第9話 じゃあ、忘れさせてよ。

 お互いの気持ちを確認してから2ヶ月が経とうとしている。

 栩木さんはバレンタイン前にキッパリ振ったので、他の男性社員と同じ義理チョコを貰った程度だった。鈴木先輩からも義理チョコを頂いたし、営業部にいる女性の同期社員からも貰ったし、儀礼の範囲内だ。

 ナオさんとは順調に関係が続いている。週の半分くらいは俺の部屋に来るようになったが、お互い一人の時間も尊重し、ナオさんはジム通いやランニング、筋トレやストレッチを。俺も部屋の片づけや掃除、調べものをしている。いくら好きでも一人になりたい時間もあるのだ。

 もちろん二人でご飯を食べている時などは、「GWはどこか旅行に行きたい」、「海外は行ったことがある?」など、夢がある話をしている。我が社は日頃はタフだが、GWやシルバーウイーク、お盆、年末年始は飛び石になっていても、きりが良い所まで全部休暇にしてしまうので、長期休暇が可能だ。


 夜の方は、ナオさんに月の日があり、当然我慢が必要な時がある他、社泊や深夜残業でクタクタになり、お互いそれどころではない日もあったが、こちらも順調だ。基本的には夜シャワーを浴びた後や、休日の朝にどちらかからそういう雰囲気になり始まることが多い。


 二人ともシャワーを浴びて髪も乾かし、ベッドの中で寝るか“する”かの状態で、まったり向かい合って添い寝している。ナオさんは俺の胸の辺りに顔を埋め、上目づかいで話しかけてくる。

 「ねえ、4日連続になるけど、ユウジ君の大丈夫なの?チンチン痛くないの?」

 「大丈夫ですよ。さすがに夜の間に2回って言われるとキツイですけど、明日朝とかならチャージ完了です。」

 「すごいね。精子って無くならないんだね。」

 「ははは、俺、学生時代なら毎日2、3回オナニーしてましたよ。」

 「エッロ、そんなのこっちがもたないよ。」

 「痛くないし、枯れたりしないから、ナオさんがしたい時は言ってくださいね。俺もしたい時は甘えさせてもらいますし。」

 「じゃあ、遠慮なく。ってか、今までもあまり遠慮したこと無いけど。」

 「俺、入社してからずっとナオさんに憧れてたんですよ。美人で、カッコよくて。」

 「おお、急にどうした。もっと続けてよ。ほら、私、褒められて伸びるタイプだからさ。」

 「ははは、じゃあ続けますよ。ナオさんは運動していてスタイルもいいし、肌も滑らかで綺麗、おっぱいは美乳。」

 「えー、美乳とか男の人にも女友達にも言われたこと無い。普通のCカップだよ。」ナオさんは笑いながら言っているが、まんざらでもなさそうだ。


 胸の事もそうだが、付き合っていて、ナオさんがコンプレックスに思っている事にいくつか気が付いた。1つは年齢だ。ナオさんの年齢は30で、もうすぐ31だ。俺は26。K市で初めて身体を重ねてから1年以上経っている。ナオさんは自分の方が年上であることを気にしているみたいだが、俺は気にしていない。運動をして体型や体力が維持できているし、肌も引き締まって張りがある。それに、性格的に従順なだけの女性ではないので、俺のような年下の彼氏がナオさんを支えるのも悪くないはずだ。

 ナオさんにはこれとは別の違和感がある。ナオさんは自分から誘ってくることがあるし、自分がやりたい事や、やって欲しい事をリクエストしてくることもあるが、行為中は基本的に俺になされるがままだ。ナオさんからアクションがあるといえば、気分乗っている時のディープなキスと騎乗位くらいで、肌のふれあいや温もりを求めて来る一方で、枕や手で顔を隠したり、横を向いて恥じらい、どこかで遠慮し、何かを我慢をしているように感じる。騎乗位で俺のモノを自分の指の代わりに使って自慰するようなストレートな性欲と、極力正面から顔を見せようとしないギャップがもどかしい。何かあるはずだ。


 ナオさんを称えて喜ばせる時間はつづく。

 「あと、俺、ナオさんのキスが好きです。柔らかくて、温かくて。」

 「ホントに?」なぜか少し不安げに聞いてきた。

 「ソフトなのもハードなのも気持ちよくて好きですよ。」少し茶化して言ってみたが、ナオさんは笑っていない。

 「ユウジ君は嫌じゃないの?」

 「何がですか?」

 「大丈夫なら、いいんだけど。」ナオさんは言葉に詰まっている。

 俺はナオさんに顔の高さを合わせて真正面になるように移動し、左手でナオさんの髪をかき上げて、軽くキスをする。

 「ほら、全然嫌じゃないですよ。ディープもしよ。」

 ナオさんもコクリと頷き、もう一度、キスをした。ナオさんの舌も応えてくれた。ナオさんは「へへヘ」と嬉しそうに笑った後、

 「実はね、私、口にコンプレックスがあって。」言葉を選びながら打ち明けてくれる。

 「ユウジ君、優しいから気がついてても言わないかもしれないけど、私、元彼に口が臭いって言われたことがあるの。私が社会人になりたての頃だから、だいぶ前の事だけどね。それから男の人と正面から向き合って、深い関係になるのが怖くなったの。嫌われちゃうんじゃないかって。」ナオさんの違和感の理由が分かった。

 「気になって、ちゃんと病院にも行ったんだよ。そしたら軽いドライマウスなのかもしれないんだって。でも軽いのだから、特別な治療が必要なわけではないし、すごい緊張している時や体調が悪い時以外は、気を付けていたら大丈夫なの。当然キスとかで移ったりすることは無いらしいから、そこは安心して。」しばらく沈黙が続く。

 「我儘で可愛げが無い上に、臭かったりしたら、彼氏ができないし、できても長続きしないよね。」


 「なんか、私のせいでしんみりした雰囲気になっちゃったね。今日、する?縮んじゃった?」気まずそうな顔をしているナオさんのおでこに自分のおでこを付けて、軽く抱きしめる。

 「俺はナオのこと大事にするから、昔の事なんか忘れなよ。」

 「じゃあ、忘れさせてよ。」ナオさんは俺の胸を拳でドンと叩く。少し涙声だ。  

 「可愛い、綺麗だと言い寄ってきて、何度か抱いたら他の女にも手を出したり、私を捨てる男ばかりじゃないって、証明してみなさいよ。私の気が強いから?胸が小さいから?口が臭いから?すぐ捨てるんだったら、最初から手を出さないでよ。」

 「俺は信用できる部下であり、彼氏なんでしょ。」

 「そうだよ。そうだけど、いつかいなくなるじゃないかとか、誰かに取られるんじゃないかって不安になる。」

 「俺はナオさんの事が好きだし、ナオさんの事をもっと知りたい。俺、頑張って、ナオさんが昔の事なんて思い出す暇がないくらい夢中にさせますよ。だから、これからも一緒にいましょうよ。」

 「うん。ありがとう。……あと、八つ当たりで叩いてゴメン。」今度は、ナオさんからソフトなキスをしてくる。


 俺がナオさんの前開きのパジャマのボタンを一つずつ外していく間、ナオさんはベッドの中で、自分のパジャマの下とショーツを脱いだ。俺もナオさんのボタンを外した後、身体を起こして上のパジャマとインナーを重ねたまま脱ぎ、下も一気に脱いだ。

 「寒いでしょ。」自分が脱いだパジャマの上着をナオさんの上にかけてあげる。

 「ちょっとだけ。」

 「ゴム着ける間だけ、少し待って。」

 「うん。」

 装着後、座っている俺の上にナオさんに乗ってもらい、抱き合っている二人を布団で包む。

 「対面が多くなってゴメンね。エアコンの温度上げておけば良かった。」俺とナオさんはお互い耳元で囁くように言葉を交わす。

 「ううん、私もこれ好きだからいいよ。布団被ってると温かいし。」

 「私もパジャマの上、脱ごうっと」ナオさんはモソモソ動いて、袖から手を抜きパジャマを脱いだ。俺とナオさんの肌が密着し、胸の柔らかい感触をダイレクトに感じる。

 「ユウジ君の、もう十分固いし、入れようか。」

 「ナオさんは大丈夫?俺、何もナデナデしてないけど、入れても痛くない?」

 「ははは、ユウジ君がカッコイイこと言ってくれたから、それだけで濡れてるよ。」ナオさんは俺のモノを手で導き、中に差し込んでくれた。少し胸と胸の間が空いたのを機に、ナオさんにキスをした。

 「俺はナオさんとのキス、好きですよ。何度も言いますけど。」

 「ありがと。」ナオさんはそう言った後、俺の首に手を回し、切ない顔をしながら腰をゆっくり動かし始めた。ナオさんの温かい吐息が俺の顔にかかる。感じている表情が愛おしかった。

 「あと少しでイキそうだけど、最後はユウジ君に入れてほしい。いい?」

 「うん。」ナオさんの腰と頭を手で支えながら、ゆっくりとナオさんを寝かせて、正常位になった。布団は脱げちゃったけど身体がほてっていて寒くない。ナオさんをしっかり奥まで突いて、俺を感じてもらう。

 ナオさんが「イク」短くそう言った後、キューっと中でも外でもナオさんに抱きしめられた。

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