五日目の月

漆黒のヴェールを幾重にも織り込み、形成された一夜いちやという現象の一刻いっこくは、それぞれが同じように見えるも、ひとつとして同じものなどない。

水面を照らす、月の名を知らぬ……

五日目の月にはなぜそれに、上弦やら下弦、小望やら十六夜、立待やら寝待など、別の呼び名が無いのかと私はいぶかった。その月は荘厳なる闇を、湖畔の静寂しじまをもって見事な迄に演出していた。



明けるのだろう、

そうとも、


明けぬことはなかろう。



・・・


長編ミステリー「終天の朔」

序章より


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