった。俺も若いながら周りを見て判断する良い大人になると思っている。あと1年で成人だったが、歳が若い事。他の青年達がカリウスに付いていたので、村長になれなかった。

 まぁそんな青年達もオークに喰われちまったがな。」


 めんどくさそうだな。だがこれって恩を売るチャンスじゃない?


「なぁゴワイル。俺と契約しないか?期間はグイフ君が成人するまで。オークを倒せる人材。それがグイフ君に付く。

 これから若者達の遺体も遺品も回収して家族に返却する。この荷馬車の荷物も村長じゃなくて村人に安く売る。」


「先代の村長に借りがある。村は裏切らん。」


「ゴワイルに求めるのは、裏切りなんかじゃない。俺のこれから得る情報を生涯、人や物に伝えたりしない事。俺が欲しいのは知識だ。お前の持つ知識が欲しい。

 この辺りの常識から、狩人の知識まで知れるだけ知りたい。そして契約中に住める場所と生活出来るレベルの簡単な仕事だな。」


「わかった。だが、村人やカリウスを殺さない事が条件だ。」


 あれ?俺ってゴワイルから殺人鬼に思われてる?まぁオークを殴り殺していれば、思われるのも仕方がない。


「契約書はあとで用意しよう。家にも何枚かある。」


 あぁ。あのアザになるヤツね。契約を交わしてから「これ何?」と聞こう。何かしらメリット。デメリットがありそうだ。


(ユーイチさん。村から出ないのですか?支障のない脱出プランを完成しておりますが。)


 マモリちゃんが心配してくれてる。ごめんね。いきなり計画変えちゃって。


(色々とこの世界の基本知識を教えてもらわないといけないから、この契約とゴワイルの性格は信じれると思う。勿論。話すのは程々にするけどね。)


(了解しました。他人に話そうとした時点で私が処分します。契約には『ユーイチさんは村人を害さない。』と記入してください。)


 うん。マモリちゃんは契約の穴を突くのも出来るらしい。初めの頃に比べて人間味が増してきた?これも変異の一種なのか。今度相談してみよう。


「さて。ゴワイル。村人達の遺体を回収しに行こう。オークの遺体は回収しなくていいんだろ?」


「あぁ。オークは使える素材は肉を食える位だ。だが、村人を食った肉を食いたくない。」


 オークも食えるんだね。覚えておこう。そんな事を考えつつ、遺体を森の中へ放り投げておく。血の匂いで何体が獣が寄って来ている。


 ユーイチは倒れた荷馬車を戻すと、荷馬車の中にある商品梱包の布を何枚か引っ剥がして持って行く事にする。

 森の中をゴワイルの案内で歩き、10分程すると腐臭を感じた。そして洞窟を見つける。


(ユーイチさんの精神に負荷が有ります。意識を仮想空間に移動して、私が処理を行いますか?)


 マモリちゃんが優しく伝えてくれる。だが俺も男の子!いやオッサン!負けない。


(ありがとね。マモリちゃん。でも大丈夫。)


 洞窟の奥はマモリちゃんのおかげで明るく見える。松明の準備をしていたゴワイルと共に、俺は黙って散らばった肉片や衣服の残骸を回収する。それを馬車まで戻って積み込む。

 折れた剣。知らない誰かの頭。赤黒くなった靴。バラバラだが雑な食べ方のせいか胴体は無いが、大体は回収出来た。


 奥には明らかに最近ではない骨も見つかる。彼らの骨は別にしてビニールに入れる。かなりの量になったので、俺が担いで荷馬車へと戻る。


 荷馬車って重いよな?動くかな?そんな事を考えつつ、試しに1人で引っ張ってみる。あ、重いけど動くわ。気分は人力車な気分だな。

 横を歩くゴワイルは、呆れた表情を浮かべる。まぁ気にしないでおこう。


「さて。村に戻るか。」


 村へと歩きながらゴワイルと色々と話す事が出来た。この世界の事や常識を少し入手出来たぞ。

 そんな会話をしていると、ユーイチは気付く。この世界に来てから今日が1番、人と喋った事に。残念ながら相手がオッサンで、これから村長の役職を蹴落とす仕事の話しなのが味気ない。


 まぁ、オッサン同士の話しだったが、オーク討伐やら、村人の遺体回収で気落ちしていた気晴らしにはなった。そんな帰り道であった。



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