第2話 親の手書き文字を見る機会

 実家を離れても年賀状のやり取りなどしていなかったので、父の文字を見る機会を長らく失っていた。


 たまに荷物を送ってくれるけれど、そこに書かれた住所と名前はいつも書いているものだからさほど昔と変わらないように思えた。

 母からの荷物であっても、父が宛名を書いていた。


 母はそのくらいの文字も面倒くさがって自分で書こうとしない。


 しかし、たまに母が作った歌の歌詞を送ってもらうと、まさかのこの時代に、破ったノートに鉛筆で手書きの歌詞が送られてくるのだが、その文字は昔のまま、少しくせがあるけれど綺麗な字だ。


 実家を離れて親の文字を見る機会がぐんと減ると思うが、年賀状でもいいので1年に1度くらいは見る機会を持ってみてほしい。



 父の文字は安定を失い、少し震えた文字に変化していた。


「俺が昔撮った写真、送るかい? この間古いネガからデータにしてもらったから、印刷できるようになったよ」

 先日突然、父からこんなLINEがきた。

 昔のものの片付けでもしていたのだろうか。


 父はとても綺麗な景色の写真を撮るので、欲しいといったら欲しいのだが、私も今ミニマリズムでものを減らしに減らしまくっている。

 紙の写真としてもらうのは遠慮したかった。


「データだったら欲しい」

と返信すると、後日SDカードパンパンに入れた写真のデータを封書で送ってくれた。


 正直なところ、Dropboxなんかを使えばその場でやり取りできるのにな、と思ったけれど、余計なことは言わない。

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