第15話 〜お兄ちゃんはやっと街に入れたようです〜

 街を取り囲む外壁の門をくぐって、俺たちはようやく街の中へと入れた。

 どうやらセージはそこそこ顔が利くようで、門番の人に話を通してもらって、俺たちは割とすんなり入れた。

 王都で神官をしているというのは、あながち嘘ではないらしい。いや、別に疑ってた訳でもないが。


 ちなみにどうでもいい話、俺もキミーと別れる前に、妹に習って「俺と契約して……(以下略)」とやってみたが、案の定無理だった。少しだけセージの気持ちが分かった気がした。




 さて、話を戻そう。門をくぐって少し歩いてすぐ、出店やら露店やらが目に入った。品売をする店主、値切り交渉をする客。親子が手を繋ぎながら楽しそうに会話をしていたりと、大勢の人々が行き交いとても活気に満ちていた。


「へー、凄いな。これでもまだ、王都じゃないんだろ?」

「はい。こちらの街も、王都に引けを取らない程の、とても賑やかな街になります」


 森を出る前に、事前に街の話を少しだけ聞いていた。よくあるゲームや転移ものの始まりの場所なんて、大体は初心者向けの小さな村や町が主流だ。別に期待していなかった訳では無いが、コレは想像以上だった。


「我々の世界では、あまり見慣れないですね。以前本で見た、中世ヨーロッパのような街並みや衣服です」

「だな。コレぞ『The ☆ ファンタジー』って感じだな!」

 

 俺が「うんうん」と一人で頷いていると、「さすがにそれは、私には分かりません……」と小さくツッコまれた。


「しかし。失礼ながら、髪色も、我々とは違う感じでちょっと不思議ですね……」


 伊織の言葉で気づいたが、確かに。髪の色が……俺たちが日本人と言うのもあるが、全体的に白っぽい髪色が多い気がする。逆にパッと見た感じ、俺たちのように黒に近い色が見当たらない。


「それは多分、『白亜ハクアたみ』の血筋が多いからだと思います」

「「『』?」……ですか?」


 セージは「はい」と頷くと、自身の髪を一房掴んで見せる。


「『白亜ハクアたみ』とは、このように生まれながら白い髪を持つ民のことです。僕は純血ではなく普通の人間との混血で、どちらかと言えば血筋的には普通の人間に近いです。なので、このように毛先まで白くはないのですが……。純血の方や純血に近い方々は、とても美しい白い髪をお持ちです」

「えーっと。あー、質問なんだが。その『白亜の民』と『』って、どう違うんだ?」


 セージは俺たちにも分かりやすく説明するためか、少し考える素振りをすると「そうですね……」と指を立てた。


「一つは魔力の違いでしょうか。『白亜の民』は膨大な魔力を有しています。簡単に例えるなら……。その方の元々持つ素質や属性にもよりますが、僕がコップ一杯分の水を魔力で注ぐのが精一杯なのに対して、白亜の民の方は十杯も二十杯も簡単に注いでしまいます。また基礎の魔力の量が違うので、普通の人間が一日で一つの畑に桶で水をまくのがやっとだとすれば、白亜の民は隣の畑や、村に一日中雨を降らせるのも簡単です」


 なんとも分かりやすい説明。


「なるほど、根本的に魔力の質や量が違うのか」

「はい。僕には無理ですが、純血の民の方で本気を出せばを、僕は知ってますので」


 なんか今、サラッとセージが笑顔で怖いことを言った気がするが、聞かなかったことにしよう!! 隣の伊織も青ざめてるあたり何か聞いたが、俺は何も聞かなかった! 何も聞かなかったことにする!!


「ほ、他には何か違いとかあるのか……?」


 俺は話をそらすように、セージに白亜の民と人間の違いを聞く。セージは顎に手を当てながら「そうですね……」と、思いつく限りのことを考える。


「基本的に寿命が違います。魔力の関係なのか、純血の方ほど実際の年齢よりも若く見えたりします。僕は人間の血の方が濃いので、あまり見た目と年齢は変わりません。言わば純血の民ほど『』、と言えます」

「『』……? 『』じゃ無いのか?」


 セージは「はい」と頷くと、どこからか杖を取り出す。その長さは軽くセージの背を越すほどの長さだった。


「まって、その身の丈ほどもある杖どっから出した?」

「純血の白亜の民の皆様は大変寿命が長く、天命をまっとうされる前に大体が……」

「スルーかよ!?」


 セージは、それはそれはマイペースだった。多分一度集中したり語り出すと、話の腰を折られたり、他の邪魔な……。どうでもいい話などは、全く聞かない。と言うより、口を挟ませないタイプだろう。


(なんと言うか……この短時間で『セージなら有り得そう』と、納得しそうな自分が怖い……)


「……と、言うことになります。理解していただけましたか?」

「え? 話し終わったの? ちょっと考え事してて聞いてなかった……」

「いや、聞かない方がいいですよ。ヤヒロさん……」


 余程酷い話だったのか、笑顔のままのセージとは対照的に、伊織は口元に手を当て、顔が真っ青になっている。まってまって、それ逆に気になるヤツ。君たち一体、何を話してたの!?


「よく聞く神話の話や、昔の人々は……このようにして殺されるのですね……」

「ねぇ、マジでなんの話してたの? お兄さんめちゃくちゃ気になるよ!?」


 何度聞いても、伊織は首を横に振るだけだった。




 意味深な言葉を残し、伊織はそれ以降、頑なに口を開こうとはしなかった。

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