第12話、陽の元へ出ていくための、ご都合主義的ミッション




断崖の先にある石碑、あるいはお墓のようなもの。

君の後を追うようにして周り込むと、それには何やら文字が刻まれていた。



『……ん~? お約束というかなんというか、言葉は通じるのに、やっぱり文字は読めないのか』


識字の魔法もあるにはあるけど、あいにくのところおれっちは覚えていない。

となるとこの世界では、ただのしゃべる猫になってしまうわけだが。


「偉大なる魔……ソーラ……この世の礎となり、ここに眠る」


だが、何やら言いよどんでいる部分もあったが、君にしてみればその限りではないらしい。


『……なるほど、それであの娘は、ここに来てたのか。案外出会ったのは偶然じゃなかったのかもな』

「……うん」


ソーラは、君と妹ちゃんのお母さんの名前。

二人の母はこの世界ではなく、ユーライジアにて天寿を全うしている。

おそらく、その情報を知りえた誰かが、ユーライジアの世界に繋がるこの場所にこれを建てたのだろう。


あるいは、ここがこの世界から剥離した場所の真上であるが故か。

どちらにせよ、今こうして娘である君がここに訪れたように。

これは、彼女の死が、残されたものを繋げるための大事なもの、だったのかもしれない。



と、そんな風に感傷に浸っていた時だった。

どうやっても気品漂う君にはど似合わない、今翼を隠したその背中にある荷物袋が、かなりの光量をもって光りだしたのは。


いや、光っているのは袋ではなく、その中身らしい。

ただの光が透けるほど薄いものでもないので、それは十中八九魔力の光なのだろう。



「……?」


それに気付いた君は、僅かばかり辺りをきょろきょろ見回した後。

おれっちのほうを見やり、はっとなって荷物袋を下ろす。


案の定取り出したるは、赤仮面……妹ちゃんから渡された、ヨースの持ち物だというあの日記めいた本。

すぐさまページをめくるのを見て、おれっちもそれを目にしようと素早く君の肩上に飛びつく。


「…………ヨースの字」


不思議そうに、しかし確信をもって呟く君。

そんなことまで知っているのかと半ば感心しつつも、おれっちはさっきまでなかったはずのその文章を見やった。



~星の集め方の基本~


その1、周りのみんなの、手助けをする。

その2、周りのみんなを、感動させる。

その3、周りのみんなと、仲良くなる。



本日までの獲得星数……0

目標達成まで後……100



星を獲得するための使命(ミッション)その1。

『海の魔女』、あるいはその眷族を仲間にする……獲得星数、五つ。


その2、魔の棲まう森の中で人助け……獲得星数、三つ。


その3、魔の棲まう森の中で魔物退治……獲得星数、マイナス一つ。



使命に成功すれば、示された星を獲得できます。

失敗の場合、原則として獲得星数は0です。





「……」


必要最低限で、事務的。

君はヨースの自筆だと言っていたけど。

実際にヨースが書いたわけじゃないんだろう。

ヨースは、『光(セザール)』の魔法を駆使し、剣盾を持って戦う騎士であるが。

十二の魔法の中では希少の部類に入る、『時(リヴァ)』の魔法も得意としている。


時を止めたり、過去や未来にいったり、そんなだいそれたことはできないが。

これから先に起こる未来を予知するという力を持っていた。

それがどこまで正確にできるのかどうかはよく分からないけれど、この本はおそらくその力が付加されているのだろう。


となると、この使命というのは、これから君に起こる未来なのかもしれない。

こんなしち面倒くさいことするなら居場所を書いてくれれば楽なのになんて思ったおれっちだったけど。



「一番め、失敗してる……」


当の本人である君は、そんなこと微塵も考えてはいないようだった。

どこまでも真剣に考え、取り組もうとしている。


それが君の生来の純粋さという表現で足らないのならば。

そこにあるのは、ヨースへの信頼。

もっとも、おれっちにしてみればそれを否定するつもりは毛頭ないんだけどさ。



『失敗? それじゃあ、この海の魔女ってのは……』

「うん。ファイカさんのこと……だと思う」


君自身、記憶がおぼろげなのかいまいちその言葉に力はなかったが。

会話もろくにできずに逃げられてしまったのは、君の独り立ち……あるいは贖罪の旅という意味合いにおいて、失敗といえば失敗かもしれない。


おれっちが邪魔してしまった可能性も否めないが。

おれっちが予想するに、これは難易度の高い使命だったんだろう。

いきなり星の数五つというのは、言い訳じみておれっちにそう思わせる。



『……まぁ、この文字の出現よりも前だったし、しょうがないよ。それに、まだ完全に失敗したわけじゃないだろ? 逃げられたのなら、会いに行けばいい。彼女の家にさ。知ってるんだろ、ティカ?』

「うん。行けるかどうかは分からないけど……」



頷くも、曖昧で意味深長な様子の君。

おれっちは、その意味をすぐに知らされることとなる。



            (第13話につづく)







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