第12話 密室⑥

片手に包帯を巻いている矢内。片手で箱の中身を取り出す。

伍の鍵とボタン、折りたたまれた紙を取り出す。


平 「それで最後の鍵だな」

根間「紙には何が書いてあるの?」


根間に紙を渡す矢内。

『人ヲ呪ワバ穴二ツ 自ラノ罪ヲ悔イテ祈レ』


根間「人をのろわばあなふたつ、でいいのかな?どういう意味?」

吉良「人を呪うのならそれなりの覚悟をしなさいってことわざだったと思うけど……」

根間「なんか説教臭いなあ」

矢内「僕達が何かを呪ったとでもいいたいのでしょうか?」

平 「みんな心当たりは?」


全員が黙る。


根間「まあ、あいつ死ねばいいのにとか思ったことくらいはあるよ。でもそんなの気にしてたら、ここパンパンになるまで人入れても足りないじゃん」

矢内「まあ、確かにね……」

平 「心当たりがないのなら仕方がない。5つめの箱を開けよう」


鍵を麻生に渡す矢内。


矢内「頼んだよ」

麻生「……はい」


箱を開ける麻生。

中から折りたたまれた紙と封筒を取り出す。

紙には『伍ノ犠牲 麻生空太 命ヲ捧ゲヨ』


麻生「伍の犠牲、命を捧げよ……」

根間「そんな!?」


麻生の持っている紙を奪って見る根間。


根間「ほんとだ……命って書いてある」

矢内「これはルール違反じゃないのか!?」

吉良「……でも、ルールなんてなかったのかもしれない。最初から」

平 「……麻生くん、封筒の中身を見てくれ。犯人がどういうつもりなのか知りたい」


封筒を開ける麻生。

紙には『四ツノボタンヲ同時ニ押セバ 贄ニ死ヲ授ケル』


麻生「4つのボタンを同時に押せば ニエに死を授ける、と」

矢内「ボタン!これか」


それぞれ、自分の箱から出てきたボタンを取り出す四人。


平 「おそらく、このボタンをみんなで同時に押せってことだろう。そうすると何かの仕組みが作動するに違いない」

根間「何かの仕組みって……何が起こるの?」

平 「分からん。が、麻生くんの命を奪う仕組みだろうな」

矢内「僕達に麻生くんを殺せっていうのか?」


黙りこむ一同。やがて麻生が話しだす。


麻生「僕は……僕には、皆さんと違って捧げるようなものが命くらいしかないんです。ただのサラリーマンで、根間くんのように未来があるわけでもない。平さんのように財産もない。矢内さんのように才能もない。吉良さんのように大切な人……は、もう失ってしまいました。だから……」

平 「だから死ぬのか!?俺たちに君を殺せと?」

麻生「……実は僕、死のうとしていたんです。ここで目を覚ます前に」


驚く一同。


根間「死のうとしてたって、自殺?」

麻生「ええ。だから、いいんです。僕は、死にたいんです」


カウントダウンは刻一刻と進む。時間は一〇分を切ろうとしている。


麻生「もう時間がありません。お願いします。僕を……殺して下さい」


再び沈黙。沈黙を破るのは平。


平 「やるしか、ないのか……?」

吉良「他に方法はないんでしょうか?」

平 「時間がないんだ!それに……俺達はもう犠牲を払ってしまった。生き残らないと、今までの犠牲の意味がなくなってしまう」

根間「でも、麻生さんを殺したら俺たち殺人者になるんじゃないの?」

平 「いや、この場合は緊急避難が適用されるだろう。……罪には問われないはずだ」

根間「そんなこと言ってるんじゃないよ。罪に問われなくたって、人を殺したって事実は変わらないだろ!」

平 「綺麗事を言ってる場合か?じゃあお前はここでみんな死んだほうが良いっていうのか?」

根間「そんなことは言ってない!」

吉良「私、もう分かんないよ……」

平 「あなたはどうですか?矢内さん」

矢内「……僕自身は、正直言ってどちらでもいいんです。もう、ピアノは前のように弾けないでしょうし。でも、僕がこの手を捧げたからには皆には生き残って欲しいと思います」

平 「……もう、本当に時間がないんだ。綺麗事や迷いを口にしてる暇はない。結論を聞かせてくれ。……俺は、やる」


悩む三人。


矢内「……やります」

吉良「私も……やります」


最後まで苦悶の表情を浮かべる根間。


根間「……やるよ。やる。……麻生さん、ごめ…」

平 「謝るな!!……許してもらおうとするな。――俺たちは人を、殺すんだ」

根間「……うん。分かった」

平 「結論が出た。麻生くん」

麻生「……はい。お願いします」

平 「みんな。ボタンを」


ボタンを手にする四人。麻生は座って俯いている。


平 「いいか、もう迷うな。……1、2の3で皆でボタンを押すぞ」


頷く一同。


平 「いくぞ……いち、にの、さん!」


ボタンを押す4人。どこかで鍵の開く音が聞こえる。

そして、爆弾のカウントダウンが止まる。


平 「……カウントダウンが、止まった!?助かったのか?」

吉良「麻生さん!」

矢内「麻生くん!大丈夫かい?」


小刻みに震えている麻生。


根間「……麻生さん?」

平 「生きているのか?」

麻生「フ……フフフフ……」

平 「どうしたんだ?大丈夫か!?」

麻生「どうしたんだ?大丈夫か?……笑わせてくれるね、まったく」

矢内「何を言ってるんだ?」


ポケットから鍵を出し、腕の枷を外す麻生。


吉良「その鍵、なんで……?」

麻生「何度もチャンスをやった。最後の最後までヒントを与えた。最後に捧げたのは僕の命じゃない。お前らの人間性だ」

根間「アンタが……犯人だったのか?」

麻生「最後のボタン……一人でも押さなければ僕が死ぬはずだった。僕の心臓めがけてボウガンの矢が放たれるはずだったんだ。だが、僕はまだ生きている。つまり……」


伍の箱の底に手を伸ばす麻生。中からリモコンを取り出す。


麻生「死ぬのはお前らの方だ」

根間「待ってよ!ねえ!本気で言ってんの?今までの儀性は何だったんだよ!」

麻生「こうなってしまってはもう無意味だ。最後のチャンスだったのに」

平 「何故だ……何故こんなマネを?」

麻生「何故、だと?この期に及んでまだそんなことを言うのか?もう勘弁してくれ……」


ゆっくりと首を撫でた後、リモコンのスイッチを押す麻生。

爆弾のカウントダウンが再び動きはじめる。


平 「私たちは犠牲を払っただろう!!」

麻生「確かにそうだ。だがそれは何に対して捧げられたものなんだ?」

平 「何にって……」

麻生「――自らの罪を悔いて祈れ」


必死で呼び止める4人を無視してフラフラとはけていく麻生。

――やがて爆発音。

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