第13話 〜お兄ちゃんはやっと街に向かうようです〜

「さすがはイオ。と、言うか……やっぱり凄いな、お前は」


 俺たちは先程、伊織の指し示した方角へと歩きながら、街を目指していた。


「いえ、それほどでは……。夜には星座を追うという方法もありますが、こちらの世界と私たちの世界では、星座の位置は当てにならないと判断したので。まだ日が登っている間で本当に良かったです」

「確かにな。まだこの世界について分からないことだらけだから、俺たちの世界と同じという考えは、多少捨てた方がいいよな」


 俺と伊織は道を間違えないように、地図を慎重に確かめながら話す。

 一方の妹とセージはというと、キミーの枝に腰かけながら会話をしている。妹がこんなにも初対面の人と打ち解けるのが早いのは、セージの人柄の良さのおかげだろう。キミーも二人を乗せながらどこか嬉しそうに、俺たちの少し先を歩きながら、歩幅や速度を合わせて歩いてくれる。


「正直言うとさ。俺とヒナだけだったら、きっとココらでゲームオーバーだったよ。マジでイオがいて助かった。ありがとうな」


 伊織はパチクリと驚いた顔をすると、ふいっと顔を逸らし「いえ、大したことはなにも……」と小声で言った。この幼なじみ、素直ではないが照れると耳が赤くなる癖がある。クールに見せてるが、本当は照れてるのだろう。


 俺がクスクス笑うと、不服そうに睨まれた。まぁ、そういう所が自慢の幼なじみの、可愛い一面の一つだ。


「ヒロくーん、イオー。なんか楽しそうな話してるのー? 私も混ぜてよー!!」


 妹はまるで鉄棒に足をひっかけるように枝に膝をひっかけては、ぶらーんとぶら下がりながらこちらを見る。


「何も面白い話なんてしてねーよ。危ねーからそれやめろ! あと、腹見えてんぞー」

「ぬっ! ヒロくんのえっち〜!」


 妹はどこも恥ずかしげもなく枝に座り直すと、膝丈近くあるブカブカのTシャツをポンポンと、軽く叩いて元に戻した。


「あの、ヤヒロさん……。ヒナにはもう少し、女性としての意識を持たせた方がいいのではないでしょうか?」

「それは兄貴である、俺としても同感だ。しかしあの妹が、それを素直に聞くと思うかね?」


 伊織は地図で顔を隠しながら「思いません……」と、恥ずかし気味に言った。

 ウチの妹も伊織程ではなくとも、少しは見習ってはくれないだろうか?


「『女子力』って何かねぇ〜。俺は男だから、サッパリ分からん」

「まぁ『女子力』と一括りに言っても、価値観は人それぞれでしょうし。ヒナも年頃の女性のように、羞恥心を持っていただければ、少しは変わるのでしょうが……」

「あの引きこもりにそれがあったら、こっちも苦労しねーよな」

「全くもって、同感です」


 妹の将来を考えると、不安しか湧いてこない俺と伊織は、同時にため息を着く。ふと、それが可笑しくて、二人して笑い合う。


「ねー! やっぱりなんか、二人で面白い話してるでしょー! 私も混ぜてったらー!!」


 振り返りながら妹は頬を膨らませ、手足をジタバタさせては、不満そうにこちらを見ている。


「今後の方針について考えてんだよ! お前の学力が落ちないように、こっちでも伊織先生がビシバシ鍛えてくれるってさー!!」

「そうですよー、ヒナ。現実の世界に戻ってから赤点で補習なんて、私の家庭教師としてのプライドが許しせんよ!」

「ひゃ〜! 異世界ココまで来て、勉強は嫌だー!!」


 妹の叫び声が森中に響く中、ようやく森の終わりが見え始めた。


「あ、見えました! あそこが僕が言ってた街です!!」


 セージが遠くを指さして、俺たちに報告してくれる。




 どうやらココからが、俺たちのファンタジーな異世界生活の本番が、始まろうとしていた……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る