第1話 パノラマの決意

俺は柄にもなく興奮していた。


目を覚ましたとき俺たちは、ヨーロッパ風の講堂のような場所に倒れていた。そこへ中年の貴族のような姿のおっさんが数人の黒いローブを着た女の人たちと一緒に講堂の中に入ってきた。そして、このおっさんは確かに言ったのだ「勇者様をお迎えせよ」と。




 「お会いできて光栄でございます勇者様方。私は神聖リアビッツ帝国の外務大臣を国王より任されております、ゲス・ボアリンという者です。勇者様方にはどうか魔族からこの世界を救っていただきたく召喚させていただきました。こちらの諸事情により勇者様方のお迎えが遅れましたこと我が国王に代り謝罪いたします。」


額の汗を拭きながらゲス・ボアリンが頭を下げる。


 神聖リアビッツ帝国なんて聞いたことがないぞ、魔族からどうのこうのとも言ってたな、それに女の人たちの恰好は明らかに魔導士ですって格好だ。


やっぱりここは剣と魔法の異世界だ。

 

 「ちょっと待ってください。これはどういう状況なんですか!?これから俺たちはどうなるんですか!?」


神楽代がゲスの話を遮った。


 「あんたが誰か知らないけどあたしらは早く学校に帰りたいんだ。ていうか、こんな汚い部屋に閉じ込められて制服も汚れたし後でちゃんと慰謝料請求するから覚悟しとけよ。」


綾崎も不機嫌にさけぶ。

二人に同調しほかの奴らも声を上げた。小花代はどう対応すればいいか分からず、とりあえず綾崎たちをなだめていた。

ゲスは少し困ったような顔をしてオロオロしていたが、隣にいた魔導士の女に何か言った後


 「勇者様方の服に関しましてはこちらで準備しておりますのでご安心を、使いの者にとりに行かせましたので、皆さまどうぞお好きな服にお着替えください。着替え終わりましたら、国王が玉座の間にて待っておられます。案内はこの者がいたしますので玉座の間までおこしください。」


といって、そばにいた魔導士にすべて任せて、すぐにその場から逃げ去っていった。

暫くして侍女たちが持ってきた服に全員着替えなおし、特に女子は思い思いの服装を何着もきて楽しんでいた。

綾崎も制服と慰謝料のことはすっかり忘れて取り巻きの女子たちと見せ合いっこしていた。


 「一瞬で飼いならされたな」

まさかこんなにも女番長 綾崎礼嶺がちょろいとは思わなかった。


 ていうか、綾崎も可愛い服が好きなんだな。

 少し以外だ。


 「ねえねえ、悠くん」

背後から俺を呼ぶ声がする。

 「ん?小花代か、どうした?」

振り返ってみてみると小花代が白いドレスと慣れないハイヒールを履いてヒョコヒョコと近寄ってきた。

せっかく姫様みたいな服装なのに、形無しだ。


 「どう悠くん、シンデレラをイメージしてみたんだけど、似合ってる?」


ただ立っていることも難しいのか、まだグラグラ揺れている。


 「おう、似合ってるぞ、可愛いな!」


 「カワッッ......ってそこまでは求めていなかったんだけど...」


小花代がいきなりもじもじし始めた。


 「それより、俺なんかと一緒にいると変な誤解されるぞ。」


 「わ、わかってるよ、それくらい...私皆のところ行ってくるから」


 「はいはい、行ってらっしゃい」


そういって小花代は背を向けた。


 「......悠くんもかっこいいよ」


 「なに?ごめん聞こえなかった、もう一度言ってくれ。」


 「何でもないです!」


 行ってしまった。最後なんて言ったんだろう?

それにしても、遠ざかっていく小花代の後ろ姿を見ていると少し寂しい感じだ。

結婚式に妹を送る兄の気持ちってこんな感じなんだろうな。

何とも感慨深い。


 少しして一人の魔導士が前にでてきた。ゲス・ナンチャラに案内を押し付けられていた人だ。


 「これより、皆さまには私の案内で玉座の間に移動していただきます。」


誰にも文句を言わせないためか、そのだけ言うと講堂の扉お開き、「こちらです。」と出て行ってしまった。


クラスの奴らも会話をやめ、置いてかれまいと付いていく。

あの魔導士、ゲスとかいう外務大臣よりもよっぽど外交がうまそうだ。


 俺も講堂を出よう。


さっきから先に扉を出て行った奴らの驚く声が講堂の中まで聞こえてくる。


 なにに対してそんなに驚いてるんだよ。気になるじゃないか。


速足で扉の方へ向かって歩いていく。扉を過ぎ廊下に出る。


 「まぶしい!」

またもや太陽の光が瞳を刺激する。

これじゃ、外の風景が見えないじゃない。

いや、ずっと講堂の中にいたから急に明るいところに出たら眩しいのは当たり前なのだが

俺の眠っていた中二心が好奇心を刺激するのだからしょうがない。


ゆっくりまぶたを開く。まだちょっと眩しい、

それでも、目を開いて瞳孔が完全に風景をとらえたときには、その風景は一瞬で俺の心を奪っていった。その時には、もう眩しさなんてどうでもよくなっていた。


廊下といってもアーチ状に柱が等間隔に並んでいるだけで、この城の城下町であろう街並みが視界いっぱいに飛び込んでくる。

その光景はただただ圧巻だった。              果てしなく続く街並み、地平線のように長い城壁、大きな鎖で繋がれた浮く小島。

すべてが新鮮で鮮烈的だ。


 「すごく綺麗。」


後ろにいた小花代が少し驚いた声でつぶやく。

 

 「なぁ、小花代...」



 「何でしょう」



 「俺たち本当に異世界に来たんだな。」



 「こんな光景みちゃったら誰でもここが異世界だって認めざるを得ないからね。」



 「やっぱり冒険に出たりするのかな。楽しみだな。」



 「私は...」


小花代の言葉は途中でつまった。


 「って、そんなことより早く行こう、もう皆行っちゃったよ。」


小花代が背中を押す。


 「そうだな。行くか。」


多分俺たちはこの国のためにゲスが言っていた魔族と戦うことになるのだろう。多くのものを失ったりするんだろう、誰か死のだりするのだろうか。でも小花代が死ぬのだけはいやだな。


だけど、それでもこの景色だけは失いたくないと思ってしまった。それほどまでにこの景色は美しかった。

傍観主義の俺だが、めんどくさいことからは全て逃げ続けてきた俺だが、今回はちゃんと逃げずにできるだろうか。いや、するんだ。

この景色を守るためだったら俺がこの世界の勇者になってやると静かに京悠馬は決意した。

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