14 運び屋:Rig
冬の早朝。まだ冷え込むが、夜はすっかり明けていた。
店の入っているビルの表に、呼び出した
「
呼んでおいた馴染みの
幼い外見と行動の子供っぽさから、あまり名の売れたドライバーではないが、
「急ぎの用でもあるンか?」
「いえ、まだ掛かりそうなら、これからクエストでもやろうかと」
「ゲームの話かよ」
いつもこんな感じなので一見さんの心象は最悪らしいが、
ごもっともだが、それで商売が務まっている
そんなこんなで待つこと三十分。店の中からようやくマキシが出てきた。
白い猫耳パーカーを目深に被り、入ってきた時とは打って変わって、覇気のない様子でヨロヨロと歩いている。
「ずいぶんと、
「ひどい目にあった」
「まさか見てくれのまンま、あっちの方も
笑いながら冗談を言っていると、一瞬で
「わかった。すまン。俺が悪かった。だから店の軒先で刃物を出すンじゃないよ……危なっかしくてしかたねえ」
その刃は
「それで、必要な情報は引っ張れたンか?」
「もちろん。散々、頭ん中も身体も
そう言いながら足をモジモジとさせて、口元をゴシゴシと拭っている。
――これだけ見てりゃ、年相応の娘っ子なンだがな……
そんなことを考えていると、摘まんだままだった
「
「良くない予想が当たったンか。
「
そう言ってマキシは、
「乗りな」
「お客さん、どちらまで?」
マキシが後部座席に乗り込んだのをバックミラーで確認し、タクシーの運転手めかして聞いた。
「場所は七十八区、御岳の山中、大急ぎで」
「了解っス」
「この音……もしかして、機械式の自動車?」
「分かるっスか? 嬉しいっスね。さすがにエンジンを回しているのはガソリンじゃなく、センサ・ネットっスけどね。ハイブリッドってやつっス」
「何でまたそんな手間のかかる車を?」
「
そのパワフルなトルクをハンドルとクラッチで滑らかにコントロールしつつ、法定速度を無視して車を発進させた
「制御が
「そこは腕の見せ所っスよ。そもそも貧弱なトルクの
だからマキシにはイメージしにくいのだろう。
早朝という事もあってか車も
エア・ビークルの無かった大昔は、ニュートウキョウの大動脈として混雑していたらしいが、今は輸送手段の発達で、そこまで重要視されることもなくなった。
何にせよ、急いでいる身からすれば有難い。このままのペースで外環まで出れば、目的地は直ぐだ。
「
その
『現場にはカドクラの
その姿はインターフェース用の幽霊であり、クローム・チップでサブリンクを接続した
「カドクラの特殊部隊まで出張ってンのかよ……送ったら俺は帰っていいか?」
「駄目。
「その人、
「おいこら
「自分、車の分かるお客は大事にしたいっスから」
「
「贔屓にはしてくれるけど、
「じゃあなんで
「ぶッ――お前、さっきの仕返しか?」
「自分、売りはやってないっスよ」
言ったマキシは興味の無さそうな顔。
一方、言われた
動揺したのは
『私も
「
『えっへっへ――』
笑う
「どうした?」
『……マキシちゃん、やっぱり追手が居るわね』
「サイボーグの嬢ちゃん、お前さんはお前さんで、一体誰に追われてンだ? 俺に依頼をしてきた奴も
そう、マキシを問い詰めようと思った矢先だった。
『
データは追手の車種、そこから発進する
「
「了解っス!」
首都高を流していたマキノ・ロードビーストが、鞭を入れられて
前方を軽快に走っていたスポーツ・カータイプの
「嬢ちゃん!」
シートに押し付けられる感覚を味わいながら後ろを振り返ると、云われるまでもなくマキシが
白い猫耳パーカーが朝日を浴びてはためいている。
見え隠れする銀の腕、手には、例の
――キィンッ!
その独特の発射音が響いて、後方の車両から浮き上がり、チェーン・ガンの射程に入ろうと飛来した小型の
首都高に爆炎の華が咲く。
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