5-2


『ワタシの力があればBreak downこわすなんて一瞬ですヨ?パパッとやっちゃいましょうカ?』

「いやいやいやいやいやいやいや、ちょっと待って!それは本当にやめてください!」


 全力で頭を横に振る。

 壊されたらめちゃくちゃ困る。勘弁してほしい。

 ピーシィさんは断られることも予想して、オレのパソコンの中に入ってきたんだ。

 なんとかしてピーシィさんを分離したい。だけどそれは難しい。

 前の戦いみたいに、苦手な電気攻撃をすれば追い出せるかもしれない。でもそれをやると、ほぼ百%パソコンが壊れる。それじゃあ、元も子もない。

 きっとピーシィさんも、分かってやっている。オレが電気で対抗すると知っていて、ちゃんと対策をしていてから脅しているんだ。


『ふ~ん、じゃあ何秒待てばいいかナ?』

「そ、そうだなぁ……とりあえず、三十秒待って下さい!」

『はいはい、いきますヨ。い~ち、に~い……って、長いヨ!?早く決めてくれなイ!?』

「あ、もう大丈夫だよ」


 オレは机の引き出しから、手のひらサイズの金属製の箱を取り出す。つぎはぎの金属板に、飛び出したコードやコネクターなどの電子部品。『ジャンク組成ダー』で作った、新しいアイテムだ。


『な、ななっ!?それは何なんダ!?』

「ふふん、オレも対策しておいたのさ!」


 脅しにビビっていたのは、半分演技だ。

 実はピーシィさんの能力――『Cord:Cybersコード:サイバース』対策で、あらかじめコレを作っておいた。

 外付けハードディスク、それともUSBメモリみたいな物と言った方がいいだろうか。とにかく、機械に入り込んだピーシィさんを引っ張り出すアイテムなのだ。

 名付けて『データ吸引ダー』。これを機械に差し込めば、自動的にピーシィさんを吸い出してくれる。


「ほいっと」


 カチッ。

 コネクター部分を差し込み、パソコンと接続。すると『データ吸引ダー』のランプが点滅して、ギュインギュインと激しく中のディスクが回転する。吸い出しが始まった合図だ。


『な、なNaな……ワタShiの体Gaぁぁぁっ!?』


 画面の中のピーシィさんが、バタバタ暴れている。画面もノイズ混じりで、カクカクしている。

 まるで画質が悪い、止まりかけの動画みたいな動き方だ。


「こっちの中に引っ越すだけだから、心配しないなくていいですよ~」

『ふ、ふざKeないDeKuれ……あ、Ahhhhhhhhhhhhhhhhh!!!』


 ピーシィさんはなんとかして、パソコンの中に踏みとどまろうとしているみたい。だけどオレの『データ吸引ダー』の方が強い。

 モニターの中のピーシィさんは消えて、しっかりお引っ越し完了だ。


「よっと」


 パソコンから『データ吸引ダー』を抜く。重さは変わっていないけど、中にはデータ状態のピーシィさんが入っている。性能はバッチリだ。

 でも、これでおしまいじゃない。


「『ジャンク組成ダー』!」


 オレは左腕に、万力のような工具を作り出す。そこに『データ吸引ダー』をはめ込み、ガッチリ固定。ねじを締めて動かなくした。


『エラーコード XX

 デバイス内から脱出出来ませんでした

 再起動をおすすめします

 強制的に能力の終了……シャットダウンをしますか?

 【はい】【いいえ】【キャンセル】』


 ピーシィさんは『データ吸引ダー』から出られなくて困っているみたい。

 それもそのはず。左腕に作り出した工具は、外との接続を断ち切る物。固定された『データ吸引ダー』は、データのやり取りが出来なくなっている。

 つまりピーシィさんは、情報体のままだと脱出出来なくなったということだ。


『システムのシャットダウンをしています……お待ち下さい……』


 音声アナウンスが流れると、『データ吸引ダー』から『0』と『1』の数字が溢れ出てくる。ピーシィさんが能力を解いたみたいで、数字が段々と元の体に戻っていった。


「く……まさか、またやられてしまうとは……悔しいデス!」

「コレがあれば、何回挑んできても同じですよ!だからオレと一緒に戦いを止めましょうよ!」


 オレの発明した『データ吸引ダー』があれば、もう『Cord:Cybersコード:サイバース』は効かない。

 これでピーシィさんと対等以上……やっと説得が出来るんだ。


「ふん、いい気にならないでほしいですネ!今度こそ、ワタシが勝ちますかラ!」


 それでも、ピーシィさんは分かってくれない。体が元に戻ると、すぐにオレの部屋から逃げ出してしまう。


「あ、待ってよ!」


 オレは急いで後を追いかける。階段を駆け下りて、一階へ向かう。だけどそこに、ピーシィさんの姿はない。

 玄関が開いている。一足遅かったらしい。もう、外に飛び出してしまったようだ。

 オレも外に出て辺りを見回すけど、人影は全然ない。

 逃げられてしまった。

 もう遠くに行ってしまったのかな……と思ったその時、


「うぐわぁっ!?」


 すぐ近くの曲がり角から悲鳴が聞こえた。

 この声は――ピーシィさんだ!


「どうしたんですか!?」


 急いで向かうと、そこには倒れている人が一人。やっぱりピーシィさんだった。鼻血が出ていて、顔面を殴られたみたいだった。

 一体何があったんだろう?

 オレが抱き起こしてあげると、


「や、やられた……一瞬で……」


 ぷるぷる震えながら、そう答えてくれた。


「やられたって、どういうこと――」


 聞き返したところで、気付いた。

 ピーシィさんの体からは、オーラが出ていない。それに金色の眼鏡、神の力が宿るアイテムもなくなっていた。まさか。


「ワタシは、負けたんだヨ……神の力は、奪われたのサ……」

「そんな……」


 ほんの少しの時間。ちょっと目を離した間に、ピーシィさんを倒した人がいるんだ。オレ達と同じ、神様候補の誰かが。


Violetむらさき……紫色のオーラで……生身だったヨ。たった一発、パンチ一発で……やられたのサ」


 しかも普通の攻撃……特別な技なしで、神のアイテムを破壊した。どうやらとんでもなく強い相手らしい。


「紫のオーラの人……一体、どんな相手なんだ……?」





☆キャラクター図鑑・5

電乃裏でんのうらピーシィ(二番目の神様候補)

 市立箱舟西中学校に通う、十四歳の男子。父はアメリカ人、母は日本人。英語混じりで話すのはわざとで、普通に英語と日本語も話せる。人類は肉体を捨ててデータだけになり、機械の体(老化や死の恐怖からの解放)で生きていけば良いと考えている。

 アイテム:ターコイズ(トルコ石)の眼鏡

 能力名:『Cord:Cybersコード:サイバース』…体を『0』と『1』の情報体にして、機械と一体化出来る。長時間の維持は不得意。

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