第4話 美織、探索する(2)

[2]

 それを思い出したのは、京都府大会が終わった5月下旬でした。

 部活時間の終わりごろ、トラックから戻って来た佐久間君たちいつかの1年生グループを見て、

「ああ!」

と思い出したのでした。

「そうや、佐久間! 五島カケル! あれから、どしたん?」

 声をかけると、佐久間君たちは、

「あ!」

と、バツ悪げな顔をしました。

「声掛けてへんのやなあ!」

 朋美が苦笑いして言うと、1年生たちも苦笑いして、

「俺ら、五島とクラスが違いますしぃ」

と、きまり悪げに言います。

「小学校も違うし」

と、大原君が言うのには、朋美も吹き出してしまいました。

「当たり前やろ! 長崎やったんやから」

と言うと、佐久間君たちも、ニヤニヤ笑います。

「誰か親しいやつは、おらへんの?」

 尋ねると、

「それがぁ‥‥」

と、煮え切りません。

「なんや、あんま周囲とつき合いがないみたいで」

「そうなん?」

「なんか、2年生と親しいみたいやって聞きますね」

「ふうん」

 他の部からの勧誘かも知れません。五島君クラスの有望選手ならば、どこの部でも欲しがりそうです。

「とにかく、一回、時間作ってや! うちが直接話してもええから」

 そう言うて、1年生たちを解放して、道具を片づけに行ったのですが、

「鈴野!」

 声をかけて来たのは、同学年の佐藤航(わたる)でした。

「ん?」

 朋美は、振り返って答えました。

 航も、先日の京都府大会の100メートルで、全国大会出場を決めていました。

 日焼けした身体は、2年生の頃に比べて日増しに精悍な感じがして来て、少し眩しい気がします。

「お前、五島カケルとつき合いあるんか?」

「ん?」

 1年生との話が聞こえたのでしょう。

「いや、つき合いいうか、1年生たちに、部に誘え言うたんやけどな」

と、苦笑します。

「なんや煮え切らへんから、うちが直接会ってもええかなって」

「やめとけ」

「へっ?」

 朋美は、戸惑って航を見ました。

「あいつ、ええ噂ないぞ。2年の変なグループとつるんでるらしい」

「そうなん?」

「おまえかて、今、人の世話してる時やないやろ。全国大会に集中しろ!」

 真剣な様子で言うのに、

「ん‥‥」

と、返事を濁らせてしまった朋美でした。


 ところが、翌日の事でした。部活が休みで帰ろうとした朋美は、昇降口で下駄箱から靴を取り出そうとして、

「あ! 鈴野先輩!!」

と、呼び止められました。

 佐久間君たち1年生の男子5人が固まっています。

「ん? どしたん?」

 すぐに朋美は気づきました。

 グループには、馴染みの陸上部員たちのほかに、もう一人、1年生のバッチをつけた男子がいます。

「あ! 違います!」

 佐久間君が、言うのでした。

「こいつ、俺の小学校の同級生で、木屋(きや)いいます」

「ん?」

 朋美が、その1年生に笑いかけると、木屋君は、固い表情で頭を下げます。

「こいつ、五島と同じクラスで、五島を紹介してもらおう思うとったんですけど」

「うん?」

 朋美は急いで言いました。

「ああ! ありがとうな、木屋君! うち、3年の鈴野いうんや」

「それが、先輩」

 佐久間君がさえぎって言います。

 佐久間君たちに促されて、木屋君が話しました。

「実は、五島、2年生のグループに連れてかれてしもうて」

「ん?」

 よその部の横入りにしては、木屋君の表情が深刻です。

 佐久間君が説明しました。

「五島、2年生のガラの悪いグループに属してるらしいんです」

 木屋君も話を続けます。

「僕、母ちゃんが五島の母ちゃんと同じ職場で――、五条の病院なんですけど、――母ちゃんに、仲良くするように言われてたんですけど、なんや面倒くさいな思ってて」

「うん」

 分かる気はします。朋美は、下級生の男の子に笑みを向けました。

「すんません」

と謝る木屋君に、朋美は言いました。

「つまり、連れて行ったのは、その2年生のグループなんやな? 行き先は分るん?」

「いえ」

「心当たりは?」

「家か、そのほかは、親が勤めている病院くらいしか――、あ! それで」

 木屋君が、学生かばんを朋美に見せました。

「あいつ、かばん忘れてって」

 連れて行き方が、ずいぶんと強引な気がします。

「分かった!」

 朋美はうなずきました。

「木屋君、ちょっとうちらとつき合ってもらってええかな?」

 まずは、五島君を見つけるのが第一です。陸上部への勧誘はそれからの話です。

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