第2話 序章 後半


「た……た……たいへんです」


 先ほどまで笑っていた守護者三人は慌ててやってきた部下の顔を見て建前上なのか真剣な表情になる。ただよく見ると顔が余裕だと言っているのが分かる。


「今、通信兵が守護神様より伝言を預かりました」


「……伝言?」


「はい」


 守護神とは守護者の上官。

 守護神に一人で対抗できる巫女はこの世にいない。

 本気の巫女と言えど守護者数人が限界であり上級守護者なら基本的に一人が限界。

 守護神が攻めて来たときはいつも数人の巫女が協力して何とかしてる。

 さらにその上も存在するのだが今は説明する必要もないので割愛させてもらう。


「聞こう」


「はい……二年前、龍脈の中に転生者として召喚され行方が分からなかった者の正体が分かったと。名は影、性別は人間の男、容姿は十六歳前後、実年齢は不明、特徴は髪が長く膝下まである薄紫色の髪、龍脈の力は巫女以上と推定、所在地は瞳の村……ここです」


 その言葉に守護者三人が先ほどの余裕の表情から、身体が恐怖に支配され顔から笑みが完全に消える。身体は震え全身から異様な汗をかきだす。

 そう転生者は過去の経験から絶対に力を使った巫女の近くに召喚されるようになっている。でないともし転生直後この世界に無知な転生者が敵に襲われれば死んでしまうからだ。仮に龍脈の中に転生してしまえばその圧倒的な力が身体に無限に入り込み身体が負荷に耐えきれず死んでしまう。


 しかし影は男でありながら瞳の村の巫女の手違いにより龍脈の中に転生させられた。誰もが転生者が死んだと思っていたが、彼は生きていた。生きていた秘密は本人しか知らない。そして人間の姿だと色々とエネルギー消費が多いので普段はハムスターとして生活している。最初は巫女にお願いして龍脈の力を周りに隠してもらっていたが、ハムスター生活を半年程した時には自分で全てある程度操れるまでに成長している事に気づく。それからは自身で外敵から姿を暗ましながら生きている。


「もうそろそろ初めてもいいですか?」


「「「…………」」」


 ようやく状況が呑み込めた守護者達。


 ゴクリ。


 恐怖で言葉が出ないであろう守護者三人に巫女が告げる。


「もういいかしら? 私の切り札を見せてあげたのだから覚悟して」


 すると愛くるしい表情で巫女の手のひらでマイペースにクルクルと回って遊んでいたハムスターがジャンプして巫女の手のひらから離れる。同時にハムスターの姿から容姿がまるで女の子と言ってもいいような可愛らしい姿になり、身長も百七十センチほどで細見の体格の人間の姿に変わっていく。膝下まで伸びている長い薄紫色の髪を風でなびかせながら口を開く。


「これでお前たちにも俺の声と姿が確認出来ると思う。とりあえずこれ以上時間をかけると巫女が怒りそうだからお前たち早くかかってこい」


「…………まさか」


「ん?」


「ハムスターの正体が……あの……かげ」


「さっきまでの威勢はどうした、三下共? めんどくさいからまとめてかかってきていいぜ?」


 守護者達はこの瞬間、身をもって知る事になる。

 先ほどまで龍脈の力を全く感じなかったハムスターが人間の姿になると同時に、龍脈の力の総量が自分達以上であることに。

 そして薄々直感で気付いてしまう。

 それはまだ本気ではなく加減した状態である事を。

 影の圧倒的な存在感とその言葉はこの時全てを支配していた。そう外にいた守護兵にもそれは分かるぐらいに巨大な力であり、外にいる仲間にとってもそれは同じであった。


「早く来るか来ないか選べ。来ないなら二十秒だけ待ってやるからこの村から今すぐ出ていけ。お前たちは村の人間を殺さない所か勇者すら殺さなかった。だから俺もお前たちにチャンスをやる」


「…………」


「さぁどうする?」


 影の質問に一瞬はした守護者達だったが、影の言葉に嘘がないと見ると即答する。


「分かった。今すぐこの村から手を引く」


 同時に守護者達が「撤退! 撤退!」と走り、叫びなから村を出て行った。

 影と巫女の近くにいる女性を含めた勇者と村人は怪我こそしたものの誰一人死者を出さずに生き残る事ができた。


 影はこの世界に転生された時にある不思議な現象に遭遇していた。それはこの世界に転生されると同時にまだ会った事がない女の子五人の事を昔から知っているような感覚になりその女の子五人が自分をこの世界に呼んだ召喚者だと何故かすぐに理解できたことだ。まるで自分の中に流れる何かがそれを教えてくれているようにも感じられた。


 汝の召喚者  五人(全員巫女)


 名前     玉井未來、高橋詩織、村井えりか、有村有香、尾崎まい


 玉井未來   美しく整った顔立ちで腰下まで伸びた長く茶色い髪が特徴的

       皆に優しく好意を持つ相手には甘い一面がある


 高橋詩織   周りから見ても可愛い顔立ちに腰まで伸びた黒い髪が特徴的

       普段はしっかり者だが実は甘えん坊な一面がある


 村井えりか  童顔で腰上まで伸びたダークブラウンの髪が特徴的

       人目を気にしつつも内心誰かに甘えていたい一面がある


 有村有香   大人びた顔立ちにセミロングに伸ばした黒い髪が特徴的

       相手の話しをよく聞き相手の気持ちを理解しようとする一面がある


 尾崎まい   清楚な顔立ちにショートヘアーに赤みがある茶色い髪が特徴的

        包容力がありお姉さん的一面がある


 影がこの世界に来ると同時に頭の中にこれがイメージとして記憶された。

 これはちょっと色々と失敗してしまった巫女達と巫女のせいで変な所に召喚され酷い目にあった影の物語である。

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