6-5


「な、何をしたんですか!?」

「……」


 紫色のオーラの人は答えない。

 ピーシィさんを一撃で倒した強敵だ。同じようにサラちゃんを倒したんだと思う。

 でも、生身でどうやったのか分からない。魔法で強化されたサラちゃんが相手だったのに……。


「あいつ、指輪を奪っているわ」


 メブキさんが指さす先。紫色のオーラの人は、金色の指輪を持っている。サラちゃんがはめていた、神の力を宿したアイテムだ。


「フンッ」


 バキンッ!

 指輪が握りつぶされる。粉々になった指輪は赤い光になって、紫色のオーラの人に吸い込まれていった。


「……」


 紫色のオーラの人は、黙ったままオレ達のことを見ている。フードに隠れてよく見えないけど、きっとにらみつけている。

 空気が張り詰めていて、重苦しい。

 また、誰かを倒そうとしているのかも。

 次の瞬間には、オレがやられてしまうかもしれない。

 だけど、


「……ふん」


 紫色のオーラの人はくるっと回り、背中を見せて帰っていく。高くジャンプして、すぐ遠くに消えていってしまった。

 敵が多いからやめたのか。それとも他に意味があるのか。どんな考えだったのか全然分からないけど、とりあえずオレ達は助かったんだ。


「……ボクも帰る」


 シズクさんもその場から去ろうとする。


「待ってよ。お姉さんにもオレ達の話を聞いてほしいんだ!」

「嫌だ。ボクは戦いをやめないから」


 でも、聞く耳はないみたい。オレが引き留めたのに、シズクさんはさっさといなくなってしまった。

 やっぱり、強い人を説得するのは難しい。


「……うぅっ」


 苦しそうなうめき声が聞こえた。攻撃を受けて気絶していたサラちゃんの声だ。どうやら目を覚ましたみたい。


「あれ……サラ、どうして…………え?」


 体を起こして、状況が変わっていることに驚いている。

 なぜか自分は倒れていて、大事な指輪がなくなっている。あたりをキョロキョロ見回して、ポケットの中もガサゴソ手を突っ込む。だけど、いくら探しても見つからない。


「サラちゃん。君はもう、神様候補じゃなくなったんだよ」


 隣にしゃがんで、カンブさんが教えてあげている。

 紫色のオーラの人がやってきて、いきなりやられたこと。指輪は壊されてしまい、もう魔法が使えないこと。全部伝えていた。


「そんな……じゃあ、サラ……もうダメなんだ……うぅ……ひっく、ぐすっ」


 サラちゃんはボロボロ涙をこぼしている。褒められたくて頑張ったのに、結局台なしで終わってしまったんだ。

 やっと見つけた、自分の得意なこと。それをなくしてしまった。悲しくて悲しくて、泣き続けている。

 そんなサラちゃんに、オレは歩み寄る。


「そんなに……お父さんとお母さんに褒めてもらいたかったの?」

「ぐすっ……うん」


 鼻をすすって、コクリとうなずくサラちゃん。


「オレには分かるよ、その気持ち」

「……ホント?」

「まぁね。オレって工作以外、得意なことないし。勉強とか大嫌いだから」


 オレもサラちゃんと同じだった。小学校に入ってから、勉強も運動もついていけなかった。学校に行きたくない時だってあった。でも、物作りに出会ってから、オレは変わった。


「工作が出来る、これならみんなに褒められるって分かったんだ。その時は、すっごく嬉しかったよ!」

「そう……なの?」

「うん、そうだよ」


 サラちゃんの肩を、力強く掴む。


「だからきっと、サラちゃんの得意なことも見つかる!そうしたら、お父さんもお母さんもいっぱい褒めてくれる!もうダメ……なんてこと、絶対ないよ!」


 昔の自分に言うみたいに、オレは気持ちを伝えた。

 夢と目標がなくなったのは、とても悲しいこと。でも、サラちゃんにはまだ道がある。諦めちゃうなんてもったいない。もっと希望を持ってほしい。それがオレの思いだった。


「うん。……ありがとう、おにーさん」


 サラちゃんは、涙をゴシゴシぬぐう。

 そしてニコッ、と歯を見せて笑ってくれた。





 サラちゃんを家まで送り届けてから、オレ達は公園のベンチに座っていた。


「まさか、メブキさんもついてきてくれるなんて」

「う、うるさいわねっ」


 ずっとオレのことを敵扱いしていた。だけど、あの乱戦が終わってからも、一緒にいてくれている。オレと何度かやり合う中で、考え方が変わってきたみたいだ。この調子なら、一緒に戦いを止めるようになってくれるかも。


「ということは、メブキさんは僕達の仲間になってくれるってことかな?」

「誰もあなたの仲間になるとは言っていないわ」


 でも、カンブさんには厳しい態度のままだ。この前の口げんかで負けたことが、相当効いているんだと思う。そろそろ仲直りしてほしい。


「あれ?僕達といるってことは、そういう意味だと思ったんだけど?」

「むやみやたらに戦わないってだけよ。一応、あたしが勝ち残るつもりでいるんだから」


 なんか、またけんかが始まりそうな空気になってきた。

 これ以上ヒートアップしたらマズイ。本当にけんか、それどころかバトルが始まっちゃいそうだ。


「そ、そういえばさ。メブキさんは、どうして自然を大切にしたいって、考えるようになったの?」



 なので、オレは話題をそらすことにした。


 

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