男の娘ニンジャ、丸呑みにされる!?

「そらそら逃げられるかい?」


 ネバネバのウロコを、アナンターシャは次々と投げつける。


「うわっと!」


 スピードは、大したことがない。これなら、避け続けられる。

 が、天井がどんどん粘り気を帯びていく。分銅がもたないかも。


「あっ! しまった!」


 とうとう、分銅が天井につかなくなった。


「これで、もうおしまいだよ!」

「それは、どうかな?」


 ボクは分銅を投げて、天井へ突き刺した。


 手に持った分銅を、ボクは思いっきり引っ張る。アナンターシャを「日向へ」と誘導するために。


「なにをする気……かああああ!」


 ようやく、アナンターシャにも理解できたらしい。


 同時に、天井が一気に崩れ去る。

 大量の日光が海底神殿を照らし、アナンターシャに降り注ぐ。


「にぎゃあああああああ!」


 そう。これがボクたちの作戦である。


 ボクがヘイトを稼ぎ、ルティアが偽りの必殺技を繰り出す。そこで相手が耐えきって油断したところを、日光で弱体化させるのだ。天井を切り裂いたのは、キュアノである。


 コイツは、陽の光に弱い。もし、太陽に強ければ表舞台に出てくるはず。しかし、そうはしなかった。アナンターシャはゲーアノートやエチスン卿に、頼らざるを得なかったのである。


『邪神と融合して、アナンターシャは海から出られなくなったのです』


 シュータの解説は正しかった。


「うええええ! こ、こしゃくな若造ども! けれどね、そんな程度の日光なんかでわらわは!」


 そう。ボクがピンチなのには変わらない。


「さあ、おとなしく食われちまいな!」


 大きく口を開けながら、アナンターシャがボクの落下地点まで待機する。


「うわああああああ!」


 ボクの身体が、アナンターシャのノドに吸い込まれていった。


 ゴクリと、アナンターシャが嚥下する。


 ボクは、丸呑みにされてしまった。

 ドロッとした滑り台のような食道を、ボクはスライダーのように突き進む。うええええ、生臭い!


 そのまま、胃袋に到着した。


「ゲヘヘヘェ! 情けないね。そのまま胃の中で、溶けてしまいな!」

「かかったのは、お前の方だ!」


 胃壁が塞ぎ切る前に、ボクは分銅の先を、胃袋に向かって投げて突き刺す。


「皮膚は頑強そうだけれど、口の中はどうかな?」

「なにい!? へほおおお!」


 アナンターシャは、まだ口を開けたままだ。上を向いた状態で嘔吐している。


 あらかじめ、ボクは分銅をアナンターシャの前歯に引っ掛けていた。それを引っ張って脱出をする。


 アナンターシャの口の中に、ルティアが飛び込んできた。騎銃を構える。アナンターシャが口を閉じられないように、足を伸ばして上アゴを押さえながら。


「いいよルティア!」

「おう!」


 ボクが脱出すると同時に、ルティアは騎銃の引き金を引く。


「て、テメエ!」

「死ねええええええ!」




 アナンターシャの体内めがけて、ルティアが雷撃を放出する。

 ありったけのパワーを込めた一発を見舞った。


 黄金の雷は、ボクの分銅を伝って、アナンターシャの心臓へと向かう。



「げぼおおあ!」


 雷撃に耐えられなくなったアナンターシャが、ビクンと跳ね飛んだ。心臓に、雷が直撃したのだ。


 ルティアの攻撃はそれだけに留まらない。


 アナンターシャの腹が、雷を食ってみるみる膨れ上がっていく。


「き、貴様! 太陽の光を雷撃に変えて!」

「そうだ。闇の化身であるお前には、光の象徴である日光は取り込めねえだろう!」


 シュータが太陽光を取り込んで、ルティアが雷に変換する。


 外はもう明るい。今は天井から光が降り注いでいた。


 キュアノに天井を開けてもらったのは、これも作戦のうちだからである。


「吹っ飛べ、アナンターシャ!」


 ルティアの雷撃が、アナンターシャの身体を突き破った。


「ぶへえあああああああ!」


 割れた風船のように、アナンターシャが破裂する。海底宮殿を起点として、稲妻の柱が立つ。


 この街に根深く巣食っていた、闇の女王にふさわしい最期だった。


「みんな、私の後ろに!」


 爆発の瞬間、キュアノがサーベル型のパラソルを開く。球状の障壁を作って、衝撃波を防いでくれた。


 怪物が砕けた爆風は、凄まじい。強固な海底宮殿の壁を突き破った。脱出口も、ガレキで塞がっている。


 光が消えると、魔物は跡形もなく弾け飛んでいた。黒いススのような破片が、宮殿の床を汚している。


「建物が、揺れているよ!」


 お約束のダンジョン崩壊が、始まったらしい。


 グズグズしていると、ボクたちも宮殿の下敷きになってしまう。


 不倶戴天の敵を葬ったルティアは、放心して感慨にふけっている。


「逃げるよ!」


 ルティアのお腹を抱えて、急いで脱出を図った。落ちてくるガレキを足場に、飛び移る。


 キュアノも、同様の動きでついてきた。


「ヤバい! 海水が入り込んできた!」


 宮殿を痛めつけすぎたらしい。水圧が押し寄せてきていた。脱出どころかこのままじゃペチャンコだ。


「急ぐよ!」


 振り返るヒマがない。ボクは猛スピードで上へと移動する。


「ヤバイヤバイ!」


 水の音が、すぐそこまで迫っていた。


『水圧は大丈夫なのです。しかし、波が!』

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