第17話

司は朝早くに目覚めた。

窓を開ける。

まだ辺りは暗かった。


「今日はサクレンの町に行くのか」

司は装備を調えて、部屋から外に出た。


いつも訓練をしている中央広場には誰も居ないかと思いきや、人影があった。

司が注意深く近づくと、聞き慣れた声で話しかけられた。

「おはよう、司。早いね」

「おはよう、ユーリ。毎朝こんな時間から訓練してるのか?」

ユーリは汗をぬぐいながら言った。


「いつもはもうちょっと遅いんだけど、今日は特別だよ」

「そうか。サクレンの町に行くからか?」

「うん」

ユーリは無邪気な笑顔を浮かべて頷いた。


「司はミクルのこと、嫌っていないの?」

「別に。興味はないけどな」

「そっか」

ユーリは司の言葉に、ほっとした表情を浮かべた。


「ミクルは目の前で両親を消されてるから、魔王軍が憎いんだ」

「そうらしいな」

司はユーリの目を見ていった。

「僕だって他人事じゃないよ。この前、村が襲われたし」


「そろそろ、ミクルも来るんじゃ無いかな」

「ミクルも?」

司が尋ねるとユーリは頷いた。

「いつも、朝から晩まで、僕たちは自主訓練してるからね」

「そうか、努力してるんだな」

司は感心した。


「おまたせ! って司? 何で居るの?」

ミクルがやって来た。

「早く目が覚めたから、散歩をしてたんだ」

それを聞いたミクルはさげすむような目で司を見て言った。

「のんきなものね」


「三人がそろったなら、サクレンの町に向かいましょうか」

ユーリがそう言うと、司とミクルは了承した。

「それじゃ、装備を調えて正門で会いましょう」

「分かった」

司達は一度、それぞれの部屋に戻り装備を調えた。


司はシラヌイの街の正門に立ち、ユーリとミクル賀来るのを待った。

「おまたせ」

先に来たのはミクルだった。

「おまたせしました。ポーションや薬草を探していたら手間取ってしまって」

そう言って、ユーリが現れた。


「それじゃ、サクレンの町まで行きましょう」

ミクルに司が尋ねる。

「ここからどれくらいかかるんだ?」

「歩いて2時間くらいです」

答えたのはユーリだった。


町に着くまでの間、ユーリとミクルは楽しげに会話していた。

司は一人、物思いに沈んでいた。

「司! 聞いてるの!?」

ミクルの声に司はハッとした。

「ああ、悪い。 何だ?」


「そろそろモンスターが現れるかも知れないから気をつけて下さい」

ユーリが説明した。

司は辺りを見回した。

草陰が揺れる。


「そこ! 何か居るぞ!?」

司は剣で草をなぎ払った。

すると、そこにはちいさなスライムが居た。


「なんだ、スライムの子どもじゃない」

ミクルは司を鼻で笑った。

司はため息をついた。

そのとき、巨大なスライムが現れた。


「大きい! なんなの!? このスライム!」

ミクルはそう言って、呪文を唱えた。

「ファイアボール!」

巨大なスライムに魔法は命中したが、ダメージを与えた気配はなかった。


「行きます!」

ユーリがスライムのコアに剣を突き刺した。

司は魔力上昇の魔法をミクルにかけた。

そして、司が叫んだ。

「ミクル、雷の呪文をユーリの剣にかけるんだ!」

「うるさいわね、言われなくてもそうするわよ」

ミクルは答えながら呪文を唱える。

「ライトニング・サンダー!!」


スライムは倒れて、液状になり大地に吸い込まれた。

「司は偉そうなのよ! 私たちがいなければ何も出来ないクセに」

ミクルが憎まれ口を叩いた。

「司さんの協力がなければ、こんなに簡単に倒せなかったと思いますよ」

ユーリがミクルをたしなめると、ミクルは舌打ちをしてそっぽを向いた。


「そろそろ着きますよ」

ユーリが言った。

「ああ、町が見えてきたな」

「なんか、様子が変よ?」

ミクルの言葉に反応して、司は剣に手をかけた。


「助けてくれ!」

町人が、司達に助けを求めた。

「クラーケンが現れたんだ!!」

「なんだって!?」


ユーリとミクルは逃げ惑う人々をかき分けて、海辺に向かった。

その後を司が追いかける。

三人が砂浜に着くと、大きなイカのような姿をしたクラーケンが町を襲おうとしていた。

その傍に、人影があった。


「司、またお前か」

「・・・・・・大樹」

「知り合いなの!? 魔王軍と!?」

ミクルは司に尋ねた。

司は首を横に振った。


「それがお前の答えか、司」

「大樹、俺は魔王軍には成れない」

「それならば、死ね」

大樹は冷たく言い放った。


クラーケンが触手を伸ばす。

「司、危ない!」

ユーリが剣で、クラーケンの触手を切り飛ばした。

「ふうん、やるじゃないか」

大樹はそう言って、笑った。


「これはどうだ?」

そう言って、大樹がユーリに斬り掛かってきた。

「ぐっ!」

ユーリは剣で受け止めたが、大樹の力に押されている。


司はユーリに剛力の魔法と、素早さの魔法をかけた。

「えい!」

魔法がかかった瞬間、ユーリの力が大樹と拮抗した。

「ちっ」

大樹が舌打ちをする。

「司、お前は戦わないのか?」

「これが俺の戦い方だ」


司はいらだたしい気持ちをおさえながら、ミクルに魔力UPの魔法をかける。

「ファイアボール!!」

ミクルはクラーケンを一撃で倒した。

「なるほど、自分の手は汚さずに戦うとは司らしいな」

大樹は大きな声で笑った。


「うるさい! 俺だって、こんな戦い方は望んで居ないんだ!」

そう言いながら、大樹に弱体化の魔法をかける。

「くっ!?」

大樹はユーリの力に倒されかかった。

「そうか、お前たちが勇者なんだな」

大樹はミクルとユーリを見て、つばを吐いた。


「サイクロン!!!」

大樹は強力な風魔法を唱えた。

司達三人は、風圧に耐えるため動きが止まった。

「逃げるつもりか!?」

司が言った。

大樹は返事もなく姿を消した。


残された司達は、なすすべもなく立ち尽くしていた。

「ねえ、司。 大樹って魔王軍よね? 知り合いなの?」

「昔の知り合いだ」

ミクルが司の襟首を掴んだ。

「司、私たちを裏切るんじゃないわよ!?」


司は何も言わず、ミクルの手を払った。

「司さん、今の戦い方は本意ではないんですね」

「・・・・・・ああ」

司はユーリの言葉に、素直に頷いた。

「俺には大樹ほどの力は無い」


「だけど、司がいれば、私とユーリで十分戦えるわ!」

ミクルの言葉に、司は俯いた。

「・・・・・・どうして俺は勇者じゃないんだ?」

司の台詞を聞いてミクルはため息をついた。


「しかたないでしょう? 貴方は私が召喚した育成係なんだから」

「司さん・・・・・・」


ユーリは気の毒そうに、司を見つめていた。

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