第22話
今しがた気温が数度下がり、しとしとと温かい雨が降り始めた。
母さまが授乳しながら空に目をやる。
「雨季になったわね…」
南からの湿った風が暖められた大気とぶつかり水滴となって空から落ちてくる。ここは4ヶ月毎に雨季と乾季が交互にやってくるらしい。
俺は母さまが語りかけてくれる時はきちんと返事をするように心がけているが、今回は違う様だ。
「ジョン…」
ああ、これは父さまの事だな…
母さまが俺の頭に触り髪の毛を撫で付ける。水気を吸って少しばかりハネているのだろう。
「お義母さま、旦那さまの学習時間になりましたので、私がお預かりいたします」
母さまの前に立つ彼女はいつも毅然としている。その立ち居振舞いは10年の歳月を経た様な粛々とした
「え、ええ。そうね。任せるわ」
母さまから俺を受け取るミーティスは穏やかな笑顔だったが、動きがぎこちない。
ふっ、安心してくれ落としたとしてもインビジブルアーマーがかかっているし、耐衝撃にエアウインドをパッシブスキルの如く常時準備状態で展開している。今のこの俺に死角はない、そう思っていた時がありました。
母さまから俺を受け取ろうと手を伸ばしたミーティスに、俺は安心させるため取って置きの笑顔を向ける。
「はわぁ」
間の抜けた声を漏らすとミーティスはぎゅっと俺を力強く抱きしめ、つるんと俺は腕の中で滑った。そして、1手、2手、3手と立て続けに叩かれて頭から着地する瞬間、【複合魔法】エアウインドが発動して天井に足から突き刺さった。
事故だな、事故。確かに事故だった。だが、格好悪いし緊急脱出でもないのに狭い空間で発動したのは致命的だ。
ミーティスがあわあわしている。
心配するな、こんな事で文句をつけるような器の小さい男ではないよ。
ただ、ミーティスは母さまにこっぴどく叱られ抱っこ指導を受けました。
「いいですか、ジョンはここをこうして、こうぎゅっと抱くんです」
「はい、お義母さま、こうですね」
ミーティスがきゅっと俺を締める。いや、それダメだわ。それは。
「違うわよ、こうよこう。良く見て」
「はい。こう…ですね」
くいっと俺の首が締まる。いやいやいや、普通に魔法で物理防御してなかったら
ただミーティスはふざけてるわけでは無い様で、ぷるぷるして俺を抱いている。
「きゃう、きゃ」
"大丈夫だ、ミーティス。俺は丈夫だから、心配するな。"
雰囲気を盛り上げるために声をあげる。
前は普通に抱いてたのにどうしたんだろう。急に赤ん坊を抱くのが恐くなっちゃったのかな。
感覚派の母さまと論理派のミーティス、その指導は何の成果も無く続いた。
そんなこんなをしているうちに雨が一時止み。母さまが買い物へと出かけることになり、ミーティスと俺は留守番。予定通り学習時間になったわけだが、俺はミーティスと雨の降る庭の軒先でお気に入りのひじ掛け椅子に座り、この世界の歴史を話してもらう。
左手の掌の上にスフィアを3つ浮遊させ、右手には青い火焔を灯す。それに加え耐衝撃エアウインドの改良をしている。
また、複数の異なる行いを同時にこなす練習だ。
青い火焔は新しく修得した【スキル】でブルーフレイム(絶対燃焼)。
クリエイト生産系最強と言われた同盟の盟主であった私がアルケミスト(錬金術師)からのパスで修得できるスキルを知らない。そんな事はない。ここがゲームとは多少違っているのだろう。何と言ったって氏族がブルーアルケミストだ。氏族固有のスキルとも考えられる。どちらにしろ試行錯誤して、最も効率良く取得していく他に道はない。そう思っていた。
俺は次に【スキル】エメラルドタブレットを発動する。これも初見だ。黒い土属性の盾かと思えたが違う。【スキル】ブルーフレイムに炙られ濃緑色を帯び始めると明るい緑の文字が石板を踊った。
【スキル】ブルーフレイムを消すとエメラルドタブレットの文字が消えていく。
スキル同時発動での特殊エフェクト…これは大発見だ。
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