10-3

「「やめなさいぃぃいいいっ!」」


 黒い玉――核を、鉄板とねじの拘束具で封じる。そうすれば分裂も再生も不可能になるはずだ。

 ずぶり、ずぶり。

 ミクさんの液状の体に、『ジャンク組成ダー』の鉄板を差し込む。ぐにゅりとした嫌な感触が、じんわりと手に伝わる。


「うぉぉおおおおおっ!」


 ねじを当てて、一気にドライバーで回す。火花が出そうなくらい回転し、鉄板の穴へと激しくねじが入り込んでいく。


「「やめてっ、やめなさいって言ってるでしょ!?」」


 どこっ、ばきっ、がすっ!

 液体パンチで、オレは何発も殴られる。それでも手を止める訳にはいかない。これがただ一つの勝ち筋なんだから。


「どぉぉおりゃぁああああっ!」


 ギャリギャリギャリッ、ガチンッ!

 ねじが鉄板をつなぎ合わせて、能力封じの拘束具が完成した。

 黒い玉を挟み込む鉄板が、周りの液状ボディを触れさせない。

 ドロドロ……ボタ、ボタボタッ……。

 そのせいか、分身の方が形を保てなくなったみたい。泥みたいに崩れていて、ミクさん本体の方に戻っていく。

 これでミクさんは戦えなくなった……はずだ。


「よ、よくもこの私を……」


 だけどミクさんは、まだ戦いを続けるつもりだ。液状化はまだ健在なのが、体の中はドロドロ動いている。


「もうやめよう、ミクさん!こんな蹴落とし合いなんて、悲しいだけじゃないか!」

「嫌よ、私は理想の世界を作るの。そのために神様になるんだから……!」


 技を封じられているのに、それでもまだ諦めない。その根性はすごいけど、独りよがりな野望のために使ってほしくない。


「どうして……どうして、みんなで話し合って、いい世界を作ろうって思わないんですか!?」

「決まっているじゃない。私達の意見を少数だって聞いてくれない、それが今の世界だからよ!」

「だからって……ミクさん一人の思いで、好き勝手に世界を変えるなんておかしいよ!」

「あなたそればっかり!うるさいの――――ギャンッ!?」


 説得の最中に、空からシズクさんが降ってきた。そのせいでミクさんは下敷きになっている。ドロドロの液体だからケガはないけど、かなり痛そうだ。

 って、何でシズクさんが?メブキさんと戦っていたはずだよね?

 そう思って振り向くと、立ち上る緑色のオーラが目に映った。大爆発したみたいなオーラの量だ。

 どうやらシズクさんとの戦いの中で、オレ達の方までぶっ飛ばしたらしい。ずっと圧倒していたみたいで、シズクさんの体はボロボロになっている。

 メブキさんは、本気で倒す気のようだ。


「カイタ、避けなさい」


 文句を言わせない、鋭い目つき。これは特大の最強技で、シズクさんに最後の一撃を浴びせるつもりだ。

 止めないと……そう思ったけど、オレの手は止まってしまう。

 やられたらやり返す。そんなことをずっと続けていたら、いつまでたっても戦いは終わらない。

 だけど、ギンガのことを思うと止められない。むしろメブキさんに倒してもらいたい、って考えてしまう。

 オレは迷ったけど、結局後ろへ下がった。


「『草木の気持ちグリーン・ブルーム弾ける果実スプラッシュ・フルーツ』!」


 大量の緑色のオーラが、たくさんの果物を形作る。リンゴ、オレンジ、ピーチ、メロン、イチゴ、バナナ、パイン、チェリー、ブドウ、レモン、ライチ、ザクロ、その他オレの知らない果物もいっぱいある。あとトゲトゲのドリアンは凶悪過ぎだと思う。


「え、まさかそれをぶつけないよね……?」


 すごく不安になったけど、オレの予想は外れた。

 果物達はクラッシュして果汁になって、一つの大きな水玉になる。虹色に光るおいしそうなジュースだ。メブキさんはそれを、


「発射ぁっ!」


 ドシュゥッ!

 極太の水鉄砲にして撃ち出した。まるで消防車の放水みたいだ。

 ものすごい圧力で発射されたジュースは、シズクさんを飲み込む!


「うぁ……!?」


 叫び声を上げるシズクさん。でも水音が激し過ぎて、すぐに聞こえなくなってしまう。


「まだまだ…っ!」


 ズドドドドドドドドッ!

 メブキさんは水玉がなくなるまで、極太ジュースビームを撃ち続ける。そして、


「はぁっ!」


 どっぱぁぁあああんっ!

 遂にジュースが底を突いた。

 ジュースが空中で弾けて、甘い雨が降る。きれいな虹もかかって、いい景色だ。


「あぁ……っ」


 どしゃっ。シズクさんの体がどろまみれの地面に落ちた。

 首にかかっていたペンダントは、ジュースビームのせいで割れている。ということは……。


「やっと決着がついたわね」


 ペンダントは青い光になって、メブキさんの体に吸い込まれていった。長い戦いは、メブキさんの勝利で終わったんだ。


「植物なんかに、このボクが負けるなんて……」

「栄養の少ない深海より、実りの力の方がちょっとだけ上だったってことよ」

「……そっか」


 負けを認めて、シズクさんは力なく倒れる。仰向けで空を見上げていて、清々しそうに見えた。


「これで、あとはあなただけね」


 メブキさんが向かうのはミクさんのところ。ジュースビームを少し食らってしまったみたいで、肩で息をしている。ちょっと辛そうだ。


「あなたもまだ戦うつもり?」

「もちろんよ。神様になるためなら、何だってしてやるわ!」

「なら、容赦しないけど」


 あの超強力果実攻撃を見ても、ミクさんの闘志は変わらないままだ。一方のメブキさんも、戦うつもりみたい。だけど、さっきの技のせいで疲れている。緑色のオーラが小さくなっていた。

 このまま戦いは続いてしまうのか。そう思った時、


「……」

「え?」

「あなたは……!」


 ミクさんとメブキさんの間に、フードを被った人が割り込んだ。カンブさんを倒した紫色のオーラの人だ!

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