第2話 プロローグ②

 挨拶を済ませて街を出たアネモネは街道を歩き、分かれ道で立ち止まる。

「うーん……………………どっちに行こうかな?エルビスは右だったっけ?」

 親方にはエルビスに行くと言ったが別にエルビスに用事が有る訳では無い。

 かと言って他に行きたい場所も何も無いのでアネモネは立ち尽くす。

「ま、いっか」

 しばらく考えた後にアネモネはエルビスの街へ向かう事に決めた。

 しかし曲がりくねる街道は使わずエルビスの街が有るであろう方向へと真っ直ぐ進む。

「次の街でもいい人と会えるかな?美味しい食べ物とか料理とか有れば良いけど…………」

 次の街に想いを馳せながらもアネモネは歩みを止めずにどんどん進む。

 港街の親方は一晩は野宿しなければいけないと言っていたがそれは人での話だ。

 人を超越するドラゴンの肉体を持ってすればどんな道も休み無く歩き続けて迂回する必要の有る崖や川も容易に飛び降り、跳び超えて突き進むので日が登る頃には目的地のエルビスが見えて来た。

 アネモネの目指すエルビスの街はそびえ立つ山に寄り添うようにあり、それを囲うように魔物を防ぐ為の分厚く背の高い城壁がそびえ立っている。

 「結構大きな街だなぁ。どんな物があるか…………ん?」

 足を止めて街を眺めているとアネモネの頭上に影が通り過ぎる。

「ギキャアアァァァァ!!」

「はえ?」

 けたたましい叫びのする方を見ると近くの丘の上に鋭い嘴を持つ巨大な怪鳥がアネモネを鋭い目つきで見下ろしていた。

 アネモネと目が合うと羽ばたいて上空から襲いかかってくる。

「よっと」

 鋭い鉤爪で掴み取ろうとする怪鳥をアネモネは軽々と避けた。

「ギキャアアァァァァ!!」

「ほいっと」

 再び襲いかかるがアネモネはそれも軽々と躱して掠りもしない。

 しかし反撃が来ないと知った怪鳥はアネモネをただの獲物と認識したらしく攻撃が激しくなる。

「困ったなぁ。走って逃げるのも大変そうだし。よっと!威圧して追い払うのも加減を間違えたら死んじゃいそうだし…………」

 アネモネは困った表情をを浮かべ悩むがその間も怪鳥からの攻撃は止まず、躱し続ける他に無かった。

 幾らでも方法は有るが殺さずにとなるといろいろと難しい。

 下手をすれば全身で突撃してくる怪鳥の攻撃を真正面から受けただけで逆に命を奪ってしまいかねない状況なのでワザと攻撃される訳にも行かない。

「ケキキャーッ!」

「ありゃりゃ」

 襲い来る怪鳥をすんでの所で躱す。

 アネモネは手も足も出ずに逃げ回っていると突如、状況が一変する。

「ファイアボルトォ!!」

「ぶきゃぁ!?」

「キギャァ!?」

 ギリギリの所を躱そうとした瞬間に少女の声と共に火球が飛んで来て弾け、アネモネと怪鳥の両方が炎に包まれた。

「やっば!?両方やっちゃった!?」

「リリィ!治癒の奇跡を!」

「はい!直ちに!」

 怪鳥は炎に包まれ地に落ちて、しばらく悶え苦しんだ後に動きを止めた。

 黒煙を纏いながら目を白黒させているアネモネへと複数の人物が駆け寄ってくる。

「全てを癒やす竜の御業をここに《ヒー…………おや?」

 そのうちの一人が手のひらを光らせ、何かを唱えようとするが中断する。

「どうかしたのリリィ?」

「いえ、どうやら怪我が無いようです」

「え?マジで?」

 三人の人物がアネモネを囲うように立つ。

 一人は使い古した革鎧に背中にやや大ぶりな 両手剣を担いだ少年、その左右に心配そうな表情でアネモネを見ている腰にメイスを下げた白い僧服を着た少女と耳を出す穴を開けた三角帽子を被り杖を握る獣人の少女がいた。

「あわわ……何が起きたの?」

「アンタが魔物に追っかけられてたから助けてあげたのよ。諸共アタシの魔術でやっちゃったのはその…………悪かったわ」

 獣人の少女はバツが悪そうに手を差し出す。

「助けてくれたの!?ありがとね!」

 アネモネは目を輝かせて笑い、差し出された手を掴み立ち上がった。

「ホントに大丈夫かい?直撃してたように見えたけど」

「見た所怪我は見られないようですが何処か痛い所があれば言って下さいね。いつでも癒しの加護を施させて頂きますので」

「うん。何処も痛く無いから大丈夫!」

 アネモネは胸を張り自らが無傷な事を主張する。

「当たりどころが良かったのかしらね?」

「なんにせよ怪我が無いなら良かった。僕達は冒険者で僕の名前はカイン、こっちは竜教徒の修道女のリリィで君に魔術を浴びせちゃったのが獣人で魔術士のシェリーだよ。よろしくね」

「私はアネモネ。いろんな街で働きながら旅をしてる見ての通りリザードマンだよ」

 そう言ってアネモネは白い鱗の尻尾をこれみよがしに振る。

「それにしても何で街道から外れたこんな所に居るのよ?魔物と戦えないならそこの街道沿いに行かなきゃ危ないわよ?」

 シェリーは少し先に見える街道を指し示す。

「そこのエルビスの街に近道で行こうかと思ってたんだけど最後の最後で襲われちゃって」

「まあアタシ達も路銀が無いから少しでも節約しようとして近道してきたんだけどね」

「あの、もしよろしければエルビスの街までご一緒しませんか?」

「良いの!?」

 リリィの提案にアネモネは目を輝かせる。

「街道は魔物が来にくいだけで来ない訳では無いしね。すぐそこまでだから必要無いかもだけどシェリーが魔術で巻き添えにしたお詫びと言う事で、ね?」

「それを言われたら何も言えないわね」

「ありがとねっ!街までよろしく!」

 アネモネは三人の気遣いに喜び、四人はエルビス街へと向かった。

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