3章 捜索の始まり


「そういえば、衛視隊の方でも調査は始まってるみたいですね」

ジャネットはふと昨晩の件を思い出す。

眼下を走り抜けていった武装した男たち。

あれは確か、衛視隊に支給されたそれだ。

「ではエリオノーラさん。前金くらいは仕事をいたしましょう」

依頼人が去った室内。

二人はしばし顔を見合わせ、次の行動を思案していた。

「ジャネット…」

相変わらずねという顔で助手を見る。

「前金以上の働きをするのですよ。そうしないと、報酬はいただけないわ」

「彼らが現場に向かったなら、調査も行った筈ですね」

話をすり替えたようだ。

「そうね、何はともあれ聞きに行ってみよっか」

「はい」

荷物をまとめたジャネットが戸口へと向かう。

「闇と風の妖精さんはお留守番ね。行ってきます」

エリオノーラが虚空に向かって声をかけている。

「(また独り言…)」

いつものことねと気に掛ける様子もなく、エリオノーラが出てくるのを待ち扉へと手を触れる。

「真、第一階位の封。封印、閉鎖――施錠。」

「もう、心配性だなあ。ちゃんとお留守番は頼んだのに」

魔法の鍵をかけたジャネットにフフと笑う。

「この前エリオノーラさんが鍵をなくしたからでしょ」

「あ…」


「確かこの辺りだけど…」

衛視隊で聞いてきた殺人現場へと向かう為、商店街を歩く。

「あ、あそこ」

ジャネットが立ち止まり指をさす。

角を曲がり小路を進んだその先に、数人の衛視の姿が見えた。

一件目の殺人現場。

その中で見知った顔を探す。

衛視長の一人、グレイソンには少しツテがある。

調査をする男たちの頭を見比べていく。

「確か一番薄毛の…」

失礼な話だが、後ろで指示を出している男がそうだ。

「おや、グレイソンさんではないですか。奇遇ですね」

すかさずジャネット が声をかける。

「って、私たちはグレイソンさんに会いに来たんだよ?忘れちゃったの?」

エリオノーラが首を傾げる。

「相変わらず仲がいいな。事務所は上手くいってるのか?」

呆れ顔のジャネットとエリオノーラの顔を交互に見やる。

「おかげさまで」

エリオノーラがフフと笑う。

「逢いに来てくれたのは嬉しいが、ここは今調査中だ。あまり動き回らないでくれよ」

衛視に指示を出しながら二人に対応する。

「はい。私たちも今回の事件でお仕事をいただきまして。お話を聞きたいなーと」

「ほう…」

少し思案顔を浮かべ、

「おいお前たち、サボるなよ」

部下にそう言うと、歩き出す。

「あ、えとっ?」

戸惑うエリオノーラ。

ジャネットが無言でその手を引き、グレイソンの後を追う。


「で、何が聞きたいんだ?」

衛視たちの様子の見える路地裏。

壁に寄りかかり、腕を組む。

「2日前の事件について、です」

「ん、それだけでいいのか?」

ジャネットに目を向ける。

「コホン」

エリオノーラの咳払い。

「そうですね。私たちの目的は犯人の捕獲です」

じっとグレイソンの姿を見つめている。

「続けてくれ」

「事件について、現在分かっていることは全てお聞きしたいです」

「ふむ」

「犯人を知っているなら教えて下さい」

そう言ったジャネットの顔をじっと見つめるエリオノーラ。

「ジャネット…それを知っていれば、事件は終わってるんじゃ?」

不思議そうな顔で呟く。

その後ろチラと、グレイソンが彼女の荷物に何かを挿し込んだのが見えた。

「被害は今の所、三件…一人目はマーカス。三日前に襲われ、翌朝死体で発見された」

彼女らに背を向けるようにグレイソンは歩き出す。

「二人目はカスパール。二日前の夜だ」

立ち止まり、空を仰ぐ。

「三人目、昨日の夜はノイラ。幸い彼女は一命を取り留め、今は家で療養中だ」

悔しげな背中が再び歩き出す。

「俺たちじゃぁそれくらいしか、出来なかった」

緩く手を振り、グレイソンは現場へと戻る。


「全て夜の犯行ですか。連続的に起きているところからして、今日も怖いですね」

顎に手を当て、思案顔をするエリオノーラ。

ジャネットはその背中にサッと手を伸ばす。

「えっ?」

「これを」

ジャネットの手には小さな紙切れが握られている。

開くと、先程の三件の事件のあらましが書き記されていた。

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