14

俺は家に帰ると自室で制服を脱いでTシャツとハーフパンツになる。

部活でわかったが、力を覚醒以前くらいに抑えるのは特に問題ないようだった。

ある意味「本気を出す部活」だからちょっと意思に反しているが……。

ベッドに横になり昨日から今日にかけてのことを考えると頭がいっぱいになる。

(とにかく朝天造を守ることだ……)

琴姿も兄に守られて生きているのだろうか?

そう考えると人生って、とか兄妹って、とか、人の幸か不幸か、とかいろいろとりとめなく頭に浮かんでくる。


一時間近く経っていたらしい。

「ご飯よー!!」

母の声がする。

よっ、とベッドから起き上がると時計を見る。19時半。

隣のドアが開く音がした。俺より早いって……。

朝天造が階段を降りるのを後ろから追いかける。

「おい、熱は下がったのかよ」

「まだちょっとあるけど別に他になにも症状でてないし」

階段をおりきったところで「おなかすいたぁ!」と叫ぶ。俺のお腹もグーッと鳴った。

テーブルにはたくさんのおかずが並んでいた。

特に薄い豚肉に巻かれたアスパラガスの太さに目が行く。

「今日とれたてなのよ、アスパラガスってとにかく生えるみたいな意味らしいわよ」

新鮮なアスパラガスは、たしかに普段食べるものとは段違いにプリっとしていた。筋っぽさが全然ない。

他にも鯵の南蛮漬け、新鮮なトマトのサラダ、味噌汁はわかめと豆腐、千葉といえばビワ(これはお隣の木がうちの方にも入ってきてしまっているので切ろうとしてたところをそのままでいいのでと言ってもらっているのだ)いつも3人しかいない食卓なのに、少なくともおかずは2品。汁物は絶対ついている。

「かーちゃんはこういうの苦にならないの?」

「働きながら全部やってる人もいるんだから、主婦なのに手抜きなんかできないわよ」

「今日もおいしい!」

朝天造が満面の笑みをみせる。

ほんとうにおいしいものが好きなんだな、という顔だ。

「そうだ、かーちゃんって兄がいるの?」

母親の顔が一瞬固まった。どう答えていいかわからないような顔だ。しかしすぐにいつものやわらかい笑顔になって「いるわよ。兄と私も年子だった」

と答える。

「へぇー!!おんなじだぁ!」

汁物を流し込んでビワに手をのばそうとしている朝天造があどけない顔で言うが母の顔はやはり一瞬固まったのを俺は見逃さなかった。

「どうしてるの、お兄ちゃん。私たちからしたらおじさんでしょ?あったことないよね?」

朝天造がビワの皮を手でむきながら母の方を見ないで言う。

母は作り笑いを浮かべた。「死んじゃったのよ」

「えー、なんか……ごめん」

朝天造は普通にバツが悪そうにビワを一瞬皿に置いた。

「いいのいいの」母があわてて取り繕う。

なんとなく無言のまま、俺も朝天造もビワを食べ終えると「ごちそうさま」と自室に戻る。

特に会話をせず、俺は自室で買ってもらったばっかりのスマホをいじると、床についた。ほどなくして深い眠りが俺を包み込んだ。

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