第21話 運命の勘違い

案の定翌日から追い込みが始まった。


ターゲットは宮野。

地元のみならず周辺でも顔を売る宮野は面割れも早い。


逆に全く顔も知られていない俺は追われる事は無かったが、ヤクザ達は同チームである隣町の俺達の地元でもヤンキー狩りを行い、事件に加わった人間を探し回っていた。


俺達はいつもの溜まり場を日ごとに変えてヤクザ達から逃げ回っていた。


大騒ぎをせずに静かな会話を心掛け、ヤン車は使用せず、後輩のノーマルバイクや家の車で移動するなど、身を潜め、黒塗りの車が近くを通るたびに息を潜めて過ぎ去るのを待った。


下手をしたらボコられドラム缶にコンクリート漬けにされ海に沈められる可能性もある。


かなりの緊張感持つ毎日だったが、仲間達との逃亡生活は何故か楽しく、生きている実感を普段以上に得られて充実していた。


しかし宮野の地元は荒れていた。

宮野を血眼になり探している極道達は半ば拷問の様に関わる人間を見つけては追い詰めて何人も病院送りに成っていた。


仲間達が次々と襲われる事に剛を煮やした宮野は自ら出向く決意をした。


そして宮野が家を出て車に乗り込みエンジンを掛けた瞬間、コンコンと窓を叩かれた。

そこには強面のスーツ姿の男が二人立っている。


宮野はヤバいなと思い左手でギアを一速に入れながら窓を開けた。


すると男が胸ポケットに手を伸ばす。

宮野が左足のクラッチを緩め右足のアクセルを踏み込もうとした瞬間、もう片方の男が静止する様にフロントガラスに手をつき言った。


「警察だ、止まれ!」


宮野は想定外の言葉に驚いたが半ば安堵し、ギアをニュートラルに戻しエンジンを止めた。


宮野はそのまま逮捕され、拘留された後に実刑となり、前科も影響し1年間少年院に入る事になった。


同時に何人も一般人を入院させた組の幹部も逮捕され、その組とは敵対しつつも系列が同じである、宮野を可愛がる組長が本家と話を付け手打ちとして、警察も宮野と組員一人づづの逮捕で落としどころを設けた。


それ以来、宮野と会う事は無かった。


そして宮野の逮捕に落ち込む多部を慰めようと呼び出した。


久しぶりに多部の家に電話すると父親が出たので思わず「間違いました」と慌てて切ってしまった。

何をしているんだろう、情けない。。

と落ち込んでいる夜、多部から家に電話が掛かってきた。


「もしもしアキオ、今日うちに電話した?」

と何故か察していた。


「えっ何で分かったの?」


「お父さんが若い男から間違い電話が掛かってきたが悪戯目的かもしれないから気をつけろよって言ってきたから」


「それで何で俺だと分かったの?」


「私が宮野先輩の事で落ち込んでいるだろうからアキオから連絡が来ると思っていたし、お父さんが出て緊張して電話を切っちゃう小心者はアキオ位だなと思ってね」

「マジ、情けなさ過ぎだな俺」

と真剣に落ち込むと


「アキオの小心者は男女関係に限っての事だから純粋っていう事で胸張っていいよ」

と嘘か誠かは分からないがめちゃくちゃ嬉しいフォローを入れてくれた。


俺が「今から出れる?」

と聞くと


「うん、コンビニ行くって出るから1時間くらいなら」

俺は慌てて着替えて待ち合わせの駅前のコンビニに向かった。


待ち合わせ場所に着くと先に待っている多部に声を掛けた。

「お待たせ」


宮野の事で落ち込んでいるからだろうか、今日の多部はいつも以上に哀愁が漂り、魅力的に見えた。


いかん、いかん、今日は俺の恋心は無と化し、宮野の事を思う存分聞いてあげる覚悟できているのに。


哀愁漂る多部は俺の顔を見ると明らかにホッと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


「大丈夫?」

俺は覚悟を決めた。


駅前から運動公園に場所を変えながら多部は静かにゆっくりと喋りだした。

「宮野先輩、捕まっちゃったね」


「ごめん、一緒にいてほぼ共犯の俺が平穏無事で宮野にだけ責任を被せてしまって」


俺は宮野が捕まり一件落着し、ホッとした半面、無性に情けなく後ろめたく感じていた。


だからこそ俺は自分を捨ててでも多部と宮野の為に一肌も二肌も脱がなければ成らないと強く思っていた。


「アキオのせいじゃ無いよ、余罪もあっての実刑だと聞いたし」

誰も攻めれず自分の大切な人の自己責任としか言えない行き場のさを感じた。


「でもね、宮野先輩はすごく優しい人なの」

多部は何かを思い出すように空を見上げた。


覚悟はしてきているが、やはり好きな子の他の人との恋バナはキツい。

俺はとにかく冷静を保ち話を聞いた。


「実はね、宮野先輩は人生で最初で最後の恋だと言ってたの、あんなに周りから怖がられている人が凄く意外だった」


そんなにも思われていたんだと更に旨が苦しく成ってきた。


「そんなに想って貰えたら幸せだよね」

俺は懇親の力を振り絞り満面の笑みで答えた。


「でもね、二人は障害だらけの恋だったの」

何故か三人称視点の表現だ。


「彼女は重い病に倒れて」


「えっ?」

俺は一瞬茫然とし、慌てて聞き返した。



実は宮野は義理の妹に昔から恋心があったらしい。

しかし不治の病にかかってしまい、義理の妹の看病に多部は付き合い相談役をしていた。


丁度その頃多部も凄く悩んでいる事もあり、宮野に相談に乗って貰い、持ちつ持たれつの仲に成ったとの事だ。


そして義理の妹を治す為のドナーがアメリカで見つかり3か月後に手術が決まった矢先の事件だったらしい。


手術が無事終わったら宮野はそのまま彼女を静養させながらアメリカで一緒に暮らし、一から出直すつもりだったらしい。

おそらく出所後はアメリカに行き、大切な人と新たな暮らしを始めるのだろうとの話だった。


結局、宮野と多部の男女の関係は無かった。


それどころか偶然とは言え、宮野の義理の妹と多部が知り合いだったのを機に宮野の相談に乗り、彼らの苦しみや葛藤を一緒になって抱えて多くの時間を割いて看病してきた多部は流石だ。


自分の損得勘定なんて無いやはり凄く素敵で魅力的な女性なのだ。


それに引き換え俺は色々な事を想像して時には今頃二人は…

などとモヤモヤしながら何も出来ずにただ距離を置いて見ないふりをするのがせいぜいだった。


自分の小ささがより鮮明に成り惨めな気持ちにさえなった。


でもこれでライバルは消えたのだから改めて多部に見合う自分に成るぞと前向きに考える事にした。


その日は時間に制限も有ったので後ろ髪を惹かれる思いでその場を分かれた。


そう言えば多部が宮野に相談していた悩みって何なのだろうと引っ掛かりを持ったまま。

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