第23話 葛藤の男気

ヒロの家のドアフォンを鳴らすとかったるそうなヒロが頭を掻きながら玄関先に出て来た。

「何だよアキオ、休みの日の朝っぱらから」


確かに普段ではあり得ない状況だ。


「いや、色々と悩み事があって寝れなくてね」

ヒロは俺の並々ならぬ言動に驚いたのか「とにかく上がれよ」と部屋に招き入れた。


「何かあった?」

ヒロは心配そうに聞いてくる。


俺は人生最大の演技を演じた。


「実は凄く好きな人が出来て一緒に暮らそうかと悩んでいるんだ」

とヒロの想像を超えた発言に呆気に取られている。


「えっ?それって多部と?」

当然そう返ってくる。


「いや、別の人」

更に驚きを隠せないヒロは


「えっ?誰?」

と興味津々に聞いてくる。


「仕事帰りに良く行く飲み屋の子」

俺は麻里恵の事を伝えた。


するとヒロは

「えっ?水商売の子?、それはアキオには無理なんじゃ無いかな」

付き合いの深いヒロは俺の事を知り尽くしているので水商売の子とは合わないと断言しているのだろう。


「俺もそう思っていたけどその子は特別なんだ」

不思議に演技で言っているはずの言葉が素直に出てきた。


「えっ?何?多部の事は吹っ切れたという事?」

ヒロは良く理解できず困惑している様だ。


「あー多部ね、何か不思議にその子と会っていたらどうでも良くなっちゃって」

この発言には後ろめたさを感じた。


「それは宮野と多部が上手くいってそうだから身を引こうとの本能じゃね?」

確かに少し前だったら事実だったかもしれない。

けど今は全く違う。


「いや、それは無いよ、二人は全く恋愛感情無いから」

ここはヒロの誤解を解いておくのも重要だ。


「えっ?そうなの?」

ヒロも間違いなく宮野と多部は恋愛関係にあるのだと思っていた様だ。


「宮野の想う相手は義理の妹で年少から出て来たら手術の為にアメリカに行っているその子を追っかけて向こうで暮らすらしいよ」

ヒロは理解に苦しんでいる様だが宮野の話はこの程度で良いだろうと思い核心に入る。


「まぁそういう事で色々と気苦労した多部から相談を受けているんだけど正直俺は麻里恵という子の事で頭が一杯で相手をしきれないんだよね」

これも心苦しい言葉だがここは心を鬼にして貫いた。


「アキオ、それは冷た過ぎだろ」

少しムッとしたヒロが顔を顰める。


よし!ハマった。

と俺は心の中でガッツポーズをしながら話を続けた。


「そう、俺もそう思う、自分が醜くて嫌になってきて、だから寝れずに悩み始めて」

俺の親身な訴えにヒロは考え込んでいる。


間髪入れずに俺はトドメの言葉を放った。


「だから相談に来た、暫く多部の相談相手になってくれないかな」

覚悟を決めて放った言葉だがやはり苦しい。


その心を察しられない様に喋り続けた。


「俺も酷いなと思いながら他の人に心が行ってしまった以上、あまり関わりたく無いんだよ」

ヒロにも嫌われてしまうのでは無いかと不安になったが、ここは貫くしか無い。


「俺は何をすれば良いの?」

ヒロは困惑して聞いてきた。


「取り敢えずディズニーのチケット渡すから二人で行って来てよ」

以前仕事先の上司である佐良から「落としたい子が居たらまずはディズニーランドだぞ」と貰ったチケットを惜しみながらもヒロにあげる事にした。

そして俺は睡魔の限界にも来ているのでその場を後にした。

これで良かったんだと自分に言い聞かせながら。



その日は1日中寝ていたがヒロと多部はどうなっているのだろうと目が覚めては気に成り、その度に布団を被って無理くりに寝て、余計なことを考えない事にした。


とにかく週明けからは仕事に精を出すしかないな。


仕事で可愛がってくれている佐良と共に、俺も契約キャンセル率の低さでトップと成り、若いながらも部下を付けて貰ったので、毎日佐良と俺は洗濯物の布団をくすねて営業車の後ろに広げて昼寝をしたりナンパをしたり、夕方に部下たちがアポイントを取って来た案件を佐良と俺で刈り取り契約を決めるというルーチンで更に成績を上げていた。

佐良の押しの強い営業力と自分の誠実な営業スタイルがビシバシと嵌り、契約数も成約率も高く、ついに俺も月収100万円近い給与を貰う様になった。

その金で夜は佐良とキャバクラ三昧、サンシャインプリンスで口説いた女の子と夜を共にする事もあった。

若干19歳でイケイケの生活。

なのに空しかった。。


多部とヒロはあの後どの様なプロセスを踏んだかは知らないが、いや知りたくないが、結局付き合っているようだ。


俺は二人と話して後押しした日以降、麻理恵とは何故か会うのを躊躇っていた。

多部を諦める為に麻理恵に向かうのは何か違うと感じていたからだ。


仕事で評価をされ、金回りも良く、夜も毎晩のように飲み歩き、女性たちにもチヤホヤされる毎日。

それなりに忙しく、寝る時間も削っているので、家に帰れば爆睡して余計なことを考える暇もなっかた事は幸いだった。


そんな日常を送っていたある日、突然ヒロから連絡がきた。


驚きの内容だった。


「俺、ミノルと旅に出ることにした。」

真剣な顔をして訳の分からない事を言い出すヒロ。

「はぁ何言ってるの」

俺はイラっとして聞き返した。


「高校卒業して目標見えないし視野広げようと思って、それに・・・」

ヒロは下を向き言いにくそうだ。


「それに?」

俺は強めな口調で次の言葉を即した。


「やっぱ多部はアキオと付き合った方が良いと思う」

更に真剣な目つきで俺の顔を見てくる。


「何言ってるんだよ、俺はもう好きでもねえよ」

俺は啖呵を切った。


「嘘だろ、お前の最近の生活かなり荒んでいるみたいじゃないか、まだチームで悪さしてた時の方がマシだったと周りでも言われているぞ」


そんな噂になっていたのか。


「その事とヒロが多部と分かれて旅に出る事となんの関係があるんだよ」

俺は腹が立ってきた。


「どう捉えても構わないけど俺は前のアキオが好きだし、早く目を覚まして欲しいよ」

「とにかく俺は明日、多部には何も言わず地元出て行くので車の中のぬいぐるみとかの私物を多部に返しておいてよ。」

ヒロは一方的に言ってくる。


「嫌だね」

俺も感情的に答えた。


「あと今月ディズニーランド行く約束していてるから一緒に行ってやってくれ」

俺のあげたチケットだ。


「ふざけんな!」

俺はあれ程覚悟を決めて譲り自分の行き場を探している中に、全てを無駄にされて裏切られた感じさえ受けた。


ただ、それは俺の独りよがりなのかもしれない、と怯んだ隙に


「頼む、俺も色々真剣に考えた結果なんだ」

「親友だろ」と

勝手なことを言ってヒロはチケットとぬいぐるみを強引に渡し、地元から消えた。


そして1週間後、多部から連絡が来た。

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