第12話 何気ない重き選択

3月に入り季節も春めいた休日に期末試験を終えたみゆきから連絡を貰い駅前の喫茶店で待ち合わせをした。

2週間ぶりなのが凄く長く感じて待ち合わせ時間の30分前に着いてしまったのでまだみゆきは居ない。

丁度良い!好物のチョコレートパフェを頂こう。

気持ちを切り替えて店員に注文をすると愛想の無い大学生位のウェイターが

「パフェですか?」

と聞き返して来た。


「そうだけど何か?」

俺がパフェを頼むキャラじゃ無いので馬鹿にしてんのか?と思いムスッと答えると


「パフェ時間かかりますよ」

とぶっきらぼうに言って来た。


この野郎、喧嘩売ってんのか!

と一瞬文句を言いそうになったがこの間みゆきから教わった6秒ルールを試してサラッと受け流した。


6秒ルールは俺が不良グループから抜けて更生していく中で短気なところを治さなきゃねとみゆきがカッと来た時に「6秒私の事を考えて」と教えてくれた魔法みたいなものだ。


不思議とみゆきの事を少し思えば大概の事はどうでも良く流せる様になった。


色々と葛藤が有り恋愛に不信感を持ち始めている俺だがこの様な対応はきっとみゆきと付き合わなかったら出来ないまま大人になっていたかもしれない。

間違い無く良い方向に成長出来る糧には成っているのだ。


そんな事をボォーと考えていると意外と早くパフェが目の前に!


どデカいグラスに溢れんばかりのアイスと生クリームにフレーク、イチゴ、バナナがギッシリ詰められ更にはその上に巨大ソフトクリームが聳え立ち頂上にちょこんとテェリーが座っている。


こんな芸術的なパフェですか有れば時間を要するのも無理は無いだろう。

ウェイターの兄ちゃんも遅いだなんだと文句を言われて苦労してるのだろう。


ご機嫌なパフェ効果もあり一層大人な気持ちになる。


パフェを見つめながら揉み手をしていざ試食!

「パクッ」…


旨い! 美味すぎる‼︎


パフェの頂上からサクランボが落ちぬ様に棒倒しの要領で中腹サイドから攻める。

ヤバい!傾いてきた。。

慌てて頂上のサクランボを救出!

そしてパクリ。

生クリームの甘味とサクランボの酸味が合間味あって絶妙な風味も鼻から抜ける。

「うーん!」天を仰いでパフェの旨さに堪能した瞬間!


「何やってんの?」

冷ややかなみゆきの顔が目の前に。。


どうやら夢中にパフェと格闘する俺を暫く呆れ顔で見ていた様だ。。


「あっ!みゆき 久しぶり…」


「お久しぶりですね、アキオさん」

冷たい返事が返ってくる。


「あれ? もしかしてご機嫌斜め?」


「はい、久しぶりに会えると思って楽しみに来たら私の事なんかお構いなしにパフェさんに夢中な方をお見受けしたので」


「えー、そんな事ないよ‼︎

 俺だってどんなにみゆきに会うのを楽   

しみに来たか」


「本当かなぁ…」


「絶対本当!」

俺はみゆきの目を見つめながら真剣に言った。


「本当!良かったぁ〜!」

やっとご機嫌になったと思うと


「じゃぁ、いっただきまーす」

と俺からパフェを取り上げてバクバクと食しはじめた。


「えー、」


「何か!?」


「いえ…」

なんて恐ろしい女だ。。


と思うと心を読まれたのか

「アキオ!」

俺はギクっとしてしまう。


「もー、アイスほっぺに付いてるよ」

と言うとみゆきは親指で俺の頬のアイスを拭いぺろっとその指を舐めている。


駄目だ、この子には敵わない…


こうやって人間の上下関係は成立していくのであろう。。


「ねーアキオぉ、来週ホワイトデーだよー、どんなイベント考えてくれるのかなぁ」

こうなると半ば脅しに思えてくる。


「みゆきは何したい?

 みゆきがしたい事を率先するよ」


「えー、そう言うのは男がしっかりプラン考えてくれないと!」


檄を入れられてしまった。。

「よし、任せておけ!」


「ホント!楽しみにしてるね!」

とは言ってみたものの現時点はノープランだった。


いよいよホワイトデーの前日、俺はお菓子の入った可愛らしいポシェットを買い当日に備えていた。


当日は平日なので仕事から帰って直ぐに待ち合わせして夜の学校は休む予定を立てた。

みゆきも家にはバイトで遅くなると伝えてくれているので少しはゆっくり出来そうだ。


プランとしては吉祥寺に出向きサンロードと井の頭公園を散策して公園内のレストランで食事、そこでプレゼントを渡す計画だ。


洋服も明日の為にイケてる一式を揃え済みなので準備万端!


そんな意気込みでクローゼットを眺めていると外で舌打ち何鳴った。


外に出てみると光輝が立っていた。

「どうしたの?」


すると光輝は満面の笑みで応えてくれた。


「アキオ!明日の夜解散式が有るんだけど青山先輩が元メンバーを参加させていいと言ってくれたんだ!」

「和人、宮地、菊池も参加する事に成ったよ!」


「えっ?和人とか保護管中なのに大丈夫なの?」


「解散式は暗黙の了解で事前報告しておけば雄一お巡りも見逃してくれる日なんだよ、他のチームも同様この日は揉めない様に話し通してあるからリスクはかなり低いからね」


「そうなんだ!でも俺はクビに成った様なもんだからマズく無いかね。。」


「それが今回の青山先輩からの特例はアキオを意識しての考えらしい、青山先輩はあの後もちょくちょくアキオの様子気にしていたからね」


俺は涙が込み上げて来た。


こんな不甲斐ない俺を地元を纏めている様な光輝や多方面でも名の通っている青山先輩までもが気に掛けてくれているなんて…


胸にずっと引っかかっていた硝子の破片が涙と共に溶けて流れ出ていく様にスッキリとしていく。


「有難う」

俺は光輝の肩を掴み頭を下げた。


「明日6時に迎えに来るよ」


「うん!分かった」

俺は苦しみからの解放と皆との再会に心が踊った。


光輝が去っていくと「ハッと我に返った」


ヤバい!明日はみゆきとのホワイトデーデートじゃないか。


待ち合わせは17時、家に18時に帰るとなると30分で理由を説明して納得して貰わなければならない。


今から電話して伝えたいところだが夜の11時を過ぎて厳しい多部家への電話は不可能だ。。


明日きっちり説明してデートはズラして貰おう。

きっと理解して納得してくれるはずだ!


翌日、一抹の不安を抱えながら仕事を終えて家に帰り一応服を洒落着に着替えて待ち合わせ場所に向かった。


すると珍しくみゆきが先に到着して待ち合わせの公園のベンチでジャングルジムの子供達をボォーと見ている。

バッチリお洒落した姿で。。


可愛い!

しかし余計言いにくい…


動揺する気持ちを抑えてみゆきの所へ向かう。


「お待たせ!」

右手を挙げて満面の笑みで声を掛ける。


「うん、待った」

と微笑みながら返してきた。


「今日のみゆきメチャメチャ可愛いね!」

本心ではあるがこの事態を乗り切る為に輝く太陽を見る様、大袈裟に手を目の上に当てて表現をしてみた。


「そうかな、ちょっとぶりっ子風でアキオ嫌いじゃ無いかなぁと少し不安だったんだ」

と言うものの満更では無いのは明らかだ。


よし、このタイミングで切り出そう。


「すっごく可愛い!みゆきとずっと一緒に居たいんだけど、どうしても外せない用事が今夜、急遽出来てしまったんだよね」


「えっ、」

あからさまにみゆきの顔が不機嫌になる。


「なので凄く申し訳無いけど今日は30分位しか時間無いのでデートは次回に延期して欲しいんだ」


「何で?」

不機嫌ながらも冷静を保とうと話を聞く体勢を取っている。


「実は前にも話していた友達の光輝達が大切な集まりに招待してくれたんだ」


「どうしても外せない用事って友達との集まりなんだね」

かなり不満の様だ。。


「いや、ただの集まりでは無くて今夜しか出来ない集まりなんだ」


「ふーん、ホワイトデーも一年に一度だよ」

「それに私は親にバイトだと嘘をついて来てアキオとの大切な時間を作ろうと前から準備万端にしていたんだよ」


「ごめん、次回必ず埋め合わせするから」

俺は手を合わせてお願いした。


「分かった」

みゆきは呆気なく了解してくれた」


「じゃぁ埋め合わせいつにしようか?」

俺はみゆきの気が変わらぬ内にと話をトントン進める。


「まだ予定分からないから連絡する」

少し冷たい感じで言われた。


「了解! あっこれホワイトデーのプレゼント」

俺はご機嫌を取ろうとお菓子入りの厳選ポシェットを差し出した。


「あっ可愛い〜」

ラッピング袋の中身を見たみゆきが喜んでくれた。


よし、これで何とか今回乗り切れた!


安堵の気持ちと共にタイムリミットが近づいた。


「そろそろ行かないと」

俺は申し訳無さそうに言うと


「うん、あまり危ない事しないでね」

とみゆきは優しい言葉で見送ってくれた。


何とか無事に乗り切った!

俺は心の中でガッツポーズをして家に急いで帰り特攻服に着替えて光輝の迎えを待った。


そんなに女性は甘く無いとは知らぬままに…

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