疼き

夕暮れのフライトは幻想的だ。

翼下から受ける陽が、白い機体と近景の雲をくれないに染め上げ、翼上から叙々に、墨を落としたような漆黒に支配されてゆく。


ふと、あの日見た宵の明星を思い出した。


解っている、この想いは当分続くのであろうと。

己れの弱さを何度も自身で罵倒した。しかし、置き去りにした心のうずきを抑えることが出来ない。


「女々しいぞ」

いっそ彼女からその言葉が聞けたなら、少しは楽になれるだろうか……


暗闇の窓に目を移す。

眼下には、感傷に浸る暇など無いと言わんばかりに、函館の細くくびれた灯が燃えていた。



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