7-2


 オレは両手に即席の盾を作り出す。つぎはぎだらけの、不格好なシールドだ。


「それが、カイタの能力なのか」

「まぁね。オレの大好きな、物作りの力だよ」

「……すげぇな」


 ギンガは思っていたより驚いていないみたい。変に反応してパニックになるよりは、よっぽどいいけどね。

 ……でも、ちょっと残念かも。


「あら、やだ。なんて油臭そうなのかしら」

「臭くて結構。職人の汗と涙の結晶が、物作りなんだからな!」

「うわぁ。私、そういうのダメだわ」


 ミクさんは顔をしかめている。汚い物を見ているような目で、あんまり気分が良くない。


「ホント、男子って汚くて臭くて……最低ね」

「わ、悪かったなっ」


 さっきのプールの騒動といい悪口といい、ミクさんは男の人が嫌いなようだ。初めて会った相手に、こんなに嫌われるとは思わなかった。ちょっと傷つく。


「私がお仕置きしないとね、『原生げんせいのリバイバル』!」


 能力名を叫ぶと、ボコンッとミクさんの胸に黒い玉が出てくる。するとミクさんの体がぐにゃりぐにゃり、と溶け始めて……。


「うげっ……スライム!?」

「アメーバと言ってちょうだい」


 ミクさんはドロドロの液体になった。でも体はしっかり人の形をしていて、それが余計に不気味だ。

 アメーバ……微生物の仲間とは聞いたことがあるけど、一体どんな能力なんだ?


「それっ」

「うわぁっ!?」


 びたんっ!

 液体の腕が盾にパンチ!予想外の威力で、オレはよろけてしまう。


「どうかしら、私の仮足かそく攻撃は?」

「か、かそく?速くなるかんじの技か!?」

「違うわよ、仮の足と書いてか・そ・く!アメーバが動く時に、突き出す部分のことよ!」

「いや……オレ、詳しくないんで。……ごめんなさい」

「それなら教えてあげるわ、アメーバがいかに偉大であるかを!」


 なんか、聞いてもいないのに語り出した。

 すごく自己主張が激しいな、ミクさんって。


「アメーバは微生物……とても小さくて、ほとんどの種類は目で見えないの!でもその姿はとっても独特。なんてったって、決まった形がないんだもの!」


 くるくる回って、体をぐにゃぐにゃ動かして。ミクさんは忙しそうに動き回っている。アクロバティックなダンスをしているみたいだ。結構ノリノリじゃない?


「でも本当にすごいのは、分裂で増えることなのよ!たった一匹で、自分の子供が作れるの。いいえ、むしろ自分のコピーと言ってもいい。アメーバこそ究極の生命体なのよ!」

「は、はぁ」

「だからこそ、人間はアメーバのようになればいいのよ。そうすれば美人もブサイクもない。もちろん男子なんて、不完全なものもいらない。とっても綺麗な世界になるんだから!」

「は、はぁ。そうですか……って、どういうこと!?」


 形が自由だから顔の善し悪しがない。だから、そういういじめがなくなるっていう話は分かる。でもなんでオレ達男子がいらないって話になるんだ!?


「だって分裂で増えるんだもの。男の子は子供が産めないから、この世界に必要ないわ」

「そ、そんな。言っていること酷くないですか……?」

「不完全で汚い男子なんて、私の作る世界にはいらないのよ」


 ダメだ、ミクさんの考え方も歪んでいる。新しい神様になって、世界を好き勝手に変えるつもりでいるんだ。

 こんな人を、神様にさせる訳にはいかない。


「オレが……絶対に止めてやる!」

「やれるものならやってみなさいよ!」


 ミクさんの両腕が伸びてくる。まるでロケットパンチだ。

 ばん、ばばんっ!

 拳が盾を叩く。すごい衝撃……キツくて大変だけど、盾は無事だ。液体の体だから、壊すほどの力はないみたい。これならつぎはぎの盾でも、どうにか耐えられそうだ。


「『ジャンク組成ダー』!」


 オレは盾の上に手錠と鎖を作り出す。ミクさんを捕まえるための武器だ。これで動きを止めて、戦いをやめてもらおう。


「食らいなさいっ!」

「――今だっ!」


 両腕が飛んできたタイミングを狙って、オレは手錠をかける。

 自分から手を伸ばしてくれたので、捕まえるのはとても簡単だった。


「どうだっ!このままぐるぐる巻きにしてやるっ!」

「いや~~っ、ケダモノーッ!……なんてね♪」


 するんっ。

 手錠からミクさんの手がすり抜けていく。ぬるぬると、あっという間に抜け出してしまった。


「ウソッ!?」

「ざ~んね~んっ。私はアメーバなんだから、そんなの全然効かないわよ?」


 そうか。どんなに縛っても、形が変わっちゃうから意味がないんだ。それじゃあオレが得意な、傷つけないで戦いを止めるやり方が出来ないじゃないか。


「ふふふっ、どうする?あなたもやっぱり戦うのかしら?」

「ぐっ……!」


 ミクさんを止めるには、戦うしかない。相手を傷つける、本気の争いをしないといけない。

 やりたくない。けど、そうしないとギンガを守れない。

 それなら……。


「『流星群シューティングスター』!」


 突然、オレの後ろから光の矢が飛んできた。

 ひゅんひゅんっと風を切り、光の矢はミクさんを貫いていく。


「へへっ……悪いなカイタ。オレっちも内緒にしていたんだ」

「……マジかよ」


 光の矢を放ったのは――ギンガ。絶対に守りたいと思っていた、オレの大親友。

 その頭には、いつの間にか金色の王冠が乗っていて。体からは白いオーラが吹き上がっていた。

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