第21話 裏切り

 魔法ってなんの役に立つんだろ――

 飛び交う銃弾一つ防ぐのが精一杯の防御シールド魔法では、近代兵器で武装した帝国軍の兵士にいずれ嬲り殺しにされるのは目に見えている。

 だけど、最前線にいる僕達が逃げ出せば、後方の味方が全滅することは間違いない。

 どうすれは、どうすればいいんだ――




「お前だけでも逃げるんだ」

「何言ってんのさ、お師匠様も逃げようよ」

「よく見てみろ。もう敵の追っ手がすぐそこまで来ている。ここで敵を抑えないことには、この先の本隊にどれ程の被害がでるかわからない」

「なら僕も――」

「ならん。お前はまだ若い。その命は次の世代へ繋げるんだ」

「嫌だよ! 僕一人で逃げるなんて……」

「力不足で済まぬ。今生の別れだ」


 転移テレポート――――


「師匠ー!!」





『いらっしゃいませ☆』


 ――あれ? ここはどこですか?


「ここは、天界唯一の相談窓口アフターケア事業部です。そして私は部長の卑弥呼です。この年で部長ですよ? すごくないですか? 末は社長か会長かですよ。以後よろしくお願いしますです」


「よっ! お見事!」


「ちょっと、止めてくださいよ。人の口上を宴会芸みたいに言わないでください。伝統芸みたいに言わないでください。私はまだまだ時代を先行くインフルエンサーであり続けますよ」


「これまでの何処にインフルエンサーの要素があったんだ。誰もフォローしてねぇよ。読者もスルーしかしてねぇよ」


「あ、あの。ここはどこですか?」


「ここは異世界に転生される方が立ち寄られる場所なんですよ。あなたは亡くなられたのです。ご愁傷さまですね」


「何言ってるんですか? お師匠様が転移テレポートを使ってくれたからここに辿り着いたんですよ?」


転移テレポート!? なんだそれ! そんな夢みたいな魔法あったら最強じゃねえか!」


「部屋から一歩も外に出ることのないクズニートには全くもって不要なものでしょう。不要不急もないあなたに必要なのはテレポートではなく面接のアポイントではないでしょうか」


「俺には自宅警備員という立派な仕事がある」


自宅警備員きせいちゅうですね」


「何か言ったか?」


「気のせいですよ。あ、申し訳ございませんね。ついついあなたのこと忘れていました。えっと……転移テレポートの件ですが、あれ、使った対象はあなたではなく、そのお師匠様ご自身とやらのようですね」


「……は?」


「だからそのお師匠様が自ら転移テレポートを使って逃げたんですよ。無事逃げられたみたいで良かったですね」


「えっと……あの……ちょっと待ってください。お師匠は僕を囮にして逃げたってことですか?」


「あなたが身を呈して守ったとも言えますが、あなたから見たらそうなるでしょうね。でもその尊い犠牲のお陰でお仲間の被害を最小限に抑えられたようですよ。やりましたねコノコノー」


「……クソヤロー!ぶっ殺してやる!」


「あらあら随分お怒りのようで。しょうがないといえばしょうがないですが。まさか自分を助けるために魔法を使ったと思ったら、逃げられて置き去りにされてるんですから心中お察ししますよ。ですがその願いは叶いません。あなたは別の世界にこれから転生するのです」


「えーと、それじゃあ転生させてください。もとの世界に」


「いやいや。それじゃあ転生じゃなくて蘇生だろ。そんなの認められないよな、卑弥呼様」


「いえ。出来ますよ」


「出来るんかい。設定ガバガバだな」


「ただし制約があります。誓約ともいえますが。まず第一にあなたの記憶は失われます。第二に何処に転生するかわかりません。なのであなたがいくら復讐しようにも、復讐心すら忘れてるのですから、ほぼ叶いませんが、それでも宜しいですか?」


「いいですよ。あの人を見つければすぐに思い出す自信がありますから。私の憎しみはその程度じゃ消えません」


「わかりました。それでは復讐の旅へ逝ってらっしゃいませ――」


「――卑弥呼様よー。さっきはどう死んだかなんて言わなくてもよかったんじゃねぇか?」


「そんなことないですよ。やはり自分の最後はなんであれ知っておくべきです」


「じゃあ卑弥呼様も自分の最後は知ってるのか?」


「……さぁ……どうでしょうかね」


一瞬返答に詰まったように見えたが、卑弥呼は遠い彼方を見るような眼で答えた。

そういえば、どうして卑弥呼はここで働くようになったのだろうか――

生前に何をして、何で死んで、何で天界で働くようになったのか――ここに至るまでの人生を俺は全く知らない。

そして――知らなかったことであんな事態を引き起こすことになろうとは、この時は露にも思わなかった。


「そんな話の予定はありませんよ」

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