1章 殺人事件

ここはキングスフォールのとある探偵事務所。

冒険者を引退した二人が、ギルドには届かない声を解決する。

そして今日も、

彼女らの前には依頼人の女性が座っている。


女性の名はルミナス。歳はそう、20を少し過ぎたくらいだろうか。

暗めのローブの着こなしは、魔術師ギルドの門徒を連想させる。


「…という訳なんです」

ルミナスは続けた。

「カスパールの命を奪った、犯人を…」

一呼吸、大きく息を吸い込む。

「ぜひ見つけ出して頂けないでしょうか」

顔を上げ、真っすぐに探偵の姿を見つめている。

その瞳の色が滲んでいるのはおそらく涙のせい、だろう。


傍らに立つルーンフォーク、助手のジャネットがチラチラと視線を送る。

その先には、椅子に腰かけ悩ましげな表情を浮かべるエリオノーラの姿がある。

この事務所の主役、探偵だ。


カスパールと言う名には聞き覚えがあった。

確か、二日前に惨殺された男の名だ。

「ふむふむ。殺人事件ですか…」

エリオノーラはしばし思案の表情を浮かべてみせる。

「受けるの?受けないの?」

それを見て、助手が小声で耳打ちする。

「そりゃぁもう、受けるに決まってますよ!」

「えっ」

二人とも、思いがけず大きな声が出た。

「だって、こんな哀しい事件、早く終わるに越したことないじゃない?」

「それはそうですけど、絶対何かに巻き込まれますよ、この前だって……」

安請け合いに胸を張る探偵の姿に、ジャネットが思わずボヤく。

「何言ってるの。この前だって無事解決できたじゃない」

エリオノーラは得意げな笑顔だ。

「ぶ、無事?」

相変わらずの苦笑い。

そんな二人のやり取りを見て、ルミナスの表情が少し緩んだ。

「それに…」

いつになく真剣なエリオノーラの顔。

「目の前で涙を流してる方を見て…」

ジャネットの口元が僅かに綻ぶ。

「「見てみないふりは出来ません」」

「でしょ」

ふふと笑う助手の姿に、

「もうっ」と、探偵がごちた。

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