第三章:決意!オレは絶対強くなる!

3-1


 今日はギンガと遊ぶ日。

 オレ達は箱舟市中心部にある博物館に来ていた。ちょうど今、恐竜展をやっていて、色んな恐竜の化石が展示されているんだ。すごくワクワクする。


「うわーっ、大きいなーっ」


 博物館に入ってすぐの場所にはティラノサウルスの化石。大きな口にはキバがたくさん。大迫力だ。


「奥にも化石がいっぱいだぜ、早く来いよ!」

「ちょっと待ってよーっ」


 ギンガはずんずん先に進んでいる。

 ヴェロキラプトルやカルノタウルスなど、肉食恐竜のコーナーだ。化石だけじゃなくて模型もある。今にも動き出しそうで、食べられちゃうかと思ってしまう。


「めちゃくちゃ強そうだよねー」

「でもこいつら、もう絶滅しちゃったんだよな」

「何でだっけ?」

「隕石が落ちたからだろ?やっぱり宇宙の力はスゲーよな!」


 宇宙のことが好きなギンガは、「ふんふん」と鼻息を出して興奮している。

 言われてみると不思議だ。どんなに強くても、いつかは絶滅して化石になってしまう。それは人間にも、オレ達の世界でも起こるかもしれない。

 そうだ。神様が言っていた通り、進化が止まって滅びちゃうってこともあるんだ。


「お~い、カイタ~?どうした、難しい顔して?」


 にゅっ、とギンガがのぞき込んできた。


「ううん、何でもない。ちょっとボーっとしちゃってた」


 左腕に巻いた、クリスタルの付いた、金色の腕輪を見る。

 オレが神の力をもらったことを、ギンガには話せない。戦いに巻き込みたくない。だからオレは、ウソをついてごまかした。


「ところでさ、カイタ。ひとついいか?」

「な、何かな?」

「う○こ行ってきていい?」

「は?」


 ギンガがもじもじしている。おしりも押さえていて、本当に出そうみたい。


「ほら。本屋行くとトイレ行きたい、みたいな話あるじゃん?多分そんなかんじ」

「そういうものかな?」

「と、とにかくちょっと出してくるから!」

「う、うん」


 すたこらさっさ、とギンガはトイレに向かっていった。走っていたから、結構限界だったみたい。無事間に合うことを祈ろう。


「先に見ていようか……」


 大きい方なので、帰りは遅くなりそう。なのでオレは、展示スペースの先に進むことにした。

 草食恐竜や翼竜、海竜。本当にたくさんの化石が展示されている。下のプレートには当時の想像図や、生態についても書かれている。ここなら一日中いたって飽きなさそうだ。


「化石って面白いよね」

「そうですね……――って、え?」


 後ろから声をかけられた。

 誰かと思って振り返ると、そこにあるのはくるくるの天然パーマ頭。同じ学校の先輩で、六年生のお兄さんの古石ふるいしカンブさんだ。昔の生き物に詳しくて、とても頭が良くて有名。朝礼でよく表彰もされている。

 カンブさんも、恐竜に興味があって来ていたのだろう。同じ市内だし、知り合いに会ってもおかしくない。

 でも、それより問題なことがあった。

 カンブさんの胸には、宝石付きの金色のバッヂ。そして体からはオレンジ色のオーラが出ていたからだ。


「カンブさんも、神様候補なんですか……?」

「そうさ、カイタ君と同じだよ」


 だけどカンブさんは優しく笑っている。

 戦いをするつもりじゃないのかな……?


「あの、カンブさん。オレは……戦いません」


 まずは自分の気持ちを話してみた。

 もしカンブさんがオレと同じ思いなら、一緒に協力していけるはずだ。


「そうなのかい?せっかく神様になるチャンスなのに」

「オレ、争うのが嫌いですから」

「そうか……なら、滅びるしかないね」


 だけどカンブさんの声は、急に冷たくなった。


「君にその気がなくても、他の人は戦うよ。最後の一人になるまでね」

「そ、そうかもしれないけど……オレは止めたいっていうか――」

「どうやって?」

「は、話し合って……それで認め合う、みたいな――」

「じゃあ、今から僕がここで暴れるから、話し合って止めてみせてよ」

「え……それって……」


 オレンジ色のオーラの量が、一気に増えた。天井まで巻き上がっている。

 もし博物館の中で戦ったら、絶対に危ない。お客さんが巻き込まれるし、大事な化石が壊れてしまう。大惨事だ。


「どうする?」

「わ、分かりました!オレ、あなたと戦いますからっ!……だ、だから、せめて外でやりましょう」

「そうだね。僕も賛成だよ」


 カンブさんは、またニッコリ笑う。でもその笑顔が怖い。さっきまでの優しさが、全然感じられなかった。





 博物館から出て、少し離れた広場までやってきた。芝生がいっぱいで広々している。普段は子供の遊び場だけど、今日は暑くて誰もいない。ここならバトルをしても大丈夫そうだ。


「カ、カンブさんは本当に戦うつもりなんですか!?」

「もちろんだよ。生き物はそうやって進化して、生き残ってきたんだから」


 カンブさんの考えも、今までの相手と同じだ。争い合って神様になろうとしている。


「僕はむしろ、君の方がおかしいと思うかな」


 それどころか、オレの考えが間違いだって言う。


「戦いを止めるために話し合いって、それは無理な話だよ」

「どうしてですか!?一番平和な方法じゃないですか!?」

「その『いい子ちゃん』な考え方は、先生か親にそう教えられたからかい?」

「うっ」


 図星だった。

 けんかはよくない。暴力はやっちゃいけない。いい子でいるために、いい大人になるために。オレは言われた通りに過ごしてきた。

 カンブさんには全部、お見通しみたいだった。

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