10-5


「で、出来るはずです……諦めなければきっと……!」

「それでうまくいったことは、人間の歴史上存在しない」


 今までの候補者達とは違う。オレの話を聞いた上で、ヒュウマさんは全否定してくる。


「生物の歴史は戦いだ。そして人間は言語という能力を持ちながら、結局争いをやめられない。きれいごとを並べていても、自分の意見を通すために血を流すんだ」

「で、でも……」

「いじめ、虐待、戦争……人間は暴力で弱者を支配するだけの、おろかな生き物。お前の理想論なんて、何の価値もないごとだ」


 確かに、ヒュウマさんの言うことは一理ある。今だって戦争は終わらないし、身近ないじめだって全然なくならない。この世界のいたるところに悪意がある。

 神様候補同士の戦いでも、みにくい姿をいっぱい見てきた。オレの思いがきれいごとってことも分かっている。でも、


「言っていることが変だよ!人間はおろかだって言うけど、ヒュウマさんだって人間じゃないか!それに人間そのものの進化が願いなら、暴力だって進化しちゃうんじゃないんですか!?」


 ヒュウマさんの言っていることは矛盾している。人間の進化を望んでいるって言ったのに、これじゃあまるで人間のことが嫌いみたいな言い方だ。


「……っ!」


 ギラリ、とヒュウマさんの目が赤く光った。

 逆鱗げきりんに触れてしまった――そう気付いた時には、ヒュウマさんの拳はもう目の前だった。


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム』!」


 ドガァァァン!

 砕けた木のかけらが宙を舞う。間に入ったメブキさんが木の盾を出して、オレのことを守ろうとしたんだ。

 でも、ヒュウマさんのパンチの方が強い。木の幹はへし折れて、メブキさんまで殴り飛ばされてしまった。


「きゃああああああああああああああああああああっ!!」


 地面に倒れるメブキさん。その体から、緑色のオーラは出ていない。今の盾で力を使い果たしてしまったようだ。


「……」

「やめ……て」


 ヒュウマさんは無表情で、メブキさんのヘアピンを奪う。金色で緑色の宝石が付いた、神の力が宿るアイテムだ。


「……フンッ」


 ――パキンッ。

 ヘアピンは、拳の中で粉々に砕け散った。


「よ……よくもぉぉおおおおおっ!!」


 気付けばオレは、ヒュウマさんに向かって駆け出していた。

 戦いを止めたい。ずっとそう思っていたのに、今はヒュウマさんを倒すことだけしか考えられない。

 人間を嫌い、辛さも必死さもなく神様候補を倒すだけ。

 そんな血も涙もない姿が許せなかった。


「『ジャンク組成ダー』!」


 右手に電気ドリル、左手にチェーンソーを装備。同時に振り上げて、ヒュウマさんへ攻撃!

 ガキンッ、ガンッ、ギュイイイイインッ!

 激しく回転するドリルとチェーンソー。だけどヒュウマさんは、軽々と受け止めている。触れてケガをしないよう、工具の根元を掴んで止めていた。


「ハァッ!」


 グシャ、グシャッ!

 動力部分を握り潰されて、ドリルとチェーンソーが機能停止してしまう。


「まだだぁああっ!『ジャンク組成ダー』!」


 オレはお構いなしに、壊れた機械の上に巨大なペンチとスパナを作り出す。だけどその最中に、ヒュウマさんのキックがお腹に直撃!


「ぐはっ……!?」


 それでもオレは踏みとどまり、出来上がった工具を振り下ろす!


「フン、ハッ!」


 ヒュウマさんのチョップが、スパナを真っ二つに。更に折れたスパナの先を振り、ペンチも砕いてしまう。


「……弱いな」


 オレの攻撃が全然通らない。全部受け止められて、簡単に破壊されてしまう。だけど、このままじゃ終われない!


「『ジャンク組成ダー』、『ジャンク組成ダー』、『ジャンク組成ダー』ァァアアアアアッ!」


 右手にはハンマー、左手にはくぎ打ち機。両足には重機のキャタピラ。そして背中にはロケットブースター。

 オレの全力、『ジャンク組成ダー』の超重装備形態フルアーマーだ!


「おりゃりゃりゃりゃーっ!」


 釘打ち機から釘の弾丸を連射しながら、ブースターで大地を爆走!

 ヒュウマさんは釘を拳で弾きながら、迎え撃とうと突き進んでくる!


「うぉりゃぁぁあああーーーっ!」


 ブースターの推進力プラス、ハンマーのヘビー級攻撃を振り下ろす!


「ヌゥッ!」


 それを真正面から受け止めるヒュウマさん!両手でガッチリと、ハンマーを掴んで離さない!


「結局……お前も暴力に訴えるしかないのか」

「何!?」

「お前は……きれいごとを言うだけだったな」


 ヒュウマさんは勝手なことを言う。

 オレだって話し合いで解決したかった。でもみんな自分のことばかりで、戦いをやめない。ヒュウマさんだって、一方的に襲ってきたじゃないか。


「あなたに、言われたく……なぁぁぁああああああいっ!」


 ブースター最大出力、限界までオーラをつぎ込む!

 オレのハンマーで、押し切ってやるっ!


「ぬぉぉぉおおおおおおおっ!」


 ぴしっ。

 軽い音が響いた。

 ぱきぱきっ。

 ハンマーにひびが入っていく。

 ウソだろ……?

 バキンッ、バキバキバキッ!

 ハンマーが耐えきれず、粉々になっていく……。


「オ、オレの武器が……」

「決着の時だ」


 攻め手を失った、その一瞬の隙に。

 ヒュウマさんの拳が、オレのブレスレットへ――


 ぱかんっ。


 ――たった一発。

 それだけで、壊れてしまった。

 からんっ、からん……。

 乾いた音がして、割れたブレスレットが落ちた。


「負け……た」


 オレの体から、虹色のオーラが消えていく。全部、ヒュウマさんの中に吸い込まれていく。

 完全に負けた。

 手も足も出なかった。

 勝負は決まってしまった。

 新しい神様を決める戦いが、遂に終わってしまった。

 勝者は……ヒュウマさんだ。





☆キャラクター図鑑・10

人神ひとがみ日向真ひゅうま(九番目の神様候補)

 市立箱舟東中学校に通う、十五歳の男子。普段はフードを深く被っており、他人に顔を見られないようにしている。自身の願いを叶えることに一直線で、戦闘中に会話をすることはほとんどない。「人間の肉体そのものの進化を望んでいる」と語っているが……?

 アイテム:シルバーのチェーン

 能力名:『心技体流シンギタイリュウ』…全身の血管を通じて、人間が持つ能力全てを極限まで高める。体力や筋力の他、格闘術や思考能力まで常人離れしている。

 

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