第8章 ルラー・ガトの真相 6

サンは自分の腕を握りしめた。あの腕輪がはまる左手だ。

「その時、父さんがこの手を掴んだんだ。強い力で。俺を見つめた。強いまなざしで。……固い感触が腕にふれた。気づくと父さんの腕輪が勝手に動きだしていた。父さんの右手から、俺の左手に星が輝いてはまったんだ。急いではずそうとした。父さんのものだったから。でもはずせなかった。腕の中では自由に動くのに、拳からは出ない。不思議な力が宿っているかのように。外の喧噪はますます近づいていた。怒号が飛び交っていた。仲間の男たちは戦っていた。不思議なことに男たちの声が減っていったんだ。小屋にこもっているのは俺と父さんと血を流した人と俺よりも小さい子どもたちだった。

 逃げろ、と言われた。逃げろと強く言われた。父さんは船底のふたを開けて、水面が現れた。訳がわからなかった。小さい俺を、父さんがつまみあげた。父さんの声が後ろで聞こえたんだ。それで海にほうりこまれた。冷たかった。一気に静かになった。俺はあがこうとしなかった。おかしかったから、こんなの。でも息が苦しくなって、しまいには生きようと体が勝手にあがいてた。腕に光る星が、海を照らしてくれた。また水面に戻った。すっかり静かだった。それで……。逃げだした。急に怖くなった。必死に泳いで、力尽きて水面に浮かんだ。流されて、そして岸に着いた。シャルリー島の。気がついたら、ここにいた」

 サンは立ち上がる。

 ちょうど、太陽が昇る頃だった。地平線の向こうから太陽が顔をだす。一筋の光が射して、それが一気に広がった。

 サンの紅い目が輝きだす。

「俺はここで見た。仲間たちの死体を。父さんが殺されるところを。血で汚された海を。許せない。何もかも。あいつが仲間を殺したことを。父さんが、俺だけを逃がしたことを。最後に逃げだした俺も、許せない。何もかも」

 はっとして見上げると、サンは泣いていた。

「許せない」

 泣きながら、ふるえながら、サンはただ立ちつくす。海の、その場所を見つめて。涙をぽろぽろと流す。

 シーは立ち上がって、サンにふれようとした。でもためらう。でも、手を伸ばした。

 サンの浅黒い腕が離れてしまうかと、シーは思った。だけど、サンはほっとしたように涙をこぼした。

「ありがとう」

 そしていくらか経った時、サンは言葉を発した。

「だから、わだつみさまに会いに行かなくちゃならない」

「わだつみさまって、海の神様だよね」

「ああ。シーが見ている夢はきっと現実になる。昔からリャオト家は夢占いで海を占ってたんだ。シーが海に島が飲みこまれる夢を見たんだとしたら、夢は現実になる。この島の人間は海を汚しすぎた。大量の血で。わだつみさまは怒ってる。最近のここら一帯の海はおかしい。少し荒れ狂い始めた。水面もかなり上昇している。港も浸水し始めた。今行かないと、この島は助からない」

「サンの言ってることは信じる。私もただの夢でないことはなんとなく分かってる。リャオト家の血が教えてくれていた。でも、海の神様だよ。どうやって……」

「海輝石だ。俺らには神様からもらった贈り物がある」

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