第18話 動き始めた時間

 守護神を中心とした部隊による、瞳の村の襲撃予想時間十九時に備え村の民達の避難が早くも開始される。五人の巫女を中心に村の最奥にある避難所に村の民達の全員の避難をする。そして勇者が逃げ遅れた者がいないかの点呼と最終確認を行っている。今の時刻はまだ十三時で襲撃までに時間はあるのだが何故こうなったかと言うと影がある違和感に気づいたのが事の始まりだった。


 今から一時間前の話だ。影が遅めの起床をするとある違和感を覚える。試しに龍脈の力を使い周囲を探知するとその違和感が確信になる。影の使役している使い魔の三十匹がこの世を去っていた。本来なら使い魔が死ねばその瞬間気づくのだがその感覚がいくら寝ていたとは言え全くなかった。となると手練れの者が使い魔を暗殺した可能性が浮上する。そして影が何重層にも張ってある探知結解の一部が完全に消滅していた。こうなると守護神一人だけの力とは考えられなくなる。いくら守護神と言え暗殺に結解破壊と全てを完璧にこなすのは無理だ。守護神も巫女と同じように得意不得意はある。影は慌てて今まで探知結解と使役に使っていた龍脈の力を未來が張ってある結解の強化にまわす。


 そして事情を巫女全員に伝え村の結解の強度補強を全員でする。そして予想外の結果にいち早く対応する為村の民達の避難を開始させることになった。単純な話し巫女五人と影の力を合わせた結解なら普段なら絶対安全区域となる。しかし巫女達ですら影が話すまで今まで何も気づかないぐらい巧妙に使役していた使い魔と探知結解を消滅させた相手となるとどんなに手を打っても心配になる。


 影は一人、村の中心となっている巫女の神殿の塔の上で一つの可能性を考える。二日前まで確認されていた上級守護者三人の龍脈の力が一つ減っている事から一人が進化し下級守護神になったと。今の影に探知できる守護神の龍脈の力は一つだが、上級守護者が進化時に稀に習得する「スペル探知不可」「スペル結解破壊」「スペル結解無力化」が使える相手の場合は今回の全ての辻褄があうことになる。そしてそれは村の滅亡を意味する。そう今まで守護神が二人で村を攻めてくる事はなかった。しかし人類初のそれが起きようとしている。

これを巫女達に伝えれば間違いなく動揺し指揮に影響が出る事は間違い。今ですら表情には出さないがかなり動揺しているのが分かる。さっきから村の周囲に感じるいくつかの気配は間違いなく守護者達の使い魔でこちらの状況を確認している。影がもし詩織の提案に対して首を横に振っておりこの村にいなければ今すぐにも遠距離攻撃による奇襲を受けていたに違いないだろう。


「まずいな……」


 影はこの時追い込まれていた。自分一人なら逃げる事は容易いがそうはいかない。頭をフル回転させ状況の打破を考える。敵の使い魔の数は影が確認できるだけで七匹。これらを一掃すれば主である守護者に情報がいかなくなりこちらの情報が伝わらくなる。しかしそうなれば相手がこちらの考える時間を奪う為に突撃してくる可能性が出てくる。それに今も予想より早いスピードで村に向かってきている。その気になれば後三十分もせずに到着するだろう。未來がいつも張っている探知結解にも後五分もしないうちにかかるだろう。そうなれば未來から巫女全員に状況が伝わり動揺が広まる。影は必死になって考える。

どうすればいい。何が正解だ。現状打破は可能なのか。守護神二人を相手にするにはどうすればいい。影がもし相手の立場ならどう動かれるのが一番嫌な手段となる。

全てを同時に考える。こうなった以上勇者はあまりあてにできない。戦力として考えられるのは影と巫女である五人だけ。



―――お前は強い、しかしこのままでは守護神には勝てない

………それでも逃げるわけにはいかない

―――では問う。仲間の命と己の命選べと言われたらどちらを取る?

………それはまだ分からない

―――お前は日本にいた時、戦争と言う物を知識として知っているな

………うん

―――戦争で勝つ為に必要な事はなんだと思う

………力と非情な心かな

―――ならこの世界に来たお前にあって、今のお前に足りない物は何だと思う?

………非情な心、だけど未來や詩織やえりか、有香、まいに辛い思いをさせたくない

―――だったら戦いの時だけ、その優しい心を捨てればいい

………戦いの時だけ?

―――そうだ。思い出せ龍脈の中で何があったのかを

………あの日あった事

―――そうすれば今は力を上手く扱えずともこの状況を打破できる。自分を信じて戦え



「ねぇ影がさっきから塔の上で悩んでいるように見えるんだけれど……」


村の民の避難がある程度終わり後を勇者に任せた四人の巫女が未來の言葉を聞き、影を一斉に見る。


「確かに」


「嫌な予感がするわね」


「とりあえず行きましょ」


「賛成」


 詩織、えりか、まい、有香の四人も影の様子から何かを感じ取ったらしく走って影の元に向かう。


「もしかして敵がもう近くまで来てるのかしら」


 ゆかの質問に詩織が答える。


「影の探知結解が無力化されたって事は影が普段村を守ってる距離までは少なくとも来てるのは間違いないでしょうね」


詩織の言葉は四人を納得させるだけの理屈があった。そしてまいとえりかが詩織の考えに同調する。


「ならもうすぐにいるかもしれないと言う事ね」


「あいつ又一人で何とかしようと考えてないでしょうね」


 えりかの言葉は影の性格を踏まえての発言だった。


「とにかく口より早く影の元に急ぎましょう。そうすれば全て分かる」


 未來の言葉に四人が頷き、黙って走る。勇者達も巫女装束を来た女の子五人が慌てて何処かに走っていく姿から村がいよいよ危険な状態になっている事を確信する。

 ここで若葉が雛の元に走ってくる。


「雛さんこちらは全て避難完了です」


 雛は若葉の言葉を聞き頷く。


「これで村の民の避難は全て終わった。全員でそのまま移動し未來様の指示どおり別命あるまで避難所の警護をする」


「はい」


 雛の言葉に十人が返事をして急いで避難所に向かう。

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