第7話 冬はハグに限るねー。あったかい。

 無事に料理支援アプリのアップデートの納品を12月22日にすることができた。納期は28日だったが、クリスマス前後や年末ギリギリでは発注先も忙しないだろうと、その前に最終検品を済ませ、先方へ出向き、一通り説明しながら納品させていただいた。これで無事に年末年始を迎えることができる。

 納品を済ませた後は少し早い年末年始の休暇を取れた。俺は実家の愛知へ、ナオさんも実家の福岡へ帰郷した。あの残業の後も何度か深夜残業をしたが、俺からもナオさんからも仕事以外の事を話すことは無く、二人の関係に進展は無かった。


 成人式の日を含めた3連休が終わり、我が社の新しい1年が始まる。と言っても俺達の企画・設計部はいきなり案件に追われるような事もなく、その週は各顧客へ新年のご挨拶を、近隣には訪問して、遠方には電話でするくらいだった。

 週が変わると俺達のペアも本格始動で、当面1月末のプレゼン資料作成に取り掛かる。都内の仕事で、かつ、現在受託している事業の契約更新案件だったので工期は十分余裕があったが、金曜日にナオさんからの指示で残業することになった。3年前に我が社がプレゼンした際の資料とバックデータを揃えて、報告するようにとのことだ。工期に余裕があっても、ナオさんは細部を詰めるために前半からのめり込むの事は、ままあることだ。

 俺はその日丸1日かけで過去資料を整理し、データベースから参考資料もプリントアウトして、ナオさんに報告できたのは21時、それから二人でディスカッションをしていると日付が変わっていた。

 「ありがとう。お疲れ様。続きは週明けにしよう。タクシーを呼んでくれる?」オフィスには営業部のペアがもう一組仕事をしていたが、俺達は帰宅することにした。

 

 予約をしたタクシーに乗る。いつも俺が後部座席の奥に座り、途中で降りるナオさんが後から乗る。行き先を告げるとタクシーは静かに走り出した。運転手さんも必要最低限しか話さない人だった。俺はベラベラしゃべる運転手が面倒くさくて苦手だ。

 荻窪駅が近づき「停めやすい所で止まってください」と声をかけると、タクシーは信号の先の路上に停車した。しかし、ナオさんは降りようとせず、右手をそっと俺の左足に置いて、ゆっくり首を横に振っていた。

 俺は「三鷹駅へお願いします」と告げる。運転手さんは何も言わず車を走らせた。誰もしゃべらない無言のタクシーが駅に近づく。駅近くに停めてもらい、コンビニに寄りながら徒歩10分くらい歩くこともあるが、今日はナオさんと一緒なのでマンションの前まで乗ることにした。


 「散らかってますけど、どうぞ。」

 「お邪魔します。」ナオさんは珍しく脱いだパンプスを揃えて、俺の部屋に上がった。玄関を入ると3メートルくらいの短い通路があり、玄関から入った一番手前にトイレの扉、その隣に通路から直角に洗面所があり、洗面所の右手に浴室の扉がある。バスとトイレがセパレートだ。

 「想像よりもきれいな部屋、それに広いね。」約9畳の部屋を物珍しそうに見ている。

 「あまり物が無いだけですよ。何か飲みますか?」

 「じゃあ、お茶をお願い。」俺は、冷蔵庫からペットボトルを出し、コップに入れただけのお茶をテーブルに出す。冬は布団をかぶせてコタツにする低いテーブルだ。俺は部屋の暖房を入れて、コタツのスイッチも入れる。ナオさんを促して二人ともコタツに入った。

 「先に真面目な話をしたいんだけど、いいかな。」コタツの対面に座っているナオさんが、正座に座り直しながら言う。

 「はい。」

 「年末はありがとう、私に気持ちを伝えようとしてくれて。正直に言うと私も同じ気持ちだったから、すごく嬉しかった。」

 「やった。」俺はバレないようにコタツの中で拳を握った。ナオさんも笑ってくれた。

 「でも、社内恋愛はやっぱり自信が無い。年末年始に実家でも考えたけど、仕事に集中できなくなりそうだし、自然な自分ではいられない気がする。」

 「だから、ユウジ君がもし本気で付き合ってくれるなら、私、退社しようかなと思ってる。」ナオさんは決まりが悪そうに苦笑いしている。

 「何も辞めることないんじゃないですか。それに、もし辞めるなら俺が辞めた方が…。」

 「ううん、二人ともうちの会社のままだと関係が深められないまま壊れちゃうかもしれなし、辞める覚悟なら前からできている。」

 「K市出張の時、ユウジ君を“誘った”のは私にとって大きな賭けだったんだ。部下に手を出すわけだし。もしユウジ君に「止めてください」とかって断られたら、私は会社にいれなかった。」

 「ああ、確かに。男女逆なら犯罪ですね。」俺はK市出張の夜を思い出した。

 「犯罪、言うな。」とナオさんは頬を膨らます。

 「キャリアを賭けた私なりの大勝負のつもりだったから、ユウジ君が私を受け止めてくれて嬉しかった。さらに言えば、身体を遊ばれるだけじゃなくて、私に好意を持ってくれた。これだけでもありがたいことだよ。だから、もし辞めるなら、私が辞めた方いい。」

 「社内恋愛じゃないですけど、鈴木先輩みたいに、仕事しながら結婚した人も、結婚した後も我が社で働き続けて頑張っている人もいるじゃないですか。急いで辞めること無いんじゃないですか?」とナオさんにもう一度言ってみたが、

 「私がユウジ君と同じ年くらいなら、まだやり直しがきくからそれでも良いんだけどね…。」

 「まあ、確かに仕事の事は急いで結論をださなくても、後で考えるとして、今日はこの前のお礼と、同じ気持ちだってことを言いたかったの。」


 「あー、緊張した」と言いながらナオさんはコタツから立ち、「シャワーを借りたいです」と言ってきた。俺は洗面所と浴室の場所を説明した。

 「男の人の部屋に上がるのって初めてだからお作法が分からないけど、タオルとか着替えってどうしたらいい?」

 「ナオさんがシャワーを浴びている間に用意しますよ。」

 「ふーん、じゃあお願い。」そう言った後「覗かないでよ」と真顔で言われた。

 「覗きませんよ。」もう身体の隅々まで知っています、と思いながら答えた。


 「用意します」とは言ったものの、タオルは大丈夫だが着替えは困った。結局、俺が部屋で着ているスウェットの予備をナオさんの着替えとして洗面所に置いておいた。

 ナオさんがタオルを髪に巻いて浴室から出てくる。案の定、スウェットはぶかぶかで上の方は萌え袖になっており、下の方は自分で持っていないとずれ落ちてくるようだ。ナオさんは、ずれ落ちるスウェットを手で押さえて、歩きにくそうに部屋に入って来た。

 「やっぱり、ユウジ君の方がだいぶ体が大きいんだね。」

 「すいません。大きいのしかなくて。」

 「いいの、いいの。逆に女性用の下着とか部屋着が出てきたらビックリするわ。」

 「確かに。」二人とも笑いがこぼれた。俺はドライヤーをナオさんに渡して、シャワーを浴びた。

 この夜は、ナオさんとセミダブルのベッドで二人並んで眠った。眠りに落ちる前に「ナオさんが好きです」と改めて伝えると、ナオさんも「私も好きだよ」と言って俺の右手を握ってくれた。


 翌朝、俺がトイレに立った時にナオさんも目を覚ました。俺が用を済ませた後、ナオさんもスウェットのズボンを手で押さえながらベッドから出てきて、トイレに入った。

 ナオさんはズボンが面倒になったのか「これ、落ち着かない」とずれ落ちたズボンを脱いでベッドに戻って来た。下着の着替えが無いから当たり前だが、下半身は裸だ。ナオさんは先に寝転んでいる俺の右腕を引きながら布団に入り、俺の二の腕に頭を乗せて寝転んだ。

 二人並んで布団に入った後、ナオさんはやたら大きく息を吸い込んでいる。


 「なんか臭いますか?また、イカ臭いとか言わないでくださいよ。」

 「うううん、いい匂い。私、ユウジ君の匂いずっと好きだったんだぁ。その匂いに全身包まれていると思って。」

 「俺、普段から何も付けていませんが、そんなに匂いしますか?」

 「なんて言ったらいいんだろう。うまく表現できないけど、男の人の匂い。」笑って応えてくれたナオさんの髪を左手で撫でて、軽くおでこにキスをした。ナオさんも俺の腕枕に乗ったままこちらを向いて、右手を俺の背中に、右足を俺の足に回して抱きしめてくれた。

 俺はナオさんの背中に回した手を撫でながら下ろしていき、引き締まったお尻から、俺の足に絡まったままの右足の太ももを通って膝裏まで、ルートを変えながら数度ゆっくり愛撫した。

 ナオさんに仰向きになってもらい、今度はお臍辺りから、腰骨と恥丘の間を通ってこちらもゆっくりと左手を這わせ、ナオさんの大事な所に触れる。しっとりと潤っている縦の割れ目とその近辺を人差し指や中指で傷つけないように優しくすくいあげたあと、掌をナオさんの内股に這わせ、脚の付け根を親指で少し強めに指圧する。最後にクリを指の力を抜いてトントンと刺激し、触れるか触れないか、掠るように円を描いて愛撫するのを繰り返した。

 「気持ちいい?」と俺が聞くと、呼吸が深く長くなっているナオさんは、俺の胸に顔を埋めたままコクリと頷き、「指だけでイキそう」と言った。

 ナオさんの上に覆いかぶさる形で俺が上になり、一旦布団をめくりあげて自分の部屋着と下着を全て脱ぎ捨てた。腕枕をしていた右手はギンギンに痺れている。布団を剥いで寒いからかナオさんは胸の前に腕を合わながら「私も脱ごうか?」と言ってくれたが、「風邪をひくといけないから、そのままで」と応えて、ベッド横の小物入れからゴムを取り出した。利き手じゃない左手で小物入れに手を伸ばしたのを見て俺の右手が痺れていると分かったのか、ナオさんが体を起こして「私が着けてあげる」と言ってくれた。今回はスムーズに装着してくれた。

 座っている俺の上に乗ってもらい、対面座位で繋がった。

 「冬はハグに限るねー。あったかい。」ナオさんが耳元でしみじみと言う。

 「はい。ナオさんの体温がポカポカで心地いいです。」特によく濡れたナオさんに入れさせてもらっているモノが蕩けるように気持ちがいい。

 「ははははは、じゃあセックスじゃなくて、ハグだけでもいいの?」

 「ダメです、ダメです。ナオさんとイキたいのはもちろんですけど、イっちゃうのが勿体ないくらい気持ちいいって事です。」

 「また次に会った時もしようよ。だから、今回はイこう。」ナオさんはそう言うと一旦身体を離して仰向けに寝た。俺は仰向けのナオさんの足を2本とも伸ばしたまま揃えて抱き、ゆっくりとナオさんの濡れている部分に当てがって出し入れを始めた。ナオさんの両足の踵がちょうど俺の右肩あたりで揺れている。最後は前屈みにモノをねじ込むように体重をかけて、果ててしまった。

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